コラム
2023年06月12日

投資先に困る?投信市場~2023年5月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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インデックス型の国内株式ファンドに大規模な売り

2023年5月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、5月は国内株式を投資対象とするファンドから1,200億円の資金流出があった【図表1】。その他の資産クラスのファンドには資金流入があったが、どの資産クラスも300億円以下の流入と少額だったこともあり、ファンド全体でみても500億円の資金流出となった。ファンド全体で純流出となったのは、2020年11月以来のことである。
 
5月は国内株式ファンドからの資金流出が1,200億円あったが、特に一般販売されているインデックス型の国内株式ファンドに限ると2,000億円もの資金流出があった。日経平均株価が5月初に2万9,000円前後で推移していたのが、5月下旬には一時3万3,1000円を超えバブル後最高値を更新するなど大きく上昇する中、利益確定売りが膨らんだ様子である。
【図表1】 2023年5月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入

日経平均株価3万円を意識もそれ以上は想定外?

一般販売されているインデックス型の国内株式ファンドの資金動向(黄棒)を日次でみると、日経平均株価が3万円にのせた翌営業日の18日から3営業日連続(赤ハイライト部分)で200億円(点線)を超える資金流出があった【図表2】。日経平均株価が連日続伸したともあるが、3万円の水準が意識されていたことが見て取れる。その一方で23日以降(青ハイライト部分)も資金流出基調が続いていたが、資金流出が小規模になっており、売却がやや一巡した。やはり、日経平均株価が3万1,000円を上回ってさらに上昇する展開は想定していない投資家が多かったのかもしれない。
【図表2】 インデックス型の国内株式ファンドの資金流出入
なお、国内株式のブル型ファンド(緑棒)も5月は400億円の資金流出があったが、インデックス型の国内株式ファンドとほぼ同様に中旬に日経平均株価が上昇するとともに資金流出が膨らむ傾向が見られた。逆に国内株式のベア型ファンド(青棒)は4月と同様に5月に100億円以上の資金流入があったファンドが2本(【図表3】青太字)あるなど、全体に300億円を超える資金流入があった。
 
インデックス型が大規模な資金流出に見舞われる一方で、アクティブ型の国内株式ファンドには5月に一般販売されているものに700億円の資金流入があった。新設ファンド2本(【図表3】赤太字)合計で900億円の資金流入があったことが大きかった。あくまでも既設ファンドに限るとアクティブ型の国内株式ファンドでも流出超過であったが、インデックス型と比べると売却は小規模だった。
【図表3】 2023年5月の推計純流入ランキング

アクティブ型の外国株式ファンドは以前、売れ過ぎた反動

資産クラス別にみると資金流出していたのは国内株式ファンドのみであったが、外国株式ファンドも300億円の資金流入と2020年7月以降で最小だった前月4月の1,000億円からさらに減少した。アクティブ型の外国株式ファンドの一部で4月以上に売却が膨らんだためである。実際に一般販売されているアクティブ型の外国株式ファンドから1,300億円の資金流出が5月にあり、4月の500億円から倍以上に増加した。
 
5月は国内株式の急上昇が注目されていたが、為替市場で1ドル134円から140円に円安が進んだことも追い風になり、実は国内株式並みもしくはそれ以上に基準価額が上昇する外国株式ファンドも多かった。特にハイテク株の上昇が大きかったため、ハイテク系のテーマ型の外国株式ファンドの中には5月の収益率が20%を超えるようなものもあった【図表4】。
 
元々、アクティブ型ファンドは2、3年で売却される傾向が過去見られてきた。2020年7月から2021年にかけてアクティブ型の外国株式ファンドが売れに売れており、それからちょうど2、3年経過してきている。そのころに購入した投資家にとって、この5月は絶好の売却機会になり、売却が膨らんだと思われる。
 
5月も売れているアクティブ型の外国株式ファンド(【図表3】緑太字)がないわけでは決してなかった。そのため足元の資金流出はアクティブ型の外国株式ファンドへの投資意欲が低下してきているというよりも、以前に売れ過ぎた反動という側面が強いと思われる。2020年7月から2021年にかけて購入した投資家の売却が一巡するまでは、当面、資金流出が続く可能性が高そうである。
【図表4】 2023年5月の高パフォーマンス・ランキング

インデックス型は米国株式以外が支える

その一方でインデックス型の外国株式ファンドには、一般販売されているものに5月も4月とほぼ同規模の1,500億円の資金流入があり、販売は堅調であった。インデックス型の中では米国株式ファンドが600億円と4月の700億円からさらに減少したが、それ以上に米国株式以外のものへの資金流入が5月増えた。
 
個別でみても、5月は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の流入額が4月から減少したのに対して、「eMAXIS Slim 全世界株式 (オール・カントリー)」は増加し、流入額が390億円とインデックス型の中で最大となった。このように「eMAXIS Slim 全世界株式 (オール・カントリー)」の流入額が「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」を上回ったのは、実は初めてのことである。

インデックス型でも米国株式に対する高値警戒感から5月に追加投資を見送る、さらには売却する投資家が多かっただけかもしれない。ただ、米国株式に対する人気にやや陰りがみえはじめている可能性もあり、今後の動向が注目される。

けん引役不在の投信市場

このように内外株式ファンドは高値警戒感から様子見、もしくは売却される傾向があったが、その他に資金の動きが顕著な資産クラスのファンドもなかった。株式ファンドを売却しても、売却してできた資金の持って行き場に困っている投資家が多いかもしれない。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではあり ません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資 信託の勧誘するものではありません 。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2023年06月12日「研究員の眼」)

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