2023年07月07日

「著作権に厳しい」ディズニーがキャラクターを積極提供-どんなCSR活動をしているのか

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――はじめに

ディズニー社にとって、ミッキーマウスをはじめとしたキャラクターのIP(Intellectual Property)=知的財産権は、会社にとって最もプライオリティの高い資産である。ディズニーの歴史は著作権なくして語れない。
図1 知的財産権と著作権の関係
まずは、ミッキーマウスが誕生する6年前の1922年に誕生したジュリアス・ザ・キャットについて触れよう。ウォルト・ディズニーにとって最初のアニメーションスタジオであるラフォグラム・フィルムが作成したジュリアス・ザ・キャットは、フィリックスガムでおなじみの1919年に誕生したフィリックス・ザ・キャットに類似していることから著作権侵害として訴えられ使用できなくなった。

また、1927年に生み出されたオズワルド・ザ・ラッキー・ラビットも2006年に権利が返還された今でこそ、世界中のディズニーパークスでの活躍の機会や最新アニメが作られるようになったが、1928年に配給先のユニバーサル・ピクチャーズと製作費に関して交渉が決裂し、以来所有権を失っていた。このような過去があるからこそ、ディズニー社はIPを重んじており、「ディズニーは著作権に厳しい」というイメージが構築されてきたのである。

2――小学校のプールに描かれたミッキーマウスは著作権侵害か

2――小学校のプールに描かれたミッキーマウスは著作権侵害か

ディズニー社とのキャラクターをめぐる著作権侵害の事案としては、日本では1987年に滋賀県の小学校で、卒業記念にプールの底に描かれたミッキーマウスの絵がディズニー社から著作権を侵害しているとして、塗りつぶされてしまったという事例がある。当時のサンケイ新聞によれば、ディズニー側は
 
「無断使用は一切認められない。事前に許可を得てからやるべきだった。子供たちには気の毒だが、他人の権利を知る教訓になったと思う」

とコメントしている2。また、昨年動画配信サービス「ディズニー+」で配信されたドキュメンタリー番組「ミッキーマウス:ザ・ストーリー」では、1989年にフロリダの保育園の壁に描かれたディズニーのキャラクターを消すように著作権侵害を訴えたことが触れられている。結果だけを見れば「子どもたちのために描かれた絵が消された」と穏やかではない話のように聞こえるが、彼らは自社の宝ともいえるIPを守ろうとしたに過ぎない。

ディズニーのキャラクターが子どもたちの施設で描かれるのは、「その施設が子どもたちにとって楽しい場所であると思ってもらいたい」「そのキャラクターを見る事で子どもたちが安らぎを感じてほしい」との施設側による思いからである。もちろんディズニー社も、自社のキャラクターが子どもたちにとってどれだけ大切な存在かは当然認識しており、特に医療現場において自社のキャラクターがもたらすマジカルな効用を長年にわたって提供してきている。今回はディズニーがCSRの一環として、自社キャラクターやコンテンツを如何に活かしているか紹介したいと思う。
 
2 サンケイ新聞「プールの絵著作権違反」 昭和62年7月10日号23頁

3――ケース1

3――ケース1「スターライト製ディズニーデザインの病衣の提供」

2023年6月19日、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社は、認定NPO法人 難病ネットワークと協力し、ディズニーが病気と闘う子どもたちを支援するNGO団体スターライト・チルドレン・ファンデーションと協力して制作しているスターライト製ディズニーデザインの病衣を、国内6病院に日本で初めて提供したことを発表した3。これは、病気と闘う子どもたちとその家族に、「安らぎと楽しいひと時をお届けすること」を目的としたもので、今回はテスト導入として、ミッキーマウス、ミニーマウス、ドナルドダック、グーフィーの病衣が、国内6病院で順次提供される。病気と闘う子どもにとっても、サポートする保護者にとっても、慣れない環境に不安を感じることが多い中で、病院での時間が前向きで希望を持つことができるよう長年米国ウォルト・ディズニー本社が取り組んできた。キャラクター・デザインの病衣提供を通じた支援は、2018年から米国内で本格的にスタートしており、 スターライト・チルドレン・ファンデーションと協力し、全米500以上のこども病院や小児医療施設に提供してきた。子どもたちが病院での生活の中で、快適さと病衣を選ぶ小さな楽しみの提供につながっている。
 
