2023年08月08日

不動産投資市場動向(2023年第1四半期)-不動産売買は急減速。国内市場外で高まるリスクに注視

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.317]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1―国内全体の不動産取引の動向(2023年第1四半期)

MSCIリアル・キャピタル・アナリティクス(以下、売買データは同社の2023年5月25日の公表)によると、国内不動産市場の2023年第1四半期の不動産取引総額は約1兆600億円、前年同期比▲36.1%となった[図表1]。この取引総額は、世界金融危機のあった2008年以降で見れば、2009年第1四半期の8,389億円に次いで少ない。高値水準かつ順調な取引量を維持してきた不動産市場だが、ここにきて急減速している。
[図表1]国内不動産の売買額(全体、四半期、前年比)
過去5年程の都市別の取引額は、概算で東京が約5割、大阪が約1割、東京以外の関東が1~2割、その他が約2~3割を占めていた。しかし、直近の動向を見ると、東京への投資割合は2022年第1四半期が66%、2023年第1四半期が67%と東京への投資割合が増加している。不動産の価格は市況後退局面では、競争力の高い物件・エリアほど価格が下落しにくい傾向があり、リスク回避的な動きが強まっていると見ることもできる。

2―外国資本の国内不動産購入の動向(2023年第1四半期)

また、外国資本による2023年第1四半期の不動産購入総額は約1,370億円で、前年同期比▲42.1%となった[図表2]。2023年5月8日時点の公表から約330億円減少しており、一旦2023年の取引と公表されたが、2022年内の取引であると判明した案件があったようだ。
[図表2]国内不動産の売買額(外国資本の取得、四半期、前年比)
売り主の内訳を見ると、外国資本の売却が48.1%と、2022年通年の25.9%より増加している。諸外国では12月が決算期末である会社が多く、同月に財務改善目的の売却が生じやすい。「2022年の決算期内で現金または売り上げを確保するため、市場価格が下落していない日本国内の不動産を売却した外国資本(売り主)」と、「価格が安定した日本の不動産への投資姿勢を強めた外国資本(買い主)」がそれぞれ一定数いたものと推定される。

3―世界の不動産投資市場の動向

世界の不動産投資市場は大きく減速している。2023年第1四半期の全世界の不動産売買額は2,108億ドル、前年同期比▲51.8%と、2022年第4四半期から2四半期連続の前年同期比大幅減となった。一方で、アジア太平洋は▲35.6%と比較的少ない減少幅となった。

特に不動産投資市場および賃貸市場が停滞している国・都市に拠点を持つ外国資本には、海外の不動産に投資しづらい環境であるようだ。

なお、同じ国・地域でも、事業者の判断や運営するファンドの運用方針によっても投資スタンスが異なり、外国資本とひとくくりにした一様の傾向を見つけるのは特に難しい局面と考える。

4―崩れにくい不動産投資市場と、海外および市場外のリスクの高まり

以前の不動産投資市場なら一定のサイクルが見られた。しかし、現在の国内不動産投資市場は、国内外のREIT・政府系投資機関・私募リートなど、長期保有目的で、一度不動産を取得すれば容易に転売しない投資家や事業者が増加しているため崩れにくい状況だ。市場に供給される物件の数は以前より少なく、都心部の競争力のある物件であれば驚くような価格で落札されることも珍しくない。

一方で物件やエリアにより2極化しており、郊外部のオフィスなどの買い手がなかなか現れない物件もあるようだ。海外不動産投資市場や、金利、経済情勢の動向など、外部の金融環境から国内不動産投資市場の停滞を招く要因の懸念も高まっており、しばらくは多角的に情勢を注視する必要があると考える。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年08月08日「基礎研マンスリー」)

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