2023年07月18日

わが国の不動産投資市場規模(2023年)~「収益不動産」の資産規模は約289.5兆円(前回比+13.9兆円)。前回調査から「賃貸住宅」・「商業施設」・「物流施設」・「ホテル」が拡大する一方、「オフィス」は縮小

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

文字サイズ

1. はじめに

日本の不動産投資市場は、コロナ禍を経ても、引き続き好調を維持している。日本不動産研究所「不動産取引市場調査」によれば、2022年下期の取引金額は約2.1兆円になり、アベノミクスによる金融緩和政策が開始された2013年上期以降、半期で2兆円を上回る状況が継続している。国土交通省「不動産証券化の実態調査」によれば、証券化の対象となった不動産の資産総額は、40.7兆円(2020年3月時点)から約46.8兆円(2022年3月末)に拡大した(図表-1)。

不動産投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産」の資産規模がどれくらいであるのか、また、その内訳を「用途別」や「エリア別」に継続して把握することは重要だと考えられる。

そこで、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所は共同で、前回1、前々回調査2に続いて、わが国の不動産投資市場規模に関する調査を実施した。
図表-1 証券化の対象となった不動産の資産総額
 
1 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2022年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022 年9 月9日)
2 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(1)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年3 月12 日)
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年4 月19日)
 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(3)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021 年5 月20日)

2. 「収益不動産ストック」の推計

2. 「収益不動産ストック」の推計

2-1. 推計方法と推計結果
本調査では、事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産(以下、「収益不動産」)を調査対象とした。また、「収益不動産ストック」の内訳を把握するため、

(1)一定水準以上の面積基準や築年基準を満たす「収益不動産」
(2)機関投資家の投資意欲が特に強いスペックや立地要件を満たす「投資適格不動産」
(3)主要政令指定都市に立地するハイクラスオフィスである「コア投資不動産」

のカテゴリーに分類し、推計を実施した。

推計方法は、過去の調査と同様に、収益還元法に基づく「ボトムアップ・アプローチ」を採用した(図表―2)。まず、「着工床面積の積算」と「レンタブル比」のデータをもとに「賃貸可能床面積」を推計した。次に、推計した「賃貸可能床面積」と、「平均賃料」や「平均稼働率」のデータをもとに、「総収入」を推計した。続いて、推計した「総収入」と「平均コスト比率」をもとに、「NOI:営業純収益、Net Operating Income」を推計した。最後に、推計した「NOI」を「キャップレート」で除して、「収益不動産の総額」を求めた。
図表-2 推計手順
今回の調査では、「収益不動産」の資産規模は、約289.5兆円(前回比+13.9兆円、+5.1%)、「投資適格不動産」の資産規模は、約179.0兆円(前回比+7.2兆円、+4.2%)と推計された。国土交通省の調査によれば、証券化の対象となった不動産の資産総額は、約46.8兆円である(図表-1)。この数値によれば、「収益不動産(289.5兆円)」の約16%、「投資適格不動産(179.0兆円)」の約26%が既に証券化されていることになる。
2-2. 「用途別」にみた資産規模
(1) 「収益不動産」
「収益不動産(289.5兆円)」を用途別にみると、「オフィス」が約103.1兆円と最も大きく、次いで「賃貸住宅」が約77.1兆円、「商業施設」が約67.7 兆円、「物流施設」が約31.7兆円、「ホテル」が約10.0兆円と推計された(図表―3)。

前回調査と比較して、「賃貸住宅(前回比+7%)」、「物流施設(同+13%)」、「商業施設(同+9%)」、「ホテル(同+6%)」が拡大した一方、「オフィス(同▲1%)」は縮小した(図表―4)。

前々回調査と比較すると、「賃貸住宅(前々回比+19%)」、「物流施設(同+33%)」、「オフィス(同+4%)」が拡大した一方、「商業施設(▲5%)」と「ホテル(▲23%)」は縮小した。「賃貸住宅」と「物流施設」はコロナ禍を経ても順調に拡大している一方、「商業施設」と「ホテル」は拡大に転じたものの、前々回調査の資産規模には回復していない。
図表-3 「収益不動産」の資産規模(用途別)/図表-4 前回、前々回調査との比較
年金運用等の資産運用においては、基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)を定めて、定期的にリバランスを行い運用するほうが、良いリターンを獲得できるとされる。公的年金等の資産運用では、各アセットクラス(市場ポートフォリオ)のリスク・リターンなどを考慮したうえで、積立金運用の基本ポートフォリオを定めている。そのため、基本ポートフォリオに不動産を組み入れる際には、不動産投資における「市場ポートフォリオ」の特性を把握することが重要である。

