2023年07月13日

健康状態に差支えがあっても週1回以上運転する高齢者は推計約300万人~免許保有している/していた高齢者の約2割は運転を引退済

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

国内では、運転免許を保有する高齢者が増え、それに伴って、高齢者が引き起こす交通死亡事故の割合も増えている。警察庁によると、2022年に65歳以上の高齢者の運転による交通死亡事故件数(第一当事者の場合)は739件、75歳以上の運転による交通死亡事故は379件発生した。全体の交通死亡事故件数に占める割合は、65歳以上が32.6%、75歳以上が16.7%で、10年前よりそれぞれ10~5ポイント上昇した。

政府や自治体は、運転免許の自主返納を推奨するなど、高齢者の交通事故防止対策を強化してきたが、地方を中心に「クルマ社会」は出来上がっており、高齢者にとってマイカーを手放すことは容易ではない。また、マイカーを手放して仕事を失ったり、外出が減ったりすると、経済状態や健康状態の悪化につながるため、強硬に自主返納を進めれば不利益につながる。

実は、一言で「高齢者」と言っても、運転状況や健康状態は様々である。例えば、「75歳を過ぎたが、健康面に問題がないので仕事で運転している」という人もいれば、「運転免許証は持っているが、ほとんど運転していない」という人、「免許の自主返納はしないが、次の更新はしないつもり」という人もいるだろう。運転を続けている事情も人それぞれにあり、「運転免許がなくなると、農作業ができなくなるので困る」という人もいるだろう。従って、今後の方向性としては、高齢者に一律に免許返納を迫るのではなく、代替移動手段の確保に努めながら、高齢者の利便性と安全性のバランスをどう図っていくかを考えることが重要だろう。そのためには、現在、どのような属性の高齢者が、どのような状況でマイカー運転を続けているのかを、より詳細に把握しておくことが必要だろう。

そこで本稿は、65歳以上のドライバーについて、公益財団法人「生命保険文化センター」(以下、文化センター)が2020年10~11月に実施した「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」の高齢者調査1のデータを用いて、性・年齢階級や居住地域、職業、健康状態などの属性ごとに運転状況を分析する。それによって、どうしても運転を必要とする状況や、急いで移動サービスに移行しなければならない高齢者層のボリューム等について、インプリケーションを抽出する。
 
1 全国の60歳以上の男女個人を対象に、留置聴取法にて実施。回収は2,083。本稿の分析では、その中から65歳以上の回答結果を使用した(有効回答数は1,730)。

2――高齢ドライバーの増加と運転免許の自主返納

2――高齢ドライバーの増加と運転免許の自主返納

1|高齢ドライバーの人数
警察庁の「運転免許統計令和4年版」によると、2022年末の国内の運転免許保有者8184万人のうち、65歳以上ドライバーは1,946万人おり、全体の約2割を占める。性別にみると男性1159万人、女性787万人と、男性の方が女性を大きく上回っている。75歳以上に限ると約667万人(男性約445人、女性約221万人)で、全体のうち約1割である。

5歳ごとの年齢階級別に運転免許保有者数を見ると、「65~69歳」の約624万人(男性336万人、女性288万人)よりも、「70~74歳」の約656万人(男性378万人、女性278万人)の方が多い(図表1)。これは、人口が多い団塊世代の多くが、2022年時点では「70~74歳」に含まれるからだと考えられる。しかし「75歳~79歳」になると約385万人(男性240万人、女性145万人)に減少する。死亡によって運転免許保有者数が減る他、一部は運転免許の自主返納や非更新をしたためだと考えられるまた「80~84歳」(男性142万人、女性62万人)では約204万人、「85歳以上」でも約78万人(男性63万人、女性14万人)が免許を保有している。性別では、いずれの年齢階級でも男性の方が女性よりも多い。
図表1 性別、年齢階級別にみた運転免許保有者の数
ところで、統計的には、交通死亡事故を起こす割合は、ドライバーが75歳以上になると大きく上昇する2。運転免許保有人口の多い団塊世代が、2022年以降、順次75歳に突入しているため、移動手段確保や自主返納状況などの高齢ドライバーを巡る環境が変わらなければ、高齢ドライバーによる交通死亡事故件数は今後、増加する可能性がある。
 
