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「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2023年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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3. 札幌オフィス市場の見通し
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(北海道財務支局)は、2020年第2四半期に「▲41.8」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2023年第2四半期は「+2.9」となった(図表-14)。
「従業員数判断BSI4」(北海道財務支局)は、人手不足を表わす「+36.1」(2020 年第1四半期)から「+12.3」(第2四半期)へ低下した。その後は回復に向かい、2023 年第2四半期は「+24.6」となった。全国平均(+22.6)と比べると一貫して人手不足の状況が継続している(図表-15)。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
ただし、東京や他の地方主要都市と比較してテレワークの普及スピードは緩やかであり、現時点においてオフィス需要への影響は限定的であるようだ7。今後、テレワークの普及が更に進んだ場合、テレワークを前提としたワークプレイスの見直しや、サテライトオフィスの開設等が増えることが想定され、引き続きオフィス需要への影響を注視する必要がある。
5 スタートアップ企業による札幌市内への本社移転・拠点進出に対する補助(「スタートアップ立地促進補助金」)等
6 北海道新聞「サテライトオフィス*道内110カ所 全国最多*テレワーク普及で」(2022年10月27日)
7 北海道新聞 「札幌オフィス 低空室率続く*全国屈指2%台*コロナ禍*テレワーク低調 需要堅く」(2023年7月20日)
札幌市では、IT関連企業やコールセンター企業による新規拠点の開設がオフィス需要を下支えしている。
一般社団法人北海道IT推進協会「北海道ITレポート」によれば、北海道におけるIT産業の売上高は増加傾向で推移しており、2022年度は過去最高の約5,260億円に達する見通しである(図表-19)。また、同レポートによれば、「今後3 年程度先の総従業者数の見込み」について、「従業者数の増加を想定」との回答が約6割を占め、「従業者数の減少を想定」を大幅に上回っている(図表-20)。
なお、札幌市は、IT・コンテンツ・バイオ企業の開発・研究拠点の新設8や、本社機能やバックオフィスの移転9に対して、これまで人件費・開発費を対象に補助金を交付していたが、2023年7月よりオフィス賃料への補助金に変更する予定である。
一方、コールセンターの新設・増設補助制度10の新規申請受付は、2023年9月末で終了する予定である。また、コロナ禍を経て、コールセンターのビジネスモデルは、(1)「在宅勤務」の導入、(2)拠点分散による大規模コールセンターの減少、(3)AI等を活用した顧客対応の自動化など、今後大きく転換する可能性があり、拠点戦略の見直しを検討する企業が増加する懸念もある。
前述の通り、「情報通信業」では「テレワーク」の普及が進んでおり、ワークプレイスの見直しが順次拡がることも考えられる。
以上を鑑みると、札幌のオフィス市場において存在感を高めてきたコールセンターやIT関連企業の新規需要が頭打ちするリスクに留意する必要がありそうだ。
8 「IT・コンテンツ・バイオ研究開発 制作拠点向け補助金」
9 「本社機能(バックオフィス機能)移転向け補助金」
10 「コールセンター・バックオフィス立地促進補助金」
AI 技術の進展等に伴い半導体市場の拡大が期待されるなか、2023年2月に、半導体メーカーのラピダスが千歳市の工業団地「千歳美々ワールド」に工場を設立することを発表した。2025年に工場の試作ライン、2020年代後半に量産ラインの立ち上げを目標としており11、総投資額は5兆円で、北海道内の民間投資として過去最大となる予定である。
2023年9月にスタートする工場建設は、不動産市場にも影響を及ぼす可能性がある。北海道建設新聞によれば、建設作業員はピーク時に6千人となり、宿舎(約2千人)以外の約4千人分の賃貸住宅需要が千歳市周辺で発生する見通しとのことである12。また、今後、半導体関連の設備投資や企業進出等が活発化することで、札幌のオフィス需要の高まりも期待される。
一方、北海道新幹線の札幌駅までの延伸工事や、延伸を踏まえた札幌中心部の再開発(詳細は後述)において、作業員や資材、重機等が不足する懸念もある13。
現状、北海道は他の地域と比べて半導体産業の集積が限定的である。ラピダスが次世代半導体を量産するには、相応の半導体関連企業の進出が必要であり、量産が実現した際には、道内の産業構造が大きく変化する可能性が指摘されている14。こうした産業構造の変化がもたらすオフィス需要への影響について、今後の動向を注視したい。
11 日刊自動車新聞 「国産次世代半導体のラピダス、北海道千歳市に工場新設 2020年代後半にも量産」(2023年3月1日)
12 北海道建設新聞 「ラピダス情報共有へ千歳市周辺自治体の連携組織が25日発足」(2023年7月14日)
13 日本経済新聞 「ラピダス余波、札幌再開発を選別 重機や作業員逼迫」(2023年5月30日)
14 北海道銀行 調査ニュース「次世代半導体メーカー「ラピダス」の道内進出について(2)~生産面からみる道内外の半導体産業~」No.457(2023.6)
(2023年07月28日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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