2023年07月28日

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1. はじめに

札幌のオフィス市場では、昨年、大規模ビルの新規供給が限定的であるなか、IT関連企業などによる新規開設・拡張ニーズに支えられ、空室率は低下し、成約賃料は上昇した。一方、今年は新規供給面積が17年ぶりに1 万坪を超え、今後についても複数の大規模ビル開発が計画されている。本稿では、札幌のオフィスの現況を概観した上で、2027年までの賃料予測を行う。

2. 札幌オフィス市場の現況

2. 札幌オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、札幌市の空室率(2023年7月時点)は2.4%(前年同月比▲0.3%)となり、全国主要都市の中で最も低い水準となった(図表-1)。2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、多くの主要都市で、景気悪化やテレワーク普及などを受けて空室率が高止まりするなか、札幌市では、IT関連企業などを中心とする新規開設・拡張ニーズに支えられ、空室率が低下している。

空室率をビルの規模1別にみると、「大型3.2%(前年比+0.4%)」が上昇した一方、「大規模1.1%(同▲0.3%)」、「中型3.3%(同▲1.3%)」、「小型4.2%(同▲0.1%)」は低下した(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 札幌オフィスの規模別空室率
全国主要都市では、オフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などに伴い、空室面積が増加傾向にあり、成約賃料にも頭打ち感が広がるなか、札幌市の2022年下期の成約賃料は、前期比+1.7%、前年同期比+9.0%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2022年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、東京都心5区、大阪、名古屋が上昇、仙台、札幌、福岡が低下と分かれる結果となった。成約賃料は、札幌市が上昇、東京都心5区が下落、その他の都市は概ね横ばいとなった。札幌市は空室率が低下し、成約賃料は上昇した(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した札幌市の賃料サイクル2は、2013年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていた。その後、2020 年上期以降、空室率は低位で推移し、賃料は一進一退の動きとなっていたが、2022年に入り上昇に転じた(図表-5)。
図表-4 2022年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 札幌オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、総ストックを表す「賃貸可能面積」(2022年末)は、建替えに伴う大型ビル(「北海道ビルヂング」)の閉鎖等を受けて、51.1万坪(前年比▲0.5万坪)に減少した。一方、テナントによる「賃貸面積」は49.9万坪(同▲0.3万坪)となり、結果として、「空室面積」は1.1万坪(同▲0.2万坪)に減少した(図表-6)。
図表-6 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2022年末時点で最も賃貸可能面積の大きいエリアは「駅前東西地区(29.8%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(25.7%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(15.6%)」、「南1条以南地区(15.0%)」、「北口地区(14.0%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、「北口地区」(同+0.6万坪)や「南1条以南地区」(同+0.1万坪)等で増加したが、建替えに伴う閉鎖等により「駅前通・大通公園地区」(前年比▲1.4万坪)で減少し、札幌ビジネス地区全体で▲0.5万坪の減少となった(図表-9)。

これに対して、テナントによる賃貸面積は、「北口地区」(前年比+0.5万坪)や「南1条以南地区」(同+0.2万坪)、「創成川東・西11丁目近辺地区」(同+0.2万坪)等で増加した一方、「駅前通・大通公園地区」(前年比▲1.2万坪)で減少し、全体で▲0.3万坪の減少となった。この結果、空室面積は全体で▲0.2万坪の減少となった。
図表-8 札幌ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2022年)/図表-9 札幌ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2022年)
エリア別の空室率(2023年6月時点)を確認すると、「駅前通・大通公園地区2.7%(前年比+1.3%)」と「北口地区2.4%(同+0.4%)」で上昇した一方、「創成川東・西11丁目近辺地区2.9%(前年比▲0.1%)」、「南1条以南地区2.0%(前年比▲1.6%)」、「駅前東西地区1.4%(同▲1.0%)」で低下した(図表-10左図)。

エリア別の募集賃料(2023年6月時点)は、「北口地区:前年比7.0%」、「駅前通・大通公園地区:同+4.3%」、「創成川東・西11丁目近辺地区:同+3.9%」、「駅前東西地区:同+1.6%」、「南1条以南地区:同+0.9%」となり、いずれのエリアも上昇基調で推移している。(図表-10右図)。
図表-10 札幌ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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