2023年06月08日

2023・2024年度経済見通し-23年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2023年1-3月期の実質GDPは前期比年率2.7%へ上方修正

6/8に内閣府が公表した2023年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.7%(年率2.7%)となり、1次速報の前期比0.4%(年率1.6%)から上方修正された。

法人企業統計の結果が反映され、設備投資が1次速報の前期比0.9%から同1.4%へと上方修正されたことに加え、民間在庫変動が前期比・寄与度0.1%から同0.4%へ大幅上方修正となったことが成長率の上振れにつながった。一方、1次速報後に公表された基礎統計の結果が反映されたことにより、民間消費(前期比0.6%→同0.5%)、公的固定資本形成(前期比2.4%→同1.5%)は下方修正された。

2023年1-3月期の成長率は大幅に上方修正されたが、そのほとんどが民間在庫変動によるものである。4-6月期はその反動で民間在庫変動が成長率の押し下げ要因となる可能性が高いことには注意が必要だ。

2023年1-3月期2次速報と同時に過去の成長率が遡及改定され、2022年10-12月期は前期比年率▲0.1%のマイナス成長から同0.4%のプラス成長へと上方修正された。この結果、2022年度の実質GDP成長率は1.2%から1.4%へ、名目GDP成長率は1.9%から2.0%へと上方修正された。
(春闘の結果は夏場にかけて反映される)
厚生労働省が6/6に公表した毎月勤労統計によると、2023年4月の現金給与総額(一人当たり)は前年比1.0%となり、3月の同1.3%から伸び率が鈍化した。所定内給与は3月の前年比0.5%から同1.1%へ伸びを高めたが、所定外給与(3月:前年比1.2%→4月:同▲0.3%)、特別給与(3月:前年比11.6%→4月:同0.2%)がいずれも前月から伸びが低下したことが全体を押し下げた。
所定内給与の要因分解/賃金改定の適用時期と初回支給時期別企業割合
春闘の結果との連動性が高い一般労働者の所定内給与は3月の前年比1.1%から同1.4%へ伸びを高めた。2023年春闘でベースアップが前年の0.5%程度から2%程度へと大きく高まったことからすれば改善幅が小さいが、これは春闘で決まった改定後の賃金が初めて支給される月が必ずしも4月ではないためである。

厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査(令和4年)」によれば、改定後の賃金が初めて支給される月が4月という企業は4割弱で、5~7月の企業が4割を超える。年度替わりの賃金改定の影響は4月だけでなく、5月以降も段階的に現れてくる可能性が高い。
 
一般労働者の所定内給与は、2023年春闘の結果がほぼ反映される夏場にかけて2%台まで伸びが高まることが予想される。また、企業の人手不足感の高まりを反映し、パートタイム労働者の時間当たり所定内給与は高い伸びが続くことが見込まれる。一方、パートタイム労働者比率の上昇ペースが2023年入り後に高まっており、先行きについても平均賃金の押し下げ要因となりそうだ。
名目賃金と実質賃金 所定内給与に所定外給与、特別給与を加えた現金給与総額は、足もとの前年比1%程度から2023年度前半に2%台まで伸びを高めた後、2024年度にかけて2%台半ばから後半の伸びが続くことが予想される。

実質賃金は、消費者物価の上昇ペース加速を主因として2022年4月以降、前年比でマイナスが続いている。今後、名目賃金の伸びは高まるものの、消費者物価上昇率が高止まりするため、実質賃金の下落は当面続く可能性が高い。実質賃金上昇率がプラスに転じるのは、消費者物価上昇率の鈍化が見込まれる2024年に入ってからとなるだろう。

2. 実質成長率は2023年度1.0%、2024年度1.6%を予想

2. 実質成長率は2023年度1.0%、2024年度1.6%を予想

2023年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/18に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2023年度が1.0%、2024年度が1.6%と予想する。2023年1-3月期の実績値が上振れたことにより、2022年度から2023年度への発射台(ゲタ)が1次速報時点の0.2%から0.4%へ上方修正されたことを受けて、2023年度の成長率見通しを0.1%上方修正した。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
(国内需要中心の成長が続く)
海外経済の減速を背景に輸出、生産の弱い動きが続く中でも日本経済全体の腰折れが回避されているのは、国内需要が底堅さを維持しているためである。実質GDP 成長率(前年比)を内外需別の寄与度で見ると、外需が2022 年1-3 月期から成長率の追い押し下げ要因となっているのに対し、国内需要が2021年4-6 月期以降プラス寄与を続けている。

