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性別を理由とする不利益~男性は低年齢ほど不利益を感じている

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――はじめに~「性別を理由として不利益を被った」と感じている割合は、女性は低年齢ほど低いが、男性は低年齢ほど高い

男女それぞれについて年齢別にみると、女性は55歳以上では23.6%であるのに対し34歳以下では17.3%と、年齢が低いほど低い(図表1)。一方、男性は55歳以上では6.4%であるのに対し34歳以下では15.4%と、年齢が低いほど高く、34歳以下では、男女差は小さい。
この30年間、企業等においては、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ることや、女性が妊娠中および出産後の健康を確保すること、子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められ、特に女性の就労環境を改善しようとしてきた。そのため、若年ほど女性が不利益を被っていると感じる割合が低いことは想定どおりと言えるだろう。しかし、今回の結果からは、そういった環境の中で、若年男性が不利益を被っていると感じる状況が生じている可能性があると考えられる。
そこで、本稿では、34歳以下の男性でどういった人が不利益を被っていると感じているかを分析することで、どういった不利益が起きているのか考えたい。
2――分析方法・結果
本稿で使用するデータは、ニッセイ基礎研究所が2019年3月から毎年実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果である。調査はインターネットで2023年3月に実施した。対象は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女で、回収件数は 5,747件だった。全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収した。
若年男性就労者に生じ得る不利益として、男性という理由で仕事と家事や育児のバランスがとりにくいこと、近年、男性の家事・育児負担への期待が高すぎること、職場の女性の権利や働きやすさばかりが注目されること等が考えられる。
そこで本稿では、まず、必要な質問に回答した4,788人を対象として性・年齢別に働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を確認することで34歳以下の男性全体の特徴を把握する。続いて、34歳以下の男性681人に分析対象を絞り、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数、家族構成や年収、働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を説明変数(図表2参照)として重回帰分析を行うことで、不利益を被っていると感じたことがある34歳以下の男性の考え方や職場の特徴をみる。
男性全体と比較すると、「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」が高く、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」が低い。ワークエンゲージメント得点は、全体よりも高い傾向があった。男性全体と比較してもやや高かった。
34歳以下の女性と比べると、「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」が8ポイント近く低く、女性と比べると両立支援制度が利用できていないようだ。同年代の女性と共通するのは、「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分とれないでいる」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」「男女に関係なく、業績で公平に評価されている」が、それぞれ上の年代より高い傾向があることと、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」が、それぞれ上の年代より低いことである。
34歳以下の男性の特徴として、仕事で成功したいといった思いが強く、時間に余裕がないことがあげられる。昔ながらの男女の役割分担意識があるようだが、「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」は35歳以上と比べて高いことや、「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する」が35~54歳よりも高い傾向があることから、家庭生活も大切にしたいといった気持ちも少し上の世代よりはあるようだ。
1 詳細は、村松容子「ワーク・エンゲイジメントと生産性の単年分析~ワーク・エンゲイジメントと生産性(2)」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2022年07月26日)を参照のこと(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/71893_ext_18_0.pdf?site=nli)
続いて、34歳以下の男性681人に対象を絞り、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」を被説明変数、家族構成や年収、働き方や家庭との両立に対する考え方や職場の現状を説明変数として重回帰分析を行った。
説明変数として使用した変数は、家族状況(独身/既婚・子どもなし/既婚・子どもあり)、本人年収(300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくない)、図表2で示した働き方に対する考え方や職場の現状、およびワークエンゲージメントである。「仕事に満足だ」と「家庭生活に満足だ」は4段階(満足/まあ満足/やや不満足/不満足)で尋ね、順に4~1点を配点し、それ以外の10項目と被説明変数の「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」は5段階(あてはまる/ややあてはまる/どちらとも言えない/あまりあてはまらない/あてはまらない)で尋ね、順に5~1点を配点した。
結果は図表3のとおりである。
「家庭生活に満足だ」「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」「家族のあれやこれやで思うように仕事に時間を配分できない」「セクハラ・パワハラを見聞きする」にあてはまるほど、また、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」にあてはまらないほど「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答していた。また、ワークエンゲージメントが高いほど「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と回答していた。
「仕事に満足だ」「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する」「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべき」といった考え方については不利益を被ったと感じていない人との差はなく、「男女に関係なく、業績で公平に評価されている」「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」「仕事が原因で家族と一緒にすごす時間が十分にとれないでいる」といった現状についても不利益を被ったと感じていない人との差はない。
(2023年06月26日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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