2023年07月28日

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3-2. オフィスビルの新規供給見通し
日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2022年1月時点)」によれば、札幌市は、新耐震基準以前(1981 年以前)に竣工したオフィスビルの割合が35%と、福岡市(36%)と並んで高い水準にある。札幌市では、札幌オリンピック(1972年)の時期に竣工したビルが多く、築年数が経過したビルの割合が高水準となっている。

こうした状況を踏まえ、札幌市は、都心部を対象地域とした「都心における開発誘導方針」等を策定し、容積緩和やビルの建て替えに関する補助制度を策定した。また、2030年度に北海道新幹線の全線開通(札幌駅までの延伸)が予定されていることから、札幌中心部では大規模な再開発が複数計画されている。以下では、「札幌駅周辺」と「大通駅周辺」のオフィス開発計画を概観する。
(1)「札幌駅周辺」のオフィス開発計画
「札幌駅周辺」では、2023年5月に、「北3西4街区」で13階建て(延床面積約1.6万m2)の複合ビル「D-LIFEPLACE 札幌」が竣工した(図表-22 ①)。また、清水建設は「北6西1街区」で「The Link Sapporo」(延床面積約1.8万2・地上13階建て)を開発し、2023年8月に竣工予定である(図表-22 ②)。

翌2024 年は、サッポロ不動産開発が、「北4東4街区」で「創成クロス」(延床面積約1.4万2・地上8 階建て)を開発し、2024 年5月に竣工予定である15(図表-22 ③)。

ヒューリックは、「ヒューリック札幌 NORTH33 ビル」と「ヒューリック札幌ビル」をI期工事・II期工事として段階的に建て替えを行い、大型複合施設「ヒューリックスクエア札幌」を開発中である。I期工事は、2022 年 8 月に完了し、地上11階建てのオフィスビル(延床面積約1.1万2)が開業した。II期工事では、ホテル等が入る複合ビル(20階建て・延床面積約3.3万2(施設全体))が2025年6月に竣工予定である16(図表-22 ④)。また、三菱地所は、「北2西4街区」の「北海道ビルディング」を、ホテルを含む複合ビルに建て替えて、2025年度中の完成を目指している17(図表-22 ⑤)。

2026年以降も、再開発計画が複数予定されている。NTT都市開発は、「北1西5街区」の北海道放送(HBC)本社跡地で、高級ホテルや商業施設などが入る26階建ての複合高層ビルを建設中で、2026年6月に竣工予定である18(図表-22 ⑥)。JR札幌駅南口の「北4西3街区」では、ヨドバシホールディングスを中心に、35階建ての大型複合ビル(延床面積約21万2)を建設する計画で、2028年度の完成予定である19(図表-22 ⑦)。

また、JR札幌駅の東側に隣接する「北5西1・西2地区」では、時間貸し駐車場として利用中の札幌市所有の「西1地区」とJR北海道グループが所有する商業施設「エスタ」の「西2地区」を一体開発する計画が進んでおり、「マリオット・インターナショナル」と提携した高級ホテル等が入る複合ビル(43階建て・延床面積約39万2)を建設する予定である。2028年度中の完成を目指し、完成後はJRタワー(173m)を抜いて道内一の高さ(245m)となる20(図表-22 ⑧)。
図表-22 「札幌駅周辺」におけるオフィス開発計画
 
15 サッポロ不動産開発株式会社「~サッポロファクトリー「第4駐車場 建替え事業」~施設名称を「創成クロス」に決定 創成イーストエリアで人々が行き交う拠点に」(2023年3月31日)
16 北海道新聞 「札幌駅近のビル、地上20階建てに 東京のヒューリック建て替えへ」(2021年4月7日)
17 北海道新聞 「北海道ビルヂング跡地の複合ビル、一部をホテルに 三菱地所、2025年度完成目指す」(2022年10月7日)
18 NTT都市開発株式会社 「「(仮称)札幌北1西5計画」の竣工時期延期について」(2023年3月16日)
19 日本経済新聞 「札幌のヨドバシビル、高さ200メートル級」(2022年4月7日)
20 朝日新聞 「札幌新幹線駅ビル、245メートル「道内最高」に JR概要発表」(2022年5月20日)
(2)「大通駅周辺」のオフィス開発計画
「大通駅周辺」では、桂和商事が、大通西3丁目に「桂和大通ビル51」(延床面積約1.0万m2・地上14階建て)を開発し、2023年11月に竣工予定である21。(図表-23 ①)。また、北陸銀行と北海道銀行が、大通西2丁目の北陸銀行札幌支店跡地に、「ほくほく札幌ビル」(延床面積約1.7 万m2・地上13 階建て)を開発し、2024 年1月に竣工予定である22(図表-23 ②)。