2 坊美生子(2022)「高齢化と移動課題(上)~現状分析編~」(基礎研レポート)
2|高齢ドライバーの割合
次に、年齢階級別に、人口に占める運転免許保有者の割合をみたものが図表2である。赤枠で囲った高齢者の部分に着目すると、まず男性は「65~69歳」と「70~74歳」の免許保有率は約9割に上る。「70~74歳」になるとやや低下して7割になるが、「80~84歳」でも約6割、「85歳以上」でも約3割が保有している。

図表1でみたように、運転免許保有者の数で見ると、80歳代では激減しているが、人口に占める割合で見ると、80歳代前半でも男性の過半数が免許を保有しているという状況は驚きである。それだけ、日本社会が圧倒的なクルマ社会になっていると言えるだろう。

次に女性を見ると、「65~69歳」では約8割に上るが、70歳代前半で6割、70歳代後半で4割、80歳代前半で2割と低下していく。いずれの年齢階級でも、男性よりも女性の方が割合は小さい。3で述べるように、高齢女性ではもともと運転免許を取得している人が少ないからである。だからと言って、「高齢女性の方が交通事故を起こすリスクが低いので問題ない」とは言えない。自身が免許を持っていなければ、高齢の夫が運転する車に乗って外出している場合も多く、夫が入院したり死亡したりすると、途端に買い物にも行けなくなる、という事例は、筆者はよく耳にする。高齢者の運転による交通事故リスクと、高齢者の移動困難については、同時に考えなければならない問題である。
図表2 性別、年齢階級別にみた運転免許保有率
3|運転免許の自主返納者数の推移
次に、運転免許の自主返納状況についてみていきたい。政府や自治体は、自主返納を勧めるために、運転免許証に代わる運転経歴証明証を発行したり、タクシーのクーポン券を発行したりしてきた。

警察庁によると、過去10年間の自主返納件数の推移は図表3のようになっている。「75歳以上」の件数を見ると、2013年には全国で10万件を下回っていたが、制度の認知度が上がり、年を追うごとに件数は増加してきた。2019年には、4月に東京・池袋で当時87歳のドライバーによる暴走事故で11人が死傷し、大きなニュースとなった影響から、返納件数は大幅に増加した。しかし、2020年にコロナ禍に入って以降、減少に転じた。感染不安から、高齢者の間で公共交通を避けてマイカー運転が増えたためだと見られる3

ただし、これは各年の免許返納件数であるため、現時点の蓄積状況、すなわち、現在の高齢者の中で、自主返納を済ませた人がどれぐらいに上るのか、高齢者の間で自主返納がどの程度浸透したのか、という状況は分からない。この点については4-1|(2)で、筆者が文化センターの調査結果を用いて推計する。
図表3 運転免許の自主返納件数の推移
4|運転技能検査による不合格率
次に、道路交通法改正により、2022年5月に始まった運転技能検査の状況についてみていきたい。これは、高齢ドライバー対策として、75歳以上で一定の違反歴のあるドライバーに対して、免許更新時に実車検査を課し、更新期限までに合格できなければ更新を認めないというものである。警察庁によると、高齢ドライバーによる事故の原因は、操作不適が多いため、運転技能を確認するものとして新たに導入された。高齢者は、期限内であれば何度でも受験できる。

警察庁交通局の提供資料によると、制度が始まった2022年5月から12月末までに、全国で約7万7000人が受験し、そのうち約1割が不合格となった(図表4)。都道府県別によって不合格率にはばらつきはあるが、1割前後の県が多い。また、受検者数は、複数回受検した人が含まれる。最終的に期限までに合格できずに、免許を更新できなかった人数については、集計していないという。
図表4 運転技能検査の受検人数と不合格率
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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