2023年08月16日

Z世代を1000文字くらいで語りたい(8)-テーマパークに着いたらまずすること

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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1――ネットショッピングがない時代を知らない世代

Z世代(1996年~2012年の間に生まれた層)の特徴を語る上で、欠かせない要素として「デジタルネイティブス」がある。デジタルネイティブスに関しては度々筆者もレポートで触れているので、ここでは詳しくは言及しないが、すごく簡単に言えば、インターネットがあるのが当たり前の時代に生まれた人々のことを指す。1995年にWindows95が発売したことで、家庭レベルでもインターネットは普及し、我々は正にゼロックスパロアルト研究所のマーク・ワイザーが提唱した「いつでも、どこでも、使いたいときにインターネットを使用することができる社会」=ユビキタス社会に身を置いているわけだが、デジタルネイティブスの議論においては、このユビキタスの側面とテレビや本といった従来のメディアとの情報収集の仕方や情報量の比較の側面に焦点が当てられることが多い。しかし、筆者は、インターネットの登場により、消費の仕方に大きな変化が生まれ、その影響を大きく受けたという事がデジタルネイティブスを語る上で重要な要素であると考えている。具体的に言えば、1999年 Yahoo! JAPANが「ヤフーオークション」を開始し、2000年にはAmazon Japanが サービスを開始するなど、Z世代の多くはインターネットショッピングという選択肢がない時代を知らないのだ。筆者を含め、それ以前の世代はそれまで存在しなかったインターネットという得体の知らないモノに自らを「適応」させてきたわけだが、「ネットショッピング」についても我々は、元々対面販売や、あっても電話やカタログ通販というチャネルに、ネットショッピングという新しい選択肢‟を“追加していったのだ。そのため、未だにネットを介した購買に対して居心地の悪さや不安を感じる消費者がいるのも確かである。

一方で総務省統計局の「2021年家計消費状況調査」1の結果をみると、2021年の二人以上の世帯におけるネットショッピングを利用した世帯の割合は52.7%と、2002年の調査開始以来、初めて50%を超えた。我々は、本や服に留まらず、旅行や保険などの無形物を含め、ありとあらゆるものを、ネットを介して購入している。Uber Eatsが、牛乳を切らしちゃっているのならUber Eatsで頼めばいい、といった旨のCMを放送していたが、ネットを使えば我々は今や牛乳1パックすらも、自分の足で買いに行く必要なく手に入れることができてしまうのである。
図1 二人以上の世帯におけるネットショッピングの利用率の推移
このようにネットショッピングが普及するほど、Z世代を始めとした若年の消費者の購買行動は、よりインターネットショッピングの影響を強く受ける事となる。中でも、「メルカリ」を始めとしたフリマアプリについて言えば、それ以前の世代とは大きく異なった独自の消費文化や価値観を擁している。
 
1 総務省統計局家計消費状況調査 https://www.stat.go.jp/data/joukyou/index.html(2023年8月4日閲覧)

2――消費での失敗に対する大きな受け皿としてのフリマアプリ

2――消費での失敗に対する大きな受け皿としてのフリマアプリ

フリマアプリへのニーズが高まる背景としては、過去の筆者のZ世代の消費を読み解く5つのキーワードに関するレポート2で挙げた、(1)世の中には同じような消費結果が溢れており、わざわざ自分でそれを消費する必要があるか検討する消費行動が定着している、(2)欲求を満たしたくとも全ての欲求は満たすことができないと理解しているから「消費に失敗したくない」、(3)消費や嗜好サイクルが加速化・多様化するなかでコストや時間をかけずに自身のニーズを満たしたい、といった特徴が関係していると筆者は考える。所有することよりも、その目的を達成することに高いプライオリティが置かれているからこそ、サブスクリプションやレンタルといった、所有しないでニーズを満たす手段や、新品をわざわざ購入しないでそれなりに使えるものをフリマアプリで購入する手段が選ばれているわけだ。2021年にメルカリがタレントの草彅剛を起用したCMで「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」と発信していたメッセージは、現代消費者特にZ世代の消費行動をうまく汲み取っていたとも言えるだろう。

またフリマアプリは、新品を購入することで発生する正規価格を支払わなくては所有できないという心理的負担を、セカンドハンドならば総じて正規価格よりは安く購入できるという、所有することへのハードルを下げただけではなく、仮に自分にとって必要なくなったり、思っていたイメージと違う商品を購入してしまっても最悪メルカリに出品すればいいかという、所有(購入)したことで生まれるリスクを軽減する術(すべ)となっているのである。そのため、Z世代においては、欲しいモノがあったらまずフリマアプリをチェックするという購買行動が身についている者も多く、特に「欲しいけれどもそこまでは欲しくないモノ」や「即時的でその瞬間だけ必要なモノ」に対する消費欲求に対して、安価で購入でき、飽きたり必要が無くなったらすぐ売りに出せるということが、消費を行う上での大きな受け皿となっている。
 
