2023年07月13日

健康状態に差支えがあっても週1回以上運転する高齢者は推計約300万人~免許保有している/していた高齢者の約2割は運転を引退済

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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2|運転頻度
(1)性・年齢階級別にみた運転頻度
ここからは、運転習慣と合わせて実際の運転頻度について、属性に着目してみていく。

まず高齢者全体の運転頻度を確認すると、「ほとんど毎日運転する」が29.9%、「週に2、3回は運転する」が12.7%、「週に1回くらいは運転する」が4.4%、「月に数回しか運転しない」は2.7%、「年に数回しか運転しない」は1.2%だった(図表10)。高齢者全体では、約半数が週1回以上運転していることになる。「月に数回」「年に数回」といった、まれにしか運転しない人の合計割合は5%にも満たなかった。

次に、性・年齢階級別に違いをみていきたい。まず運転習慣をみると、男女いずれも、年齢階級が上がるほど「運転する」の割合が小さくなった。女性では、「65~69歳」を除くすべての年齢階級で、「運転しない」の割合が全体より有意に高かった。Nが小さいため参考値だが、女性の「90歳~」では「運転しない」の割合が100%だった。

運転頻度は、男女いずれも「ほとんど毎日」や「週に2、3回」の割合は、年齢階級が上がるにつれて小さくなっていた。男性では、「65~69歳」と「70~74歳」「75~79歳」では「ほとんど毎日運転する」が全体の約半数、「75~79歳」では約4割を占めており、全体より有意に高かった。「80~84歳」でも約3割、「85~89歳」でも約2割、「90歳~」でも約1割が「ほとんど毎日運転する」と回答した。女性では、「65~69歳」では「ほとんど毎日」の割合は全体より高く、それ以外の年齢階級年では、全体より低かった。
図表10 性・年齢階級別にみた運転頻度
(2)居住地域別にみた運転頻度
1) 居住地域の都市規模別にみた運転頻度
次に、居住地域の都市規模別に運転習慣と運転頻度を比較したものが図表11である。まず運転習慣を見ると、都市規模が小さくなるほど「運転する」の割合が大きく、「運転しない」の割合は小さくなる傾向が見られた。

運転頻度については、「ほとんど毎日運転する」の割合は、東京都と政令指定都市を合わせた「21大市」では約15%にとどまり、全体より有意に低かった。逆に、「人口10万人未満の市」と「郡部」では「ほとんど毎日運転する」の割合全体より有意に高かった。大都市では公共交通が発達しているが、地方部では衰退しているため、マイカー運転が生活を送る上で必須となっていると考えられる。
図表11 都市規模別にみた運転頻度
2) 地域別にみた運転頻度
次に、地域別に運転習慣と運転頻度をみたものが図表12である。まず運転習慣については「東京」と「大阪」では「運転する」が3~4割で、全体より有意に低く、「運転しない」の割合は全体に比べて有意に高かった。それ以外では、ほぼすべての地域で「運転する」が過半数に上った。中でも「北陸」と「四国」、「南九州」では約7割に上った。全体に比べて「運転する」の割合が有意に高いのは、「愛知」、「東北」、「関東(東京都除く)」、「北陸」、「中部(愛知県除く)」、「中国」、「四国」、「南九州」であり、地方の大部分が該当した。

次に、運転頻度をみると、「ほとんど毎日運転する」の割合は、「東京」と「大阪」では全体の約1割、「近畿(大阪府除く)」では約2割で、全体に比べて有意に低かった。それ以外の地域で約4~6割を占めた。中でも高いのは「北陸」と「南九州」の約6割だった。
図表12 地域別にみた運転頻度
(3)職業別にみた運転頻度
次に、職業別に運転習慣と運転頻度をみたものが図表13である。まず運転習慣についてみると、就業者(「無職」と「その他」以外)は、「パート・アルバイト」を除いて、「運転する」の割合が全体より有意に高かった。特に、公務員や民間企業正社員などの常用労働者では、「運転する」が8~9割に上った。通勤や取引先との打ち合わせなど、業務上でマイカーを使用していると考えられる。「農林漁業」はNが小さいために参考値としたが、「運転する」との回答が9割に達した。農林漁業では、自宅から仕事場への移動だけではなく、農機具での作業や運搬等、仕事と運転を切り離すことが難しいと推察される。一方、「無職」でも「運転する」が半数近くに上った。

次に運転頻度についてみると、やはり就業者では「ほとんど毎日」がそれぞれの職種で約4~6割に上り、全体より有意に高かった。特に公務員や民間企業正社員などの常用労働者では5~6割に上り、「派遣社員・契約社員」や「パ―ト・アルバイト」などの非正規労働者(約4割)よりも高かった。
図表13 職業別にみた運転頻度
(4)客観的健康状態別にみた運転頻度
最後に、本人の客観的健康状態別に運転頻度についてみたものが図表14である。2で述べたように、「客観的健康状態」とは、「バスや電車を使って一人で外出できますか」、「日用品の買い物ができますか」といった生活機能を測る15の質問を基に、本人のIADL(手段的日常生活動作能力)と知的能動性、社会的役割について評価し、「いいえ」と回答した数によって、「差し支えなし」、「ほんの少し差し支えあり」、「差し支えあり」、「大いに差し支えあり」の4段階に分類したものである。

この健康状態の区分ごとに運転習慣と運転習慣の違いをみると、男女いずれも、健康状態が悪くなるほど、「運転する」の割合が小さくなっていた。まず男性は、健康状態が「差し支えなし」の約8割が「運転する」と回答し、全体より有意に高かった。「ほんの少し差し支えあり」になると、その割合は約7割に下がった。「差し支えあり」でも約6割が「運転する」だった。全体より小さいものの、「大いに差し支えあり」でも約3割が「運転する」と回答しており、健康状態が相当悪化した後でも、運転を続けていることが分かった。

女性は、いずれの健康状態でも「運転する」の割合は全体より低かった。「差し支えなし」では約4割、「ほんの少し差し支えあり」では約3割、「差し支えあり」では約2割、「大いに差し支えあり」では約3%にとどまった。4-1|(2)でみたように、高齢女性はもともと、高齢男性よりも運転免許を持っている人の割合が小さい上、さらに健康状態が悪化すると、運転する割合も顕著に下がることが分かった。

次いで運転頻度についてみると、男性では、「差し支えなし」のうち約5割が「ほとんど毎日運転する」と回答した。この割合は、「ほんの少し差し支えあり」では約4割、「差し支えあり」では約3割に下がった。「大いに差し支えあり」でも約1割は「ほとんど毎日運転する」だった。

また、「大いに差し支えあり」のグループで、週1回以上運転する人を合わせると(「ほとんど毎日」と「週に2、3回」、「週に1回くらい」の合計)、約2割に上った。客観的健康状態が相当、悪化した後でも、男性の2割は定期的に運転していることになり、交通事故を起こすリスクが懸念される。本人から見ると、マイカー運転に代わる移動手段が乏しいと予想される。

次に女性の運転頻度についてみると、「差し支えなし」では約3割が「ほとんど毎日運転する」と回答した。この割合は、「ほんの少し差し支えあり」では約2割、「差し支えあり」では約1割に下がった。「大いに差し支えあり」では1.6%だった。女性の場合は、「大いに差し支えあり」のグループでは、週1回以上運転する人を合計しても5%以内と、限定的だった。
図表14 性・客観的健康状態別にみた運転頻度
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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