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- 英国金融政策(5月MPC)-0.25%ポイント利上げ、金融不安の影響は限定的
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1.結果の概要:12会合連続での利上げを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を4.50%に引き上げ(0.25%の利上げ、7対2で2人は4.25%で据え置きを支持)
【議事要旨等(趣旨)】
・GDP成長率見通しは、23年0.25%、24年0.75%、25年0.75%(上方修正)
・CPI上昇率は、23年5%、24年2.25%、25年1%(10-12月期の前年比、上方修正)
・委員会はインフレ見通しへのリスクは大きく上方に傾いていると判断しており、このリスクを織り込むとインフレ率の動向は、中期的に2%目標と同じかそれをやや下回る水準と言える
・FPCは英国金融システムが強靭であると評価しており、最近の世界的な銀行部門の動向による信用条件の厳格化がGDPに及ぼす影響は小さいものと見られる
2.金融政策の評価:金融システムリスクの影響は限定的と評価
今回のMPCの決定に合わせて、金融政策報告書(MPR)も公表され見通しが更新された。成長率見通しは前回2月のMPRから上方修正、インフレ率見通しも上方修正されている。なお、前提となる政策金利は、今年中にあと1回程度の利上げが見込まれている(23年10-12月期に政策金利4.76%でピーク)。
MPRにおけるインフレ見通しは25年以降、目標である2%を割り込み、見通し終盤には1%台前半で推移する形となっているが、前回2月のMPRより目標に低下するペースは遅くなっている。また、MPCではインフレ見通しに対するリスクが上方に傾いていることを勘案すると、予測期間終盤のインフレ見通しがより目標に近くなることと強調している。
一方、金融システム不安への評価については、英国の見通しに与える影響は限定的であるとしている。
今後の政策金利については、声明文において前回と同様の表現を維持し、インフレ圧力が永続的であればさらなる引き締めが必要となる旨を残しているが、インフレ見通しが今回作成したMPRの予想通りに推移するのであれば、その前提になっている、あと1回の利上げで終了するというのが目安となりそうだ。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を0.25%ポイント引き上げ、4.50%とする(7対2で決定1)、2名は現状維持で4.25%とすることを主張した
- 委員会は経済活動とインフレ見通しを更新し、5月の金融政策報告書(MPR)として公表した
- この見通しは、23年10-12月期に4.75%付近でピークに達し、その後見通し期間終了時に3.5%をやや上回るとされる市場観測の政策金利経路を前提にしている
- 短期的な世界経済見通しに関しては良いニュースがあり、英国ウエイトの世界GDP成長率は、見通し期間にわたって緩やかに成長すると見られている
- リスクは残存しているが、さらなるショックがなければ、最近の世界的な銀行部門の動向による信用条件の厳格化がGDPに及ぼす影響は小さいものと見られる
- ヘッドラインインフラ率は米国とユーロ圏で低下したが、コアインフレ率は依然として高い水準にある
- 英国のGDPは、今年前半は横ばいになるものの、ストライキと追加の銀行休日を除く基調的な成長率は緩やかに成長する見込みである
- 経済活動は2月に予想されていたよりも弱くなく、委員会は、歴史的な基準よりも弱いものの2月報告書よりもかなり強い需要の経路になると判断した
- 世界経済成長率の見通し改善は、低いエネルギー価格、春季予算による財政支援、労働市場のひっ迫が家計の予防的貯蓄を減少させる可能性を反映している
- 労働市場が緩み始めたという指標も見られるが、短期的には2月の報告書の想定よりもひっ迫を続けると見られる
- 失業率は24年末まで4%を下回り、その後見通し後半には上昇して4.5%程度になると予想している
- CPIインフレ率は、23年1-3月期に10.2%と2月や3月のMPC会合で予想されていたよりも高く、主にコア財と食料品価格が上振れの驚きとなった
- 引き続き高いが、民間部門の名目賃金上昇率とサービスインフレは予想に近い
- CPIインフレ率は、1年前の物価水準が急激に上昇したという比較効果が剥落することで、4月以降急速に減少すると見られる
- 加えて、春季予算のエネルギー価格保証(EPG:Energy Price Guarantee)の拡大と卸売エネルギー価格の減少がともにCPIインフレの家計のエネルギー料金の抑制に貢献するだろう
- しかし、食料インフレは依然の予想よりも減少が遅い
- 他の財価格の情報と合わせて、CPIインフレ率の減少が2月報告書よりもより遅いという委員会の見通しになっていることを説明している
- 市場の金利見通しを前提にしたMPCの最新の見通しでは、CPIインフレ率は2・3年の時間軸では1%をやや上回るまで下落し、2%目標を大きく下回る
- これは、経済の弛みの度合いが拡大することと、CPIインフレ率を押し下げる外部からの圧力の減少を反映している
- しかしながら、CPIインフレ率が持続的な2%目標に戻るペースに対しては大きな不確実性がある
- 委員会は引き続きインフレ見通しを取り巻くリスクが大きく上方に傾いていると判断しており、これは、インフレ率に対する外部の費用ショックが賃金への2次的効果(second-round effect)を生み、国内物価上昇の発生時より解消時のほうが時間を要する可能性を反映している
- これらのリスクを織り込んだ平均的なCPIインフレ率の動向は、中期的に2%目標と同じかそれをやや下回る水準になる
- MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 経済はかなり大きく重なったショックの中にある
- 金融政策により、これらのショックによる調整が続いてもCPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
