2023年06月16日

ECB政策理事会-7月の利上げも予告、タカ派姿勢を継続

経済研究部 主任研究員 高山 武士

文字サイズ

1.結果の概要:8会合連続の利上げを決定

6月15日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
0.25%ポイントの利上げを決定(6/21から、主要3金利すべて引き上げ)
APPの償還再投資について、7月以降は実施しないことを確認(5月の決定を再確認)

【記者会見での発言(趣旨)】
ベースライン見通しに重要な変更がなければ、7月も利上げを行う可能性が高い
・スタッフ見通しは実質成長率を23年0.9%、24年1.5%、25年1.6%と予想(小幅下方修正)
(前回3月は23年1.0%、24年1.6%、25年1.6%
インフレ率を23年5.4%、24年3.0%、25年2.2%と予想(小幅上方修正)
(前回3月は23年5.3%、24年2.9%、25年2.1%
コアインフレ率を23年5.1%、24年3.0%、25年2.3%と予想(上方修正)
(前回3月は23年4.6%、24年2.5%、25年2.2%
コアインフレ率の上方修正は、大部分が単位労働コストの上方修正に起因している

2.金融政策の評価:引き続き7月の利上げ継続を示唆

ECBは今回の会合で、0.25%ポイント利上げを決定した。これで22年7月以降、政策金利を合計4.00%ポイント上昇させたことになる。

今回の利上げの決定は、3月の声明文で提示した反応関数((1)最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、(2)基調的なインフレ動向、(3)金融政策の伝達状況)をもとに、最新データに依存して判断した形であるが、質疑応答ではベースライン見通しに重要な変更がなければ、7月も利上げを行う可能性が高いと言及するなど、タカ派的姿勢が目立った。

実際、(1)に関連して今回公表されたスタッフ見通しでは、市場予想の金利を前提にして1、25年も総合インフレ率、コアインフレ率ともに2%を上回る予想が示された(四半期ベースでも予測期間中(25年末まで)にインフレ率は2%まで低下しない)。特にコアインフレ率は大幅に上方修正されており、質疑応答でも多くの質問が見られた。ラガルド総裁は質疑応答でコアインフレ率の上方修正の主因として、単位労働コストの上方修正を挙げ、労働市場がインフレ率の原動力として主要な一要素となっており、注視・分析していると述べている。

ラガルド総裁は、市場が想定している政策金利のピーク(ターミナルレート、市場はあと1回0.25%ポイントの利上げを想定)についての見解は述べなかったが、今回公表されたインフレ見通しには満足していないと発言、少なくとも現時点において、市場の金利想定を低いと見ていることを示唆した。ただし、インフレ圧力への警戒感を強く示す一方で、次々回9月以降の利上げ継続、あるいは一時停止に関する見解は示さなかった。

そのため、当面の注目点は9月での決定(利上げ継続あるいは一時停止)となるだろう。それまでに公表される経済指標、特にインフレ関連と賃金を含めた雇用関連指標が、今回ECBが提示したベースラインと比較してどのような推移を辿るかが注目される。
 
1 スタッフ見通しにおける具体的な前提は3か月EURIBORで23年3.4%、24年3.4%、25年2.9%。

3.声明の概要(金融政策の方針)

6月15日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • インフレ率は低下しているが、高すぎる状況が長期間続くと予想される
    • 理事会は、インフレ率を中期的な2%目標に速やかに(timely manner)戻すことを確実にすると決意している
    • そのために、本日、3つの主要な政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した
 
  • 本日の理事会の金利引き上げは、理事会のインフレ見通し、基調的なインフレ率、金融伝達の強さへの評価を反映したものである
    • 6月の経済見通しによれば、ユーロシステムのスタッフは総合インフレ率を23年5.4%、24年3.0%、25年2.2%と予想している
    • 基調的なインフレ圧力は、緩和しているという暫定的な兆しはあるものの、引き続き強い
    • スタッフは、過去の上振れサプライズと、雇用環境の堅調さがディスインフレに及ぼす影響を加味して、特に今年および来年のコアインフレ見通しを上方修正した
      • 現在の見通しは、23年5.1%、24年3.0%、25年2.3%に達する
    • スタッフは経済見通しをやや下方修正した
      • 現在の経済見通しは23年0.9%、24年1.5%、25年1.6%である
 
  • 同時に、理事会の過去の利上げは、金融環境に強力に伝達され、経済にも段階的に影響が生じている
    • 借入費用は急激に上昇し、貸出伸び率は減速している
    • 金融環境のタイト化は、さらなる需要鈍化とあいまって、インフレ率が将来、目標に向かって低下する理由となる
 
  • 理事会の将来の決定に関して、中期的に2%というインフレ目標への回帰を速やかに達成するため、十分に制限的な水準に3つの政策金利を設定し、必要な期間その水準で維持するつもりである
    • 理事会は、制限的な水準と期間に関して適切に決定するため、引き続きデータ依存のアプローチを続ける
    • 特に、理事会の金利決定は、引き続き、最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、基調的なインフレの動向、金融政策の伝達状況によって決定する
 
