2023年07月13日

気候指数 [日本全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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(13) 沖縄
図表23. 指数推移 (5年平均) [沖縄]
沖縄の合成指数は、長らくゼロ近辺で推移してきたが、2010年代半ばより上昇し、2022年秋季には1.05となっている。特に、高温指数は急上昇して、2020年に2を超えた。その後、やや低下している。また、湿度指数は、2010年代に上昇のペースを上げてきた。これらのことが、合成指数の上昇につながっている。

2|日本全体では合成指数が1971年以降の最高水準に
前節の各気候区分の気候指数の計算結果を踏まえたうえで、日本全体のグラフを見ていこう。日本全体は、各地域区分の指数を平均したものとしている。ただし、九州南部と奄美については、両者を一体化した「九州南部・奄美」の地域区分をもとに、平均をとることとしている。

日本全体
図表24. 指数推移 (5年平均) [日本全体]
日本全体の合成指数は、参照期間の1971~2000年には、ゼロ前後で推移していた。2000年代には、0~0.5の範囲内で変動していたが、2010年代に入ると上昇傾向となった。2013年に0.5を超え、2022年夏季には1に達し、2022年秋季には1.01に上昇した。この水準は、1971年以降の過去最高水準となっている。

高温指数と海面水位指数の2つは、長らく合成指数を上回る水準で推移し続けている。高温指数は、上昇基調にあり、2010年代半ば以降は上昇の勢いが増している。海面水位指数も、上昇傾向が続いている。さらに、湿度指数は、2000年以降マイナスで推移していたが、2010年代半ばにプラスに転じ、急上昇した。

なお、その他の指数をみると、低温指数は、緩やかに低下。降水指数と乾燥指数は、いずれもゼロ近辺で推移。風指数は、概ね0~0.5の範囲内での変動となっている。

高温指数、湿度指数、海面水位指数の上昇が、合成指数の上昇を引き起こす主な要因となっている。

7――おわりに (私見)

7――おわりに (私見)

本稿では、北米やオーストラリアの先行事例を踏まえて、日本版の気候指数の作成に取り組んだ。
 
例えば、都道府県の行政単位や、一般的な地方区分を踏まえて、気象庁の地方分類をもとに地域区分を設定した。都道府県単位での設定であり、今後の展開において使い勝手がよいものと考えられる。
 
また、日本で問題となりやすい“暑さ”を示すために、気候指数の項目として、湿度指数を追加した。これにより、熱中症などの健康不良を引き起こす、暑熱環境の極端さを定量化することが期待される。

今後、気候変動問題が保険事業に与える影響をみていくために、北米で開発されている気候リスク指数のような、気候変動が人命や財産に与えるさまざまなリスクの定量化の試みも必要と考えられる。

グローバルに目を向ければ、地球温暖化を背景とした気候変動の問題は、これからますます注目度が高まるものと考えられる。スーパー台風の襲来や、豪雨、豪雪による激甚災害など、急性リスクの懸念はさらに高まっている。一方、南極やグリーンランドの氷床の融解、アフリカ山岳地域等の氷河の消失、ヨーロッパなどでの熱波や干ばつの発生など、慢性リスクの発生が、人々の生活に深刻な影響を及ぼし始めている。

こうしたリスクを定量的に示すために、引き続き、気候指数の検討を進めるとともに、気候の極端さの定量化に関する海外の調査・研究動向のウォッチを続けていくこととしたい。

注記

《 注記 》気候指数計算に用いた気象データ、潮位データについて

本稿において、気候指数の計算にあたり、データが空欄となっている日や月については、計算上、分子・分母から除外した。
 
なお、気象データのうち、観測地点によっては観測方法の変更(観測場所の移転、観測装置の変更、観測の時間間隔の変更)により、前後のデータが均質でないケースがある。
 
気象データで1971~2022年期間にデータが空欄となっていた日数、および観測方法の変更が行われた年をまとめると、注記表1の通りとなる。
 
また、潮位データのうち、観測地点によっては、気候指数の参照期間(1971~2000年)中に観測が開始されているケースもある。
 
潮位データで1971~2022年の期間にデータが空欄となっていた月数をまとめると、注記表2の通りとなる。
注記表1. 気象データが空欄となっていた日数と観測方法変更年
注記表1(つづき). 気象データが空欄となっていた日数と観測方法変更年
注記表2. 潮位データが空欄となっていた月数と観測開始年月

【参考文献・資料】
 
  1. 「一般気象学〔第2版補訂版〕」小倉義光著(東京大学出版会, 2016年)
  2. 「絵でわかる地球温暖化」渡部雅浩著(講談社, 2018年)
  3. 「広辞苑 第七版」(岩波書店)
  4. “Actuaries Climate Index - Development and Design”(The American Academy of Actuaries, The Canadian Institute of Actuaries, The Casualty Actuarial Society, 2016)
  5. “Australian Actuaries Climate Index - Design Documentation”(Actuaries Institute, 2018)
  6. “Extension of the Actuaries Climate Index to the UK and Europe-A Feasibility Study” Charles L. Curry (Institute and Faculty of Actuaries, Dec. 2015)
  7. “Actuaries Climate Index® Values Calculated Using Version 1.1” (2022.5.4)
  8. “Actuaries Climate Risk Index-Preliminary Findings”(American Academy of Actuaries, Jan. 2020)
  9. “Australian_actuaries_climate_index_export_2021_3-nl” (Actuaries Institute)
  10. 「金融機関のための気候変動リスク管理」藤井健司著(中央経済社, 2020年)
  11. 「気候変動リスクへの実務対応-不確実性をインテグレートする経営改革」後藤茂之編著(中央経済社, 2020年)
  12. 「極端豪雨はなぜ毎年のように発生するのか-気象のしくみを理解し、地球温暖化との関係をさぐる」(化学同人, DOJIN選書090, 2021年)
  13. 「スポーツ医学検定 公式テキスト 1級」(一般社団法人 スポーツ医学検定機構, 東洋館出版社, 2019年)
  14. 「スポーツ医学入門」目崎登著(文光堂, 2009年)
  15. 「暑さ指数(WBGT)の詳しい説明」(環境省HP)
    http://www.wbgt.env.go.jp/doc_observation.php
  16. 「よくわかる高校地理総合 (MY BEST)」松永謙監修(学研プラス, 2022年)
  17. 「気候変動監視レポート2021」(気象庁, 令和4年3月)
  18. 「日本の気候」(気象庁HP)
    https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kisetsu_riyou/tenkou/Average_Climate_Japan.html
  19. 「全国都道府県市区町村別面積調」(国土地理院)
  20. 「住民基本台帳人口」(総務省)
  21. 「過去の気象データ・ダウンロード」(気象庁HP)
    https://www.data.jma.go.jp/risk/obsdl/index.php
  22. 「歴史的潮位資料+近年の潮位資料」(気象庁HP)
    https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/sea_lev_var/sea_lev_var_his.php
  23. 「過去の気象データ検索」(気象庁HP)
    https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index

(本稿の元レポート)

「気候変動指数化の海外事例-日本版の気候指数を試しに作成してみると…」篠原拓也(基礎研レポート, ニッセイ基礎研究所, 2022年9月8日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72284?site=nli
「気候変動指数の地点拡大-日本版の気候指数を拡張してみると…」篠原拓也(基礎研レポート, ニッセイ基礎研究所, 2022年12月28日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73405?site=nli
「気候指数 [全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準」篠原拓也著(基礎研レポート, ニッセイ基礎研究所, 2023年4月6日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74427?site=nli
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年07月13日「ニッセイ基礎研所報」)

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