2023年07月28日

新NISAでは何にどのように投資したら良いのか-長期の資産形成ではリスクよりもリターンを気にすべき

金融研究部 研究員 熊 紫云

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3――20年後の最終時価残高の分布

ところで、第2章で紹介した最終時価残高はあくまでも全223ケースの平均値であり、各ケースの最終時価残高が平均値になるわけではなく、平均値よりも高くなったり低くなったり、バラツキがある。このバラツキは主として価格変動リスクによるものである。

投資のリスクには価格変動リスクの他に、信用リスクや流動性リスク等がある(図表4)。
【図表4】主なリスクの種類
新NISAの投資対象であるインデックス型投資信託には銘柄選択効果が期待できるため、信用リスクや流動性リスクは最小限に抑えられている。したがって、インデックス型投資信託の投資のリスクは、主に価格変動リスクによるものと考えられる。このレポートでは、リターンのブレおよび最終時価残高のバラツキにすべてのリスクが反映しているものとして分析する。

ファイナンス理論では一般的に投資対象のリターンの分布を正規分布と仮定して、リターンのブレをリスクとしている。リターンが平均値から散らばっているほど、リターンのブレが大きく、リスクが高いとされている。図表5に各投資対象における月次リターン(1984年12月~2023年6月)の最大・最小・平均値と中央値を中心に75%が収まる範囲をグラフで出してみた。細長い線の両端が最大値と最小値で、点線で囲んだ青色の長方形は75%範囲内に収まる範囲を示しており、赤丸が平均値になる。
【図表5】月次リターンの分布
国内債券型のリターンが▲4.1%~3.9%、バランス型のリターンが▲5.8%~5.3%程度に抑えられており、短期的なリターンのブレが比較的小さく、一般的に低リスクで比較的安全な投資対象であると言われている。

外国債券型は▲14.4%~9.9%で、国内債券型、バランス型より短期的なリターンのブレが大きく、中リスク中リターンと言える。

一方、国内株式型、先進国株式型、S&P500、ナスダック100は、下が▲31.1%~▲25.9%で、上が12.9%~23.0%と短期的なリターンのブレがかなり大きく、一般的に高リスク高リターンの投資対象とされている。

短期的なリターンのブレであるリスクが高くなると投資対象の保有時価残高も大きく変動する。さらに、時間の経過とともに短期間の価格変動が蓄積され、リスクが高い投資対象であるほど最終的な時価残高のバラツキも大きくなる。

図表6も図表5と同様の形式で、投資対象ごとに全223ケースにおける20年後の時価残高の分布を示している。20年後の時価残高の最大・最小・平均値と中央値を中心に75%が収まる範囲が表されている。

国内債券型、バランス型へ4つの投資方法で投資した場合の最終的な時価残高は、平均値が低く、バラツキは小さい。バランス型の場合は、最大で2,699万円、最小で1,423万円と、最大値と最小値の差は1,276万円である。短期的なリターンのブレが小さいため、その結果として最終時価残高のバラツキも相対的に小さくなる。
【図表6】20年後の最終時価残高の分布
一方、先進国株式型、S&P500、ナスダック100は、4つの投資方法における最終的な時価残高は平均値が相対的に高いが、バラツキは大きい。ナスダック100の場合は、最終的な時価残高のバラツキが極めて大きく、最大値が1億2,479万円、最小値が1,304万円であり、その差は1億1,175円にもなる。特に、投資元本を早く積み上げた③積立+据置と④一括+据置の最大値が飛びぬけている。これはナスダック100のリターンのブレが大きいことから生じる。
 
過去のデータから、国内債券型、バランス型のような低リスク低リターンの投資対象は、リターンが低くなる代わりに、相対的にリスクを抑えた投資ができる。

一方、先進国株式型、S&P500、ナスダック100といった高リスク高リターンの投資対象は、将来の成長が見込まれ、より高いリターンが期待できると同時に、高いリスクにもさらされる。
 