3 ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 プレスリリース「<最も必要とされるときに、安らぎと楽しいひと時を子どもたちへ> スターライト製ディズニーデザインの病衣を日本で初めて提供 岩手・群馬・東京・神奈川・静岡の国内6病院でテスト導入を開始」 2023年6月19日 https://www.disney.co.jp/corporate/news/2023/20230619

4――ケース2

4――ケース2「インタラクティブな壁紙」

また、2022年9月20日には、神奈川県立こども医療センターにディズニーのキャラクターをあしらったインタラクティブな壁紙を日本で初めて提供している4。外来待合室や重症心身障害児施設の壁紙にはAR機能が搭載され「Disney Team of Heroes アプリ」を使用することで、ゲーム、インタラクティブな物語、アニメーションのキャラクターとの出会いなど、子どもたちにとって病院の待ち時間が退屈にならないような仕組みづくりがされている。他にも医師や看護師のスタッフバッジにディズニーキャラクターがデザインされたり、入院中の子どもたちが少しでもポジティブな経験ができるように動画配信サービス「ディズニー+」が提供されている。この取り組みは2023年6月19日より国立成育医療研究センターでもはじまり、同センターには国内最長となる約80メートルのインタラクティブな壁紙が提供されている5。ちなみに主な壁紙をデザインしたのはジョーイ・チュウというデザイナーで、東京ディズニーランドのイッツアスモールワールドや東京ディズニーセレブレーションホテルなどのアートを担当している。
 
4 ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 プレスリリース「ディズニー、認定NPO法人 難病のこども支援全国ネットワークと協力し 神奈川県立こども医療センターにディズニーのキャラクターをあしらった壁紙を日本で初めて提供 ~病気と闘う子どもたちに、安らぎと楽しいひと時をお届け ~」2022年9月20日 https://www.disney.co.jp/corporate/news/2022/20220921
5 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 「新着情報 ディズニーから壁紙や、ムービーシアターなどのご寄付をいただきました」2023年6月19日 https://www.ncchd.go.jp/news/2023/0619.html

5――ケース3

5――ケース3「ディズニーカスタムメイドなMRI装置」

このような病院での入院生活の不安を取り除く取組み以外にも、2021年にはヘルスケア製品・医療関連機器を中心とする電気機器関連機器メーカーであるフィリップス社と、MRI装置に関して提携することを発表している。欧州全土の6つの病院で、ディズニーのカスタムメイドなアニメーションが導入されたMRI装置を実働させ、子どもたちの検査における心理的不安の軽減が期待されている6。MRI検査特有の音や閉鎖空間は大人でさえも不安になるほどで、子どもへのストレスは計り知れない。ディズニーキャラクターのアニメーションを見ている間に検査が済むのならば、子どものストレスは大きく軽減されるだろう。
図2 キャラクターから得られる8つの効能
バンダイキャラクター研究所が行った「第 1 回キャラクターと癒し調査(2000年)」7によれば「あなたはキャラクターに何を望みますか?」とのキャラクターの効能についての質問に対して、回答者の7割が「やすらぎ」と回答している。また、エッセイストの相原博之は、著書『キャラ化するニッポン(2007年)』8の中で、我々がキャラクターに期待している効用を8つ挙げているが、筆者はその中でもやすらぎ、庇護、現実逃避、元気・活力、気分転換の5つの効用は、我々がキャラクターの存在によって不安感や苦痛の軽減に期待したり、嫌なことへ立ち向かう活力となる理由であると考えている。

辛いことを乗り越えなくてはいけない病院の生活では、子どもたちは日々病気と併せて不安や孤独、心細さとも闘わなくてはならない。そのなかでディズニーのキャラクターがいつも寄り添っていてくれるのならば、子どもたちの安らぎや勇気に繋がるだろう。
 
6 The Walt Disney Company Europe, Middle East & Africa Philips and Disney join forces to improve the healthcare experience of children 2021年3月3日 https://thewaltdisneycompany.eu/philips-and-disney-join-forces-to-improve-the-healthcare-experience-of-children/
7 バンダイキャラクター研究所編(バンダイキャラクター研究所時代レポート, Vol.1 . 「キャラクターと癒し調査」結果報告書 バンダイキャラクター研究所, 2000.10
8 相原博之 (2007)『キャラ化するニッポン』講談社現代新書
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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