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- 英国金融政策(6月MPC)-直近の指標上振れを受け、利上げ幅を拡大
1. 結果の概要:13 会合連続での利上げを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利を5.00%に引き上げ(5.00%の利上げ、7 対2 で2 人は4.50%で据え置きを支持)
【議事要旨等(趣旨)】
・労働市場のひっ迫と需要の底堅さを背景にした、最近のデータに関する大幅な上振れは、インフレ動向がより持続的であることを示している
・最近の賃金上昇とサービスインフレ率の上振れサプライズは、今回の会合での0.5%ポイントの利上げを要求する(利上げを支持した委員の判断)
・将来の賃金上昇や財インフレ圧力が弱まっているとする指標はあるものの、高インフレ期おいて先行指標としての特性が機能するかはまだ試されていない(利上げを支持した委員の判断)
2.金融政策の評価:フォワードルッキングではなく、足もとの指標上振れを警戒
予想以上の利上げとなった背景には、賃金上昇率とサービスインフレ率の強さにあり、直近で公表されたそれぞれの結果が、5月公表の見通しをいずれも0.5%ポイント上回ったことが挙げられる。
前回5月で公表された金融政策報告書(MPR)では、当時の市場観測の金利予測(政策金利ピークが4.75%、今後3年の平均で4%強)を前提に、25年以降はインフレ率が2%を割り込むというやや楽観的な見通しになっていた。MPCは前回会合時に、見通しに対するリスクは上方に傾いていると評価していいたが、1か月余りですでに上振れリスクが顕在化しつつある。
こうした状況を受けて、市場観測の政策金利予測は大幅に上方修正されている(政策金利見通しは今後3年の平均で5.5%程度と大幅に上昇した)。
また、今回のMPCでは利上げを支持した9人中7人が、先行指標よりも足もとの上振れを警戒する判断を示している。次回の会合ではMPRが公表され見通しも更新されるが、金融政策はより足もとのデータに左右されしやすい展開になっていると言える。
そのため、賃金上昇率とサービスインフレが高止まりして持続的となっている現在の状況が緩和されなければ、市場観測の金利経路が示唆する通り、さらに利上げが続く展開となると見られる。
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
2 据え置きを主張した2名のうちテンレイロ委員は7月で退任予定であり、今回が最後のMPC参加となる。テンレイロ委員の後任はメーガン・グリーン氏(クロール(米国の民間調査・金融顧問会社)のグローバル・チーフエコノミスト)
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
- 委員会は政策金利(バンクレート)を0.50%ポイント引き上げ、5.50%とする(7 対2 で 決定3)、2 名は現状維持で4.50%とすることを主張した
- 委員会は政策金利(バンクレート)を0.50%ポイント引き上げ、5.50%とする(7 対2 で 決定3)、2 名は現状維持で4.50%とすることを主張した
- 前回5 月のMPC会合と5 月の金融経済報告書(MPR)では、市場観測の政策金利は先々3 年間の平均で4%を若干上回るとされていた
- それ以降、米国債金利、特に満期まで短い金利が大幅に上昇し、示唆される政策金利の経路は平均で5.5%となっている
- 住宅ローン金利もまた著しく上昇している
- ポンド為替レートもまた上昇している
- 委員会は引き続き、これまでの政策金利の大幅な引き上げの影響を注意深く監視する
- 5 月の報告書で指摘されたように、住宅ローンの固定金利の割合が高まっていることは、 政策金利の引き上げの影響がしばらくは感じられないことを意味する
- 5 月の報告書で指摘されたように、住宅ローンの固定金利の割合が高まっていることは、 政策金利の引き上げの影響がしばらくは感じられないことを意味する
- 企業調査では、引き続き四半期のGDP成長率が今年半ばに0.25%前後となることを示唆している
- 家計支出の指標はやや強い傾向にある
- 労働力調査では雇用が2-4 月期で0.8%増加しており、5 月の報告書の予想よりも大きい
- この雇用増加と合わせて、非活動率はさらに低下した
- 失業率は3.8%で横ばいとなり、5 月の報告書に沿った数値だった
- 求人・失業比率は低下したが、引き続きかなり高い水準にある
- 民間部門の週当たり平均定期賃金は2-4 月期で7.6%上昇し、5 月の報告書の予想を0.5%ポイ ント上回った
- 3 か月前比でみた賃金上昇率もまた加速している
- KPMG/REC調査による賃金上昇率、中銀エージェントは、しかしながら、今年の残りで週当たり平均賃金上昇率は鈍化することを示唆している
- CPIインフレ率は3 月の10.1%から4 月に8.7%まで低下し、5 月の上昇率も横ばいだった
- これは5 月の報告書の予想よりも0.3%ポイント高い
- サービスインフレ率は5 月に7.4%となり、5 月報告書の予想よりを0.5%ポイント上回 り、コア財インフレ率もまた予想を上回った
- 後者に関する情報は、永続的なインフレ圧力を示唆している訳ではなさそうである
- CPIインフレ率は、エネルギー価格の動向を主因として、今年にかけて大幅に低下すると見られる
- サービスインフレ率は短期的には概ね変わらないと予想している
- コア財インフレ率は、供給網の上流の費用・価格指数の動きを受けて、今年後半には減少すると見られる
- 特に、生産者産出価格の前年比はここ数か月かなり急激に低下している
- MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 金融政策により、CPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする(文中の「これらのショックによる調整が続いても」は削除)