  • 理事会は7月で資産購入策の下での償還再投資を停止することを確認した
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は3つの政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した(利上げの決定)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.00%
    • 限界貸出ファシリティ金利:4.25%
    • 預金ファシリティ金利:3.50%
    • 6月21日から適用
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(内容の変更なし)
    • APP残高は償還額を全額は再投資せず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
    • この削減は23年6月末まで平均月額150億ユーロのペースとなる
    • 理事会は7月にAPPの償還再投資を停止する
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
    • PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(変更なし)
    • 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(内容の変更なし)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(一部修正)
    • インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
    • (「ECBには必要があればユーロ圏の金融システムに流動性を供給する十分な手段がある」との記載は削除)

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の利上げとスタッフ見通しへの言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • ユーロ圏経済はここ数か月停滞している
    • 昨年10-12月期と同様、23年1-3月期も、民間および公的支出が減少するなか、経済は0.1%縮小した
    • 短期的には、経済成長率は引き続き弱いが、インフレ率が低下し、また供給制約が緩和されることに伴って、今年にかけて強くなるだろう
    • 経済の各部門の状況は不均一である
      • 製造業は、世界的な需要の低迷とユーロ圏の金融環境がタイト化するなかで引き続き低迷する一方、サービス業は引き続き強靭である
 
  • 労働市場は引き続き強さの源泉になっている
    • 数百万もの雇用が今年1-3月期に追加され、失業率は4月に6.5%と歴史的な低水準にある
    • 平均労働時間もまた上昇しているが、コロナ禍前の水準よりも幾分低い状態に留まっている
 
  • エネルギー危機の解消に伴い、政府は強調して関連する支援策を迅速に終了させ、中期的なインフレ圧力を強め、さらに強力な金融政策での対応する事態を避けるべきである
    • 財政支援策は、我々の経済をより生産的にし、高い公的債務を段階的に削減させるよう計画されるべきである
    • ユーロ圏の、特にエネルギー部門での、生産余力を強化させる政策は、中期的な物価上昇圧力の削減に寄与するだろう
    • EUの経済統治枠組み(economic governance framework)の改革は迅速に完了されるべきである
 
(インフレ)
  • ユーロスタットの速報値によると、インフレ率は4月の7.0%から5月には6.1%まで低下した
    • この低下は広範にわたる
    • エネルギーインフレは4月に上昇したが、5月には再び下降トレンドに戻り、マイナスとなった
    • 食料インフレは再び低下したが、引き続き12.5%と高水準にとどまる
 
  • エネルギーと食料品を除くインフレは5月5.3%と4月の5.6%から低下、2か月連続で低下している
    • 財インフレはさらに低下し、4月の6.2%から5.8%となった
    • サービスインフレは、5.2%から5.0%とここ数か月で初めての低下した
    • 基調的なインフレ率の指標は引き続き強いが、いくつかには暫定的な緩和の兆しが見られる
 
  • 過去のエネルギーコストの上昇は、依然として経済全体の物価を押し上げている
    • 経済再開にかかるペントアップ需要もまた、特にサービス部門において、インフレ率を押し上げている
    • 賃金上昇は、部分的には一時的な手当てを反映して、インフレ率の源泉としての重要性を増している
    • 1人当たり雇用者報酬は1-3月期に5.2%上昇、妥結賃金は4.3%上昇した
    • 加えて、いくつかの部門では、特に需要が供給を超過したことで、企業が利益を比較的高水準に維持している
    • 長期のインフレ期待に関する多くの指標は、現在は2%付近にあるものの、いくつかの指標は上昇しており、引き続き注視が必要である
 
(リスク評価)
  • 経済成長とインフレ見通しには引き続き大きな不確実性がある
    • 成長率への下方リスクには、ロシアのウクライナへの正当化できない戦争や、地政学的な緊張が広範囲に増加すること、それらにより世界的な貿易が断片化する可能性が、ユーロ圏経済の重しになる
    • 金融政策の効果が予想以上に強力に働くこともまた、成長率の下押しになる
    • 金融市場の緊張は、金融環境の予想以上のタイト化と景況感の低下をもたらす可能性がある
    • 世界的な経済成長の弱含みもまた、ユーロ圏経済の重しとなる
    • しかしながら、労働市場の強さと不確実性の解消が人々や企業の景況感を改善させ、支出を増加させれば、予想よりも成長率が高まる可能性がある
 
  • インフレ率の上方リスクには、ロシアのウクライナへの戦争に関連して、エネルギーや食料品価格の上昇圧力の再発がある
    • インフレ期待が我々の目標を継続的に上回ること、もしくは賃金や利益率(profit margin)の予想以上の上昇もまた、中期的に見てもインフレ率を押し上げる可能性がある
    • 多くの国における最近の賃金交渉の結果も、インフレ率の上方リスクに追加される
    • 対照的に、金融市場の緊張が再発すれば、予想よりも早くインフレ率が低下する可能性がある
    • 需要の低迷、例えば金融政策が強く伝達されれば、特に中期的には物価上昇圧力が低下するだろう
    • 加えて、エネルギー価格の減少と、食料インフレの低下の他の財・サービスへの転嫁が現在の予想よりも急速に進めば、インフレ率も速く低下するだろう
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ECB政策理事会-7月の利上げも予告、タカ派姿勢を継続】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ECB政策理事会-7月の利上げも予告、タカ派姿勢を継続のレポート Topへ