2023年06月14日

英国雇用関連統計(23年5月)-定期賃金上昇率が7%超に

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率はやや低下

6月13日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【5月】
失業保険申請件数1前月(154.91万件)から1.36万件減の153.55万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は3.9%となり、前月(同3.9%)から横ばいだった
給与所得者数2前月(3000.95万人)から2.3万人増の3003.24万人となった。
増減数は前月(+0.7万人)から増加し、市場予想3(+2.3万人)と一致した。

【4月(23年2-4月の3か月平均)】
失業率は3.8%で前月(3.9%)からやや低下、市場予想(4.0%)を下回った(図表1)。
就業者は3308.9万人で3か月前の3283.9万人から25.0万人増加した。
増減数は前月(18.2万人)から増加し、市場予想(15.0万人)も上回った。
週平均賃金は、前年同期比6.5%で前月(6.1%)から上昇、市場予想(6.1%)も上回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは約85%のデータから推計(22年7月から推計方法変更)。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:定期賃金上昇率が7%超に

まず、5月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は23年3-5月の平均で105.1万件となり22年3-5月平均(130.2万件)をピークに減少傾向が続いており(図表3)、足もとでは産業別には飲食・居住、卸・小売、医療、専門サービスといったサービス業を中心に減少が目立った。単月求人数も5月に102.5万件となり、減少傾向にある4

給与所得者データでは、5月の給与所得者数は、製造業や建設業、卸・小売りが減少したが、事務サービスなどが増加し、全体でも増加した(図表4)。また、4月の増減は、前月速報値では大幅減少(▲13.6万人)となっていたが、最新の改定値では増加(+0.7万人)に修正された。

5月の給与額(中央値)は前年同月比7.0%で4月(7.0%)から再び伸び率が減速した。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
4月までのデータ(労働力調査)では、失業率が3.8%と微減した。失業者と非労働力人口がそれぞれ減少し、就業者が増加した形となった。50才未満の層で非労働力人口の減少が進んだ結果、労働参加率は63.7%まで回復している(コロナ禍直前のピークは64.4%)。
(図表5)名目賃金の推移/(図表6)英国の労働争議件数と労働損失日数
労働時間は、32.0時間(前年同期差+0.1時間)、フルタイム労働者で36.7時間(同+0.2時間)となった(前掲図表2)。ストライキによる労働時間の抑制という影響はあるものの、雇用と労働時間の回復を受けて、週当たり総労働時間は、コロナ禍後で初めてコロナ禍前ピーク(19年8-10月)を上回った(コロナ禍前比で+0.3%)。賃金は、名目賃金が23年2-4月の前年同期比で6.5%、実質賃金は▲2.0%でいずれも上昇した(前掲図表2)。ボーナスを除く定期賃金伸び率は前年同期比7.2%と、21年4-6月期以来の7%超えとなり、市場予想(6.9%)も上回った(図表5)。

処遇改善を求めたストライキは引き続き多発しており、件数ベースでは615件となった。ただし、労働損失日数は4月で25.7万日と、3月(55.3万日)から減少した(図表6)。ストライキの主体は、年初以降は件数・労働損失日数ベースいずれも公的部門が中心となっている。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていないため留意が必要。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年06月14日「経済・金融フラッシュ」)

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