長期的な資産形成における投資対象や投資方法への選択では、リスクとリターンのどちらを重視すべきなのだろうか。これに対する筆者の考え方を次章で説明したい。

4――リスクよりもリターンを気にすべき

4――リスクよりもリターンを気にすべき

リスクとリターンの関係として理解しておかなければならない重要事項として、一般的にリスクを取らないと、リターンが得られないということがある。逆に、リスクを取ったからといって、必ずしもリターンを得られるわけではないことも真実である。一方で、リスクを低く抑えたい場合はリターンも低くなることを甘受しなければならない。こうした基本的な関係を踏まえた上で、投資対象への選択では、若い人の老後資金等、資産形成における投資期間が長い人は、リスクよりもリターンを気にすべきであると筆者は考えている。

なぜなら、高いリターンが期待できる投資対象に長期投資をすると、時間の経過とともに時価残高が雪だるま式に増えていくからである。一方、短期的なリターンのブレというリスクが高いと、時間の経過とともに最終時価残高のバラツキも大きくなるが、時価残高の増加によるメリットを上回るほど大きくはならないのである。

加えて、一般的に、リターンのブレであるリスクは年率換算した1年間での正規分布の標準偏差で表現されており、上ブレも下ブレも同様にリスクと捉えている。上ブレが大きい場合はリスクも高くなるが、長期投資ではその上ブレはむしろ資産形成にプラスに作用していると考えることができる。

図表7に、投資方法①各投資対象へ毎月5万円積立投資をした場合の最終時価残高の分布に関する具体的な数値を例示した。ここでは、全223ケースの75%範囲の上限と下限に注目してみよう。
【図表7】投資方法①での最終的時価残高
国内債券型やバランス型に長期投資した場合、75%のケースで最終時価残高は1,397万円~1,810万円であり全体的に低水準である。一方、先進国株式型、S&P500、ナスダック100の75%のケースでの最終時価残高は1,745万円~6,393万円とバラツキは大きくなるものの、全体的に時価残高がかなり大きくなる。さらに、たとえ20年後に不幸にして株価暴落が起きていて運の悪いケースに該当したとしても、時間的な余裕が十分にある場合は売却せずに気長に待つことで、株価が回復することが十分期待できる。つまり、価格下落の影響を実質的に回避(なかったことに)することが出来る可能性が高い。

このように、低リスク低リターンの投資対象に投資する場合と、高リスク高リターンの投資対象に投資する場合との最終時価残高の差はもはや回復できないほどに大きくなる。特に75%上限の金額の差は極めて大きい。
 
さらに、長期投資におけるリスクとリターンの関係を分かりやすくするため、図表7にある先進国株式型とバランス型の最終時価残高の最大値と最小値と平均値だけを表示したイメージ図で見てみよう(図表8)。最終時価残高の平均値を上回る金額のケースを上ブレとし、平均値を下回る金額のケースを下ブレとする。
【図表8】長期投資におけるリスクとリターンのイメージ図(先進国株式型とバランス型を例に)
バランス型へ毎月5万円積立投資をした場合の最終的時価残高は最大値が1,889万円で、最小値が1,423万円である。平均値の1,661万円から、上ブレが最大228万円で、下ブレが最大238万円で上ブレと下ブレがほぼ同じである(青い三角形)。

一方、先進国株式型へ毎月5万円積立投資をした場合の最終的な時価残高は最大値が4,661万円で、最小値が1,404万円である。平均値の2,851万円から、上ブレの最大が1,810万円で、下ブレの最大が1,447万円で、最大値と最小値の差がかなり大きく、しかも上ブレの方が大きい(赤い三角形)。平均からの上ブレが大きいため、ファイナンス理論で言うところのリスクはかなり高くなるが、資産形成上はむしろメリットとなっている。

このように、先進国株式型、S&P500、ナスダック100等、高リスク高リターンの投資対象の最終時価残高が高いのは、リターンが高いため、長期投資での複利効果で下ブレよりも上ブレが大きくなり、時価残高の増加に大きくプラスに働いているからである。

図表8の図を見ると、長期投資においては、下の方にある細長く青い三角形のバランス型よりも、上に幅広く拡がる赤い三角形の先進国株式型の方が良いということが良く理解できるのではないだろうか。

リスクを取らないと、リターンは低いままである。短期的な価格変動リスクを過度に恐れてリスクを取らない場合、最終的に十分な資産形成できない可能性が高くなる。同じ金額でできるだけ多くの資産形成をしたいという目的に照らした場合、最終的に資産が十分にできていないことこそが本当のリスクなのではないだろうか。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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