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- 機械学習による海外景気イメージの定量化
2023年08月08日
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1―はじめに
海外の情報を定量化するにあたり、現地語の情報をそのまま直接景気イメージに変換(定量化)できれば、日本語情報を利用する(経由する)必要はないが、その場合、どのように「変換器」を作成するのかが課題となる。現地語情報のまま数値に変換できるように学習用のデータセットを用意する必要があるが、そうした「教師データ」を構築することは簡単ではない。そこで本稿では、日本語情報である「景気ウォッチャー調査」を利用して景気イメージを作成している。
一方で海外の情報を日本語化する必要が生じるが、インターネットが普及して以降、様々な海外情報が日本語でも手軽に入手できるようになっている。日本語で入手できる情報は現地語の情報と比較すれば限定されているが、情報量は増えており多様化している。
注意点として、海外経済に関する日本語情報が偏っている場合(例えば、悲観的な情報が多く発信されているなど)、景気イメージに偏りを生じさせる可能性がある。そのため、本稿では(景気イメージを作成する上で)比較的偏りがないと思われる情報源(内閣府の「世界経済の潮流」)を利用して景気イメージ(定量化)を作成し、こうして得られた海外経済に関する日本語情報から作成された景気イメージがどのような動きをしているかを分析した*2。
*1 山本裕樹、松尾豊(2016)「景気ウォッチャー調査を学習データに用いた金融レポートの指数化」『人工知能学会全国大会論文集』
*2 本稿で実施した詳細な分析方法については、高山武士(2023)「機械学習による海外景気イメージの定量化」『ニッセイ基礎研レポート』2023-06-27を参照(本稿ではこのレポートにおける分析手法(2)を記載している)。
一方で海外の情報を日本語化する必要が生じるが、インターネットが普及して以降、様々な海外情報が日本語でも手軽に入手できるようになっている。日本語で入手できる情報は現地語の情報と比較すれば限定されているが、情報量は増えており多様化している。
注意点として、海外経済に関する日本語情報が偏っている場合(例えば、悲観的な情報が多く発信されているなど)、景気イメージに偏りを生じさせる可能性がある。そのため、本稿では(景気イメージを作成する上で)比較的偏りがないと思われる情報源(内閣府の「世界経済の潮流」)を利用して景気イメージ(定量化)を作成し、こうして得られた海外経済に関する日本語情報から作成された景気イメージがどのような動きをしているかを分析した*2。
*1 山本裕樹、松尾豊(2016)「景気ウォッチャー調査を学習データに用いた金融レポートの指数化」『人工知能学会全国大会論文集』
*2 本稿で実施した詳細な分析方法については、高山武士(2023)「機械学習による海外景気イメージの定量化」『ニッセイ基礎研レポート』2023-06-27を参照(本稿ではこのレポートにおける分析手法(2)を記載している)。
なお、10年代後半の米中対立が深刻化した時期企業景況感(BCI)が弱く、消費者景況感(CCI)が強くなっており、景況感指数が企業と家計で動きが異なるが、「世界経済の潮流」の景気イメージを定量化した指数はBCIに近い動きをしている。22年以降の高インフレの時期はBCIが底堅く、CCIが弱いが、この時期の景気イメージも企業景況感の動きに類似している。
次に、定量化した景気イメージを米国、欧州(英国含む)、中国に言及した文章を対象に絞って抽出し、各国別の指数として図示すると図表4のようになる。
図表4の各国・地域の動向を見ると、共通の変動をしている部分が多いが、各国で特徴的な動きをしている部分もある。
次に、定量化した景気イメージを米国、欧州(英国含む)、中国に言及した文章を対象に絞って抽出し、各国別の指数として図示すると図表4のようになる。
図表4の各国・地域の動向を見ると、共通の変動をしている部分が多いが、各国で特徴的な動きをしている部分もある。
例えば、00年代の中国の景気イメージが相対的に良好なこと、世界金融危機直後、欧米の景気イメージが悪くなるなか、中国の景気イメージは相対的に堅調であること、10年代中盤は中国の景気イメージが弱含むなかで、米国の景気イメージが相対的に良好なこと、などの特徴が見られる。それぞれ、00年代は中国が「世界の工場」としての地位を確立したこと、金融危機直後は中国で大規模な財政支出を実施し景気を下支えしたこと、10年代中盤は米国が金融危機後の低金利政策から利上げを開始する一方で中国や新興国の成長鈍化が懸念された時期といった背景がある。
なお、特定の地域の景気イメージが楽観あるいは悲観に偏っているということはなさそうである。
この時期のOECDのBCIやCCIを主要国別に確認すると、図表5・6のようになる。
なお、特定の地域の景気イメージが楽観あるいは悲観に偏っているということはなさそうである。
