2023年07月18日

わが国の不動産投資市場規模(2023年)~「収益不動産」の資産規模は約289.5兆円(前回比+13.9兆円)。前回調査から「賃貸住宅」・「商業施設」・「物流施設」・「ホテル」が拡大する一方、「オフィス」は縮小

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

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(3) キャップレートの動向
日本不動産研究所「不動産投資家調査」によれば、2023年4月時点の期待利回り(東京)について、「オフィス」が3.2%(前年比▲0.1%)、「商業施設」が3.4%(同▲0.1%)、「住宅」が3.8%(同▲0.2)、「物流施設」が3.9%(同▲0.1%)、と「ホテル」が4.5%(同▲0.1%)となり、すべてのセクターで低下した(図表―10)。住宅の低下幅が最も大きく、コロナ禍における住宅需要の高まりを背景に、賃貸住宅への高い投資意欲を確認することができる。
図表-10 期待利回り(東京)の推移
この結果、「オフィス」はNOIの減少に伴い、資産規模が縮小した。一方、「賃貸住宅」、「商業施設」、「物流施設」は、NOIがコロナ前の水準を維持するなか、着工床面積の増加とキャップレートの低下を受けて資産規模が拡大した。特に、「物流施設」は、着工床面積の大幅な増加を受けて、資産規模の伸び率が最大となった。

「ホテル」は、着工床面積の低迷が続く一方、NOIの回復とキャップレートの低下を受けて、前年から資産規模が拡大した。
図表-11 資産規模への影響
2-4. 都道府県別にみた「市場ポートフォリオ」
日本の不動産投資市場は拡大が続いており、投資対象エリアについても広がりを見せている。こうしたなか、地域を限定して不動産投資を行う地域特化型REIT(ご当地リート)も複数運用されており、今年度も北海道内の不動産を投資対象とした「北海道リート」の設立が予定されている3

地域特化型REITの運用を評価する上で、各エリアの「市場ポートフォリオ」を把握することは重要だと思われる。そこで、本稿で推計した「収益不動産」の資産規模をもとに、エリア別(地域別・都道府県別)の「市場ポートフォリオ」を算出した(図表-13、14)。エリア別の「市場ポートフォリオ」は、地域金融機関の不動産投融資のリスク管理等にも参考になるだろう。

都道府県別に用途比率を確認すると、オフィスの比率が最も高い都道府県は「東京都(53%)」、賃貸住宅は「沖縄県(47%)」、商業施設は「秋田県(55%)」、物流施設は「佐賀県(38%)」、ホテルは「沖縄県(16%)」であった(図表-12、図表-14)。

上記の都道府県の「市場ポートフォリオ」は、全国平均と異なる構成比率であることが分かる(図表-14)。これからも増えることが予想される地域特化型REIT等においては、投資対象エリアの特性を十分に踏まえた運用戦略の策定が求められる。
図表-12 用途別比率(上位3都道府県)
図表-13 地域別「市場ポートフォリオ」
図表-14 都道府県別「市場ポートフォリオ」
 
3 北海道アセットマネジメント株式会社HP

【参考資料】

【参考資料】用途別にみた「収益不動産ストック」の詳細

(1) オフィス
オフィスの「収益不動産(103.1兆円)」をエリア別にみると、「東京都」が約56.9兆円(前回比▲4%)と最も大きく、次いで「大阪府」が約10.6兆円(同+5%)、「神奈川県」が約6.1兆円(同+6%)、「愛知県」が約4.1兆円(同▲7%)、「福岡県」が約2.9兆円(同+8%)と推計された(参考図表-1)。「収益不動産」の55%が「東京都」に集積している。
参考図表-1 「収益不動産」の資産規模及び増減率(オフィス)
次に、オフィスの「投資適格不動産(70.8兆円)」をエリア別にみると、「東京23区」が約51.3兆円(前回比▲6%)と最も大きく、次いで「大阪市」が約7.1兆円(同+4%)、「名古屋市」が約2.5兆円(同+8%)、「横浜市」が約2.3兆円(同+6%)、「福岡市」が約2.0兆円(同+10%)と推計された(参考図表-2)。今回調査では、再開発事業が活発な「福岡市」の資産規模が大きく増加した。一方、「東京23区」は、オフィス賃貸市況の悪化を受けて資産規模が縮小した。
参考図表-2「投資適格不動産」の資産規模(オフィス、エリア別)
また、「コア投資不動産(54.5兆円)」をエリア別にみると、「東京23区」が約40.4兆円(前回比▲6%)と最も大きく、次いで「大阪市」が約5.3兆円(同+4%)、「横浜市」が約1.8兆円(同+7%)、「名古屋市」が約1.6兆円(同+8%)、「福岡市」が約1.4兆円(同+10%)と推計された(参考図表-3)。
参考図表-3 「コア投資不動産」の資産規模(オフィス、エリア別)
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金融研究部

吉田 資
(よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

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わが国の不動産投資市場規模(2023年)~「収益不動産」の資産規模は約289.5兆円(前回比+13.9兆円)。前回調査から「賃貸住宅」・「商業施設」・「物流施設」・「ホテル」が拡大する一方、「オフィス」は縮小のレポート Topへ