2 廣瀨涼「Z世代の消費を読み解く5つのキーワード」基礎研レポート2023/06/07
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75041?site=nli

3――テーマパークに着いたらまずすること

3――テーマパークに着いたらまずすること

筆者は若者のフリマアプリにおける消費文化の特質した例として、Twitterで以下のような投稿を発見した。
 
テーマパークに着いたら、まずカチューシャを購入して、それを写真に撮ってメルカリに出品!定価以下で販売すればすぐ売れるから、帰りにコンビニから発送!!
図2 一日で購入、使用、販売、発送が完結する
まさに、この投稿者の消費は、即時的で、その瞬間のために行われているという消費を体現していると言えるだろう。確かに、日常でそのカチューシャをつける機会はないし、テーマパークに行く仲間が常に同じわけではないから、次行く時にも同じようなモノを買うかもしれないし、そのようなモノが箪笥の肥やしになっていくのならば、まだ市場価値があるうちに手放すのは合理的と言えば合理的である。仮に2000円で買ったモノを1800円で売ったとしても、200円で一日中使用できて、且つ家で補完しなくてもいいというメリットがあるのならばコスパが良いと言えるだろう。あくまでもその日、その場所でのニーズを満たすことが目的であり、現在志向な消費の側面も垣間見ることができる3
 
3 筆者自身このような消費行動は合理的ではあるが、出品する際は新品の状態の写真が撮られるが実際は1日使った使用感のあるモノが送られてくるが故に、写真のクォリティとは異なる製品を発送する、購入するリスクが販売者・購入者それぞれにあると考えている。

4――Z世代のフリマアプリの消費文化

4――Z世代のフリマアプリの消費文化

総務省「令和3年通信利用動向調査」4の年代別インターネット利用率をみると、80代は30%前後、70代は60%だが、それ以外の世代は80%以上がインターネットを利用していることがわかっている。
図3 年代別インターネット利用率
前述したネットショッピング利用世帯の割合も考慮に入れれば、消費者の多くがインターネットを利用していて、半数がインターネットショッピングを活用しているわけだ。
図4 年代別フリマアプリ利用率
さらに、少しデータが古いが、博報堂生活総合研究所「消費1万人調査(実施期間:2019年5月28日~6月1日)」5のフリマアプリの利用率をみると、購入では‟15~19歳“が47.3%、‟20代”で36.3%、出品・販売では‟15~19歳“が38.9%、‟20代”で33.5%となっており、若年層の利用率が圧倒的に高いことがわかっている。その後コロナ禍で全体的に利用率は上昇しているはずだが、若者の利用率が他の世代よりも高いという傾向は変わらないと思われる。ちなみに、ポイントサービス「Ponta」を利用している人と対象に限った調査ではあるが、株式会社ロイヤリティ マーケティングが行った「フリマアプリに関する調査(実施期間:2021年11月26日~12月3日)」6によれば「メルカリ」の利用率は72%で、年代別にみると博報堂生活総合研究所の調査同様、男女ともに年代が下がるにつれて利用率が高くなっていることがわかっている。
図5 年代別メルカリ利用率
前述の通り、‟15~19歳“の38.9%、つまり若者の4割がフリマアプリでの出品や販売経験をもっており、。SMBCコンシューマーファイナンス「10代の金銭感覚についての意識調査20226」によれば、10代の18.9%がフリマアプリで収益を得ており、46.4%が「得ていないが得たい」と考えているという。所有物を手放すことで収益を得て、次の消費に活用するというサイクルが定着しつつあると言えるだろう。
 
4 総務省「令和3年通信利用動向調査」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/220527_1.pdf
5 博報堂生活総合研究所「消費1万人調査」2019/07/16 https://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2019/07/20190716.pdf
6 株式会社ロイヤリティ マーケティング「25,000人に聞いたフリマアプリの利用実態」2022/01/27
https://biz.loyalty.co.jp/report/019/
6 SMBCコンシューマーファイナンス「10代の金銭感覚についての意識調査2022」2022/08/25
https://www.smbc-cf.com/news/datas/news_20220825_.pdf

5――さいごに

5――さいごに

Z世代に限らず多くの消費者が「即時的な満足」を求めるようになり、「その瞬間を楽しむタイプの消費」が目立つようになったからこそ、一つの消費対象に対して固執するよりも、消費一つ一つにかかるウェイトを軽減し、スピード感や手軽さ、「ファストな経験」や「ファストな消費」が求められている。だからこそ、我々は、サブスクやレンタル、リースといった所有しない選択肢も享受するし、一度使えば満足になり、まだ使用感が薄いうちにすぐフリマアプリに出品する。次使うことを考慮して購入するよりも、その時必要というニーズを如何に手軽に、より早く満たせるかを求めているともいえるかもしれない。このような消費者の欲求を請け負う大きな受け皿としての機能がフリマアプリは期待されているのだ。

(2023年08月16日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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