この時期のOECDのBCIやCCIを主要国別に確認すると、図表5・6のようになる。
各国別のBCIとCCIはその動きが大きく異なっているが、景気イメージ(定量化)とBCIやCCIを比較すると、例えば、00年代やコロナ禍直後の中国の相対的な景気イメージの高さはBCIに一致する。図表3の全体感でも言及したが、BCIは世界金融危機やコロナショックで急速に落ち込んだが、CCIはロシアのウクライナ侵攻後の高インフレの方が深刻な落ち込みとなるなど、「世界経済の潮流」の景気イメージはどちらかというと企業景況感に近い。各国別に見ても、BCIとの類似点の方が多いように思われる。「世界経済の潮流」がGDPなど経済データをもとに景気情勢を記述しており、これらの景気循環が主に設備投資といった企業活動に左右される面が大きいということが考えられる。
ただし、10年代中盤に米国の景気イメージが良好で、中国の景気イメージが相対的に悪いという状況は、BCIともCCIとも一致していない。このようにBCIの動きと景気イメージの動きが類似していない箇所もある。
ただし、10年代中盤に米国の景気イメージが良好で、中国の景気イメージが相対的に悪いという状況は、BCIともCCIとも一致していない。このようにBCIの動きと景気イメージの動きが類似していない箇所もある。
3―おわりに
本稿では、「世界経済の潮流」の景気イメージを定量化し、各国別の特徴やOECDのとりまとめる企業や消費者の景況感との類似性を調査した。
景気イメージを定量化した結果は、全体として見ればそれほど違和感がないように思われる。また、そもそもインプットである日本語情報について、偏りがなさそうなものを選別したこともあって米国、欧州、中国といった特定地域の景気イメージ(定量化)が楽観あるいは悲観に偏っていることもなかった。
ただし、今回はあくまで主観による判断をしており、またこれらの景気イメージは、必ずしも既存の統計で把握できる企業や消費者の景況感と類似しているとは言えないことも分かった。
そもそも今回の景気イメージの定量化では、企業や消費者の景況感をトレースすることを目的としていない。インプット情報を限定して、例えば、日本語情報を「企業」や「消費者」で分類したのち、それぞれを定量化すれば、各景況感の動きと類似する可能性がある。
一方で、今回作成した景気イメージ(定量化)は、もととなる幅広い経済主体・テーマに関する指標、総合的な景気動向を捉えるツールと捉えることもできるため、より洗練させれば、経済分析に利用する余地もあるように思われる。インプット情報をSNSやニュース、インターネット情報から抽出して景気イメージを作成することもできる。高頻度で配信されている情報源をインプットとすることで、速報性のある景気イメージを作成できるだろう。
本稿では海外の景気イメージを数値化するということを目的に、主要国別に分類して定量化することしか行わなかったが、異なるカテゴリに区分したり、細分化したりして、景気イメージの変動を分析することもできるだろう。定量化した景気イメージの数値を追うだけでなく、インプットであるテキストまでさかのぼってその理由を分析するといった活用法も考えられる。
景気イメージを定量化した結果は、全体として見ればそれほど違和感がないように思われる。また、そもそもインプットである日本語情報について、偏りがなさそうなものを選別したこともあって米国、欧州、中国といった特定地域の景気イメージ(定量化)が楽観あるいは悲観に偏っていることもなかった。
ただし、今回はあくまで主観による判断をしており、またこれらの景気イメージは、必ずしも既存の統計で把握できる企業や消費者の景況感と類似しているとは言えないことも分かった。
そもそも今回の景気イメージの定量化では、企業や消費者の景況感をトレースすることを目的としていない。インプット情報を限定して、例えば、日本語情報を「企業」や「消費者」で分類したのち、それぞれを定量化すれば、各景況感の動きと類似する可能性がある。
一方で、今回作成した景気イメージ(定量化)は、もととなる幅広い経済主体・テーマに関する指標、総合的な景気動向を捉えるツールと捉えることもできるため、より洗練させれば、経済分析に利用する余地もあるように思われる。インプット情報をSNSやニュース、インターネット情報から抽出して景気イメージを作成することもできる。高頻度で配信されている情報源をインプットとすることで、速報性のある景気イメージを作成できるだろう。
本稿では海外の景気イメージを数値化するということを目的に、主要国別に分類して定量化することしか行わなかったが、異なるカテゴリに区分したり、細分化したりして、景気イメージの変動を分析することもできるだろう。定量化した景気イメージの数値を追うだけでなく、インプットであるテキストまでさかのぼってその理由を分析するといった活用法も考えられる。
(2023年08月08日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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