国内不動産投資における「市場ポートフォリオ」となる「収益不動産」のセクター比率は、「オフィス」が36%(前回調査38%)、「住宅」が27%(同26%)、「商業施設」が23%(同23%)、「物流施設」が11%(同10%)、「ホテル」が3%(同3%)となる(図表―5)。

投資信託協会によれば、2023年3月時点の「J-REIT」のセクター比率は「オフィス39%」、「物流施設20%」、「商業施設16%」、「賃貸住宅14%」、「ホテル7%」である(図表―5)。「J-REIT」は「市場ポートフォリオ」と比較して、「賃貸住宅」と「商業施設」の比率が低い一方、「物流施設」の比率が高い。

また、不動産証券化協会と三井住友トラスト基礎研究所の調査によれば、「不動産私募ファンド」のセクター比率は「オフィス44%」、「賃貸住宅17%」、「商業施設14%」、「物流施設11%」、「ホテル7%」である(図表―5)。「不動産私募ファンド」は「賃貸住宅」と「商業施設」の比率が低い一方、「オフィス」の比率が高いと言える。
図表-5 「J-REIT」と「不動産私募ファンド」のセクター比率
(2) 「投資適格不動産」
次に、「投資適格不動産(179.0兆円)」を用途別にみると、「オフィス」が約70.8兆円(占率40%)、「商業施設」が約45.1兆円(25%)、「賃貸住宅」が約38.1兆円(21%)、「物流施設」が約17.5兆円(10%)、「ホテル」が約7.4兆円(4%)と推計された(図表―6)。

前回調査と比較して、「賃貸住宅(前回比+10%)」、「物流施設(同+19%)」、「商業施設(同+6%)」、「ホテル(同+6%)」が拡大した一方、「オフィス(同▲3%)」は縮小した(図表―7)。
図表-6 「投資適格不動産」の資産規模(用途別)/図表-7 前回、前々回調査との比較
2-3. 資産規模推計の基礎データ
続いて、資産規模推計の基礎データとなる(1)建築着工床面積、(2)NOI、(3)キャップレートについて、その動向を確認する。
(1) 建築着工床面積の動向
国土交通省「建築着工統計調査」によれば、2022 年の着工床面積は、コロナ禍前の2019年の水準を100 とした場合、「物流施設(146)」と「住宅(111)」が増加した一方、「商業施設(95)」は概ね横ばい、「オフィス(89)」と「ホテル(47)」は減少となった(図表―8)。
図表-8 建築着工床面積の推移(2019 年=100)
(2) NOIの動向
図表-9は、各用途の平均賃料と平均稼働率等を基に算出したNOIの推移を示している。2022年のNOIは、コロナ禍前の2019年を100 とした場合、「物流施設(102)」、「住宅(100)」、「商業施設(97)」は概ね同水準、「オフィス(86)」と「ホテル(54)」はコロナ禍前の水準を下回った。「ホテル」のNOIは、コロナ禍の影響で施設売上高や稼働率が低迷していた前年(28)から回復したものの、コロナ禍前の水準には至っていない。
図表-9 NOI の推移(2019 年=100)
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部

吉田 資
(よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【わが国の不動産投資市場規模(2023年)~「収益不動産」の資産規模は約289.5兆円(前回比+13.9兆円)。前回調査から「賃貸住宅」・「商業施設」・「物流施設」・「ホテル」が拡大する一方、「オフィス」は縮小】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

わが国の不動産投資市場規模(2023年)~「収益不動産」の資産規模は約289.5兆円(前回比+13.9兆円)。前回調査から「賃貸住宅」・「商業施設」・「物流施設」・「ホテル」が拡大する一方、「オフィス」は縮小のレポート Topへ