2025年以降も、再開発計画が複数予定されている。鹿島建設は、「南1西4街区」の「4丁目プラザ」跡地に、地上13 階建てのオフィス・商業複合ビル(延床面積約1.9万m2)を開発し、2025 年1月に竣工予定である23(図表-23 ③)。

また、札幌駅前通と大通公園が交差する「大通西4街区」では、街区南に位置する「道銀ビルディング」と道銀ビル西側に隣接する「新大通ビルディング」を一体開発し、高級ホテルやオフィスを併設した複合ビル(地上33階建て・延床面積約9.9万m2)を建設し、2028年度の開業を予定している24(図表-23 ④)。

2028年度は、「札幌駅前」の「北1西5街区」(延床面積約21万㎡)と「北5西1・西2地区」(延床面積約39万m2)、「大通駅周辺」の「大通西4街区」(延床面積約9.9万m2)の開発が集中する予定であり、需給の悪化が懸念される。
図表-23 「大通駅周辺」におけるオフィス開発計画
 
21 北海道建設新聞  「《民間建築》桂和商事が札幌・大通西3のビルを清水建設で新築/22年5月に着工」(2021年11月17日)
22 株式会社 ほくほくフィナンシャルグループ「「ほくほく札幌ビル」の着工について ~ほくほくフィナンシャルグループの新たな拠点が誕生します」(2021年11月10日)
23 鹿島建設「札幌大通地区のオフィス・商業複合ビル「(仮称)札幌4丁目プロジェクト新築計画」に本格着工」(2023年6月19日)
24 北海道新聞 「道銀ビル、新大通ビル一体開発 地上34階地下3階 大通西4再開発」(2022年7月14日)
(3)札幌市の新規供給予定面積
2007年以降、札幌市のオフィスの新規供給量は1万坪を超えることがなく、低水準の供給が続いていた(図表-24)。しかし、2023 年は「The Link Sapporo」や「D-LIFEPLACE札幌」等の大規模ビルが竣工し、新規供給は約10,500坪となる見通しである。その後も、複数の大規模ビルが竣工予定で、2024 年は10,900坪、2025年は11,700坪と、高水準の新規供給が予定されている(図表-24)。
図表-24 札幌オフィスビル新規供給見通し
3-3. 賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2027年までの札幌のオフィス賃料を予測した(図表-25)。

札幌市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、生産年齢人口は減少基調で推移している。また、北海道全体の就業者は3年連続で減少している。以上のことを鑑みると、札幌市のオフィスワーカー数の拡大は今後、力強さに欠くことが予想される。

また、札幌市のオフィス需要を支えてきたコールセンターや IT関連企業は、引き続き新築オフィスビルの入居テナント候補として期待が大きい。ただし、コールセンターの新設・増設補助制度が9月末で終了予定である。また、コロナ禍を経て、コールセンターのビジネスモデルは大きく転換する可能性もある。「テレワーク」が進むIT関連企業では、ワークプレイスの見直しが順次拡がることも考えられ、コールセンターやIT関連企業による新規需要が頭打ちするリスクに留意が必要である。

一方、2030年度の北海道新幹線の全線開通等を背景に、札幌駅周辺を中心に高層オフィスビルの開発が複数計画されている。今年、新規供給量は17年ぶりに1万坪を超え、2024年と2025年も1万坪を超える見通しである。以上を鑑みると、札幌の空室率は上昇傾向で推移すると予想する。

札幌市の成約賃料は、ファンドバブル期のピーク水準(2007年)を大きく上回り、高値圏にある。今後は新規供給の増加に伴う需給緩和の影響を受けて、下落に転じる見通しである。2022 年の賃料を100 とした場合、2023年は「98」、2027 年は「90」への下落を予想する(図表-23)。ただし、ピーク(2020年)対比で▲10%下落するものの、2018年の賃料と同水準を維持し、大幅な賃料下落には至らない見通しである。
図表-25 札幌のオフィス賃料見通し
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年07月28日「不動産投資レポート」)

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