2023年07月12日

英国雇用関連統計(23年6月)-高い賃金伸び率が継続

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率は4%まで上昇

7月11日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【6月】
失業保険申請件数1前月(152.66万件)から2.57万件増の155.23万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同3.9%)から上昇した。
給与所得者数2前月(3005.31万人)から0.9万人減の3004.38万人となった。
増減数は前月(+2.0万人)からマイナスに転じ、市場予想3(+2.3万人)を下回った。

【5月(23年3-5月の3か月平均)】
失業率は4.0%で前月(3.8%)から上昇、市場予想(3.8%)を上回った(図表1)。
就業者は3305.3万人で3か月前の3295.0万人から10.2万人増加した。
増減数は前月(25.0万人)から減少したが、市場予想(8.5万人)は上回った。
週平均賃金は、前年同期比6.9%で前月(6.7%)から上昇、市場予想(6.8%)も上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:賃金上昇圧力は依然として強い

まず、6月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は23年4-6月の平均で103.4万件となり22年3-5月平均(130.2万件)をピークに減少傾向が続いており(図表3)、足もとでは産業別には飲食・居住、医療、専門サービスといったサービス業を中心に減少が目立った。単月求人数も6月に104.0万件となり、減少傾向にある4

給与所得者データでは、6月の給与所得者数は、製造業や、卸・小売業、飲食・居住サービスが減少した。事務サービスなど大幅に増加した業種もあるが、全体では21年2月以来となる前月対比での減少となった(図表4)。6月の給与額(中央値)は前年同月比9.7%で5月(8.4%)からさらに加速、公表されているデータとしては最も高い伸び率を更新した。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
5月までのデータ(労働力調査)では、失業率が4.0%と上昇した。就業者と非労働力人口が減少する一方、失業者が増加した。失業率は上昇したものの、非労働力人口の減少が続いているため、労働参加率は上昇基調にある(3-5月期は63.7%、コロナ禍直前のピークは64.4%)。
(図表5)名目賃金の推移/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は、31.9時間(前年同期差+0.1時間)、フルタイム労働者で36.7時間(同+0.2時間)となった(前掲図表2)。週当たり総労働時間は、2-4月期に一時的にコロナ禍前ピーク(19年8-10月)を上回ったが、3-5月期は就業者数が減少したこともあり、再びコロナ前ピークを割り込んだ(なお、ストライキも労働時間の短縮要因となっている)。賃金は、名目賃金が23年3-5月の前年同期比で6.9%、実質賃金は▲1.2%となり、いずれも上昇した(前掲図表2)。ボーナスを除く定期賃金伸び率は前年同期比7.3%と、2期連続で7%超えとなり、市場予想(7.1%)も上回った(図表5)。

処遇改善を求めたストライキは、5月は件数ベースで336件、労働損失日数で12.8万日となった(図表6)。歴史的にはまだ高水準にあるものの、大幅に減少している。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年07月12日「経済・金融フラッシュ」)

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