- (「経済はかなり大きく重なったショックの中にある」は削除)
- (「金融政策はまた、長期のインフレ期待が2%目標で固定されるよう実施される」は削除)
- MPCは、外的価格ショックによって引き起こされる国内価格と賃金動向の2 次的効果により、それが発生した時よりも、解消される際に時間を要する傾向にあることを認識している
- 労働市場のひっ迫と需要の底堅さを背景にした、最近のデータに関するかなりの上振れ情報は、インフレ動向がより持続的であることを示している
- 委員会は、今回の会合で政策金利を0.50%ポイント引き上げ、5.00%とすることを決定し
た
- MPCは、労働市場のひっ迫感や賃金上昇率、サービス物価インフレの動向といったインフレ圧力が永続的かの指標について引き続き注視する
- 仮により永続的な圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる
- 仮により永続的な圧力があるのであれば、より引き締め的な金融政策が必要となる
- 将来にわたって、MPCは、その責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すために必要な政策金利の調整を行う
4.議事要旨の概要
(通貨金融環境)
- 英国の金利変動は他の主要先進国よりも大きく、OISカーブは米国やユーロ圏と比較して高く、かつ平坦となった
- 部分的には引き続き英国需要の強さに関する情報を反映したものと見られる
- より大きな要因として、市場参加者が英国のインフレの持続性への期待を高めたことが挙げられる
- 最新の労働市場統計とCPI統計が公表する前に実施された、市場参加者調査(MaPS)の中央値では、1 年先と3 年先のCPIインフレ率が5 月調査の2.7%、2.0%より上昇し、それぞれ3.1%、2.2%となった
- 前回の会合以降、英国の持ち家の固定住宅ローン金利は、ここ数か月の下落の後、大幅に上昇した
- 大部分は、無リスクの参照金利の上昇を反映したものになっている
- 市場シェア平均の負債比率(LTV)75%の2 年固定ローン金利は前回会合時から0.90%ポイント程度上昇し5.8%に、5 年固定ローン金利は0.80%ポイント程度上昇し5.1%となった
- 前回の会合以降、持ち家の住宅ローンに関する商品はネットで減少した
(供給、費用、価格)
- 5 月の報告書以降のCPI上昇に関するニュースは、コア要素の上振れに集中しており、大部分がコア財についてだった
- コア財のインフレ率は5 月に6.8%に上昇し、自動車および娯楽品がこのニュースの大部分を占めた
- 自動車価格の驚くべき上昇は、これまでの半導体不足を受けた2-3 年物の中古車の一時的な供給不足を反映しており、ONSが価格調査の対象としているものと一致していることを受けたものである
- 非エネルギーの輸入物価価格はさらに上昇しており、コア財生産者と販売者が依然として高費用に直面していることが示唆される
- 中銀スタッフの分析では、世界的な輸出価格がコア財インフレの上昇の大部分を占めている
- 委員会の5 月のMPCで公表された、今後3 年間の平均政策金利が4%をやや上回るとの前提での、最新の経済活動とインフレ見通しではCPIインフレ率は2・3 年後には1%をやや上回るまで低下し、2%目標を大きく下回るとされている
- これは、経済の弛みの度合いが拡大することと、CPIインフレ率を押し下げる外部からの圧力の減少を反映している
- しかしながら、委員会は、インフレ率に対する外部の費用ショックが賃金への2 次的効果を生み、国内物価上昇の発生時より解消時のほうが時間を要する可能性を反映している引き
続きインフレ見通しを取り巻くリスクが大きく上方に傾いていると判断していた
- 前回のMPC会合以降、多くの英国の経済データが発表され、委員会が持続的なインフレ圧力に関する指標として注視していたものも含まれる
- (金融政策方針に記載されている指標について言及)
(当面の政策決定)
- 7 人の委員が政策金利を0.50%ポイント引き上げ、5.00%にすることが妥当だと判断した
- 労働市場のひっ迫と需要の底堅さを背景に、最近、多くの上振れニュースがあり、これらがインフレ率のさらなる持続性を示唆している
- 将来の賃金上昇や財インフレが弱まっているとする指標はあるものの、高インフレ期において先行指標としての特性が機能するかはまだ試されていない
- 最近の、賃金上昇とサービスインフレ率の上振れサプライズは、今回の会合における0.5%ポイントの利上げを要求するものだと示唆される
- 2名の委員は4.50%で政策金利を維持することを希望した
- 23 年にわたってエネルギー価格やその他のコストプッシュショックが解消を続け、コア財インフレ率はラグを伴って急激に低下し、国内賃金と物価の持続性に関する状況も軽減す
ると見られる - 最近の強い結果とは対照的に、将来の指標は賃金上昇やインフレの大幅な低下を示している
- また、金融政策の効果のラグにより、過去の利上げの効果が依然として顕在化していないことを意味する
- ここ数か月の追加的な金利引き上げは、データが示す追加的な持続性を相殺する以上のものとなっている
- 現在の政策金利でも、中期的なインフレ率を目標より下方に押し下げる可能性が高い
- 最近の市場金利の上昇は、この効果を増幅、エネルギー価格がピークアウトし、過去の利上げがインフレ率を大きく押し下げた後の、24 年後半以降のインフレ率に影響を及ぼすと見られる
- 23 年にわたってエネルギー価格やその他のコストプッシュショックが解消を続け、コア財インフレ率はラグを伴って急激に低下し、国内賃金と物価の持続性に関する状況も軽減す
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年06月23日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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