- 金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される
- 委員会は、今回の会合で政策金利を0.25%ポイント引き上げ、4.50%とすることを決定した
- これによりMPCは、CPIインフレ率の見通し分布が上方に偏っていることに見られるように、国内物価や賃金が持続的に強まるというリスクに引き続き対処する
- 国内のインフレ圧力の緩和ペースは、これまでの政策金利の大幅な引き上げの影響も含めて、経済動向に依存する
- 世界的な金融市場と経済の見通しを取り巻く不確実性は引き続き高い
- MPCは、労働市場のひっ迫感や賃金上昇率、サービス物価インフレの動向といったインフレ圧力が永続的かの指標について引き続き注視する
- 仮により永続的な圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる
- 将来にわたって、MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な政策金利の調整を行う
1 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員およびテンレイロ委員。前回もディングラ委員およびテンレイロ委員は反対票を投じて現状維持を主張した。
4.議事要旨の概要
- GDP成長率見通しは、2023年0.25%、24年0.75%、25年0.75%
(2月時点では23年▲0.5%、24年▲0.25%、25年0.25%)- CPI上昇率は、2023年5%、24年2.25%、25年1%(10-12月期の前年比)
(2月時点では、23年4%、24年1.5%、25年0.5%) - 失業率は、2023年3.75%、24年4%、25年4.25%(10-12月期)
(2月時点では、23年4.25%、24年4.75%、25年5.25%)
- CPI上昇率は、2023年5%、24年2.25%、25年1%(10-12月期の前年比)
- 最新の通貨・金融状況の動向に加えて、委員会は、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻後の英国と米国の市場金利の動きの違いについて議論した
- 英国の短期金利はSVB破綻前の水準程度まで上昇したのに対して、米国はSVB破綻時の低水準付近にとどまっている
- 市場関係者は、これについて、部分的にはCPIインフレ率の上振れなど英国固有の要因と、米国の中堅銀行のストレスにより信用環境がタイト化すると予想されているといった米国固有の要因の双方を指摘している
(金融市場の伝達)
- 金融政策はインフレ抑制に働いている
- 政策金利の変更は予想通り、新規の住宅ローンや企業の借入金利に波及している
- 2月の報告書以降、海外の銀行破綻が資産価格の変動を増大させ、英国銀行における卸売資金調達スプレッドを拡大させた
- しかしながら、これらは短期に終わり、家計や企業が直面する金利への影響はほとんどなかった
- 家計の要求払い預金への波及が見られない一方で、定期預金や固定金利の債券の金利はより参照金利の変化に沿って上昇している
- これらの変化は依然として経済に影響を及ぼしている
- 例えば、2年物の75%LTV(負債比率)の新規住宅ローン金利や、一般の新規住宅ローンの実効金利は上昇しているが、既存の住宅ローンの実効金利はまだ追っている状況にある
- 金融政策のこうした伝達ラグを勘案すると、21年12月以降の政策金利の引き上げは今後数四半期でさらに経済の重しとなるだろう
- MPCは決定にこうした要因を織り込んでいる
(当面の政策決定)
- 2月までの3か月間の民間部門の定期賃金上昇率は6.9%となり、2月の報告書の予想に近い
- KPMB/RECの正社員給与指数(permanent salaries index)はONSの公表する民間部門の給与の伸びに先行する傾向があるが、夏に大きく下落した後、最近は伸び率が横ばいとなっている
- 家計と企業のインフレ期待はわずかに低下したが、引き続き高い水準にとどまっている
- 金融安定委員会(FPC:Financial Policy Committee)はMPCに対して引き続き最近の銀行部門の動向について説明した
- FPCは引き続き英国の銀行システムは強靭であり、頑健な資本と強固な流動性を有していると判断した
- 現在の経済見通しに対しても強靭で、見通しよりも経済状況が悪化したとしても高金利下で経済を支える能力がある
- FPCは、海外の銀行がより広範に英国金融システムに及ぼす間接的な影響のリスクに鑑みて他地域の動向も注視している
(当面の政策決定)
- 7人の委員が政策金利を0.25%ポイント引き上げ、4.50%にすることが妥当だと判断した
- これらのメンバーにとって、労働市場がひっ迫するなかで、経済の強靭性についてのサプライズが繰り返されていた
- これらの状況下では、国内物価圧力がより持続的になるリスクがあった
- 5月の見通しでは、より高い政策金利のもとでCPIインフレ率が2%に戻るまでより長くかかると予想されていた
- 政策金利の0.25%ポイントの引き上げは、需要見通しが以前より強まり、インフレの目標への回帰がより長期化するという、インフレ見通しの上方リスクに対処する良い方法である
- 2名の委員は4.50%で政策金利を維持することを希望した
- エネルギー価格やその他のコストプッシュショックが解消されることで、CPIインフレ率は23年に大きく低下し、国内の価格設定に関連した上昇圧力も軽減する
- 同時に、金融政策の効果のラグにより、過去の利上げの効果が依然として顕在化していないことを意味する
- 現在の政策金利でも、中期的にはインフレ率を2%から大きく下方に押し下げると見られる
- 金融姿勢はより制限的になっているため、足もとの金利引き上げが、将来の逆転換をもたらすことになる
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年05月12日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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