外需が悪化する一方で、国内需要が底堅さを維持していることは、企業収益にも表れている。財務省の法人企業統計によれば、2023年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比4.3%(2022年10-12月期:同▲2.8%)と2四半期ぶりの増益となった。海外経済の減速に伴う輸出、生産活動の低迷を主因として、製造業は前年比▲15.7%(10-12月期:同▲15.7%)と2四半期連続の減益となったが、個人消費を中心とした国内需要の底堅さを背景に非製造業が前年比17.2%(10-12月期:同5.2%)と9四半期連続の増益となり、前期から伸びを大きく高めたことが全体の収益を押し上げた。

2023年1-3月期の経常利益(季節調整値)は24.0兆円となり、過去最高となった2022年4-6月期の24.7兆円に次ぐ高水準となった。製造業は過去最高となった2022年7-9月期の水準を▲20%程度下回っているが、非製造業は過去最高の2019年1-3月期の水準にほぼ並んだ。
実質GDP成長率の内外需寄与度/経常利益(季節調整値)の推移
当研究所では、米国は累積的な金融引き締めの影響で2023年後半にマイルドな景気後退に陥り、ユーロ圏は景気後退には至らないが2023年中は年率ゼロ%台の低成長が続くと予想している。このため、輸出が景気の牽引役となることは当面期待できず、日本経済は先行きについても内需中心の成長が続くことが予想される。

2023年4-6月期は、新型コロナウイルス感染症の5類への移行に伴い、外食、旅行などの対面型サービスを中心に民間消費が堅好調を維持し、水際対策の終了を受けたインバウンド需要の急回復を主因として財貨・サービスの輸出が増加に転じることが見込まれる。ただし、民間在庫変動が前期の反動で成長率を押し下げることから、実質GDPは前期比年率1.1%と1-3月期の同2.7%から大きく減速するだろう。2023年後半は、米国の景気後退に伴い輸出が減少に転じることを主因としてゼロ%台へとさらに減速するが、海外経済の持ち直しが見込まれる2024年入り後は輸出の回復を主因として成長率が高まるだろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策の影響で2月に3.1%と伸び率が大きく縮小したが、4月には年度替わりの値上げが幅広い品目で実施されたこともあり3.4%まで伸びを高めた。

物価上昇の主因となっていたエネルギー価格は2023年2月以降、前年比でマイナスとなっているが、日銀が基調的な物価変動を把握するために重視している「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」(以下コアコアCPI)は、2023年4月には前年比4.1%まで伸びを高めている。

電気代は、5月には再生可能エネルギー発電促進賦課金の引き下げにより下落するが、電力大手7社が申請していた電気料金の値上げが認可されたことから6月に大幅に上昇し、10月には政府の負担緩和策の縮減により一段と上昇する。さらに、6月以降は、燃料油価格の激変緩和策の補助が段階的に縮減されることから、横ばいが続いていたガソリン、灯油価格は上昇することが見込まれる。エネルギー価格は前年の水準が高かったこともあり、2023年中は前年比で下落が続くが、2024年入り後には上昇に転じるだろう。
財・サービス別の消費者物価(生鮮食品を除く) 食料(生鮮食品を除く)は原材料費の上昇を価格転嫁する動きが広がり、2023年4月の上昇率は9.0%と、消費者物価の川上に当たる国内企業物価の飲食料品の伸び(2023年4月:前年比7.0%)を上回っている。ただし、資源・穀物価格の一服などから物価上昇の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかかっている。このため、今後は原材料コストを価格転嫁する動きが徐々に弱まり、財価格の上昇率は鈍化することが見込まれる。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 一方、下落が続いていたサービス価格は2022年8月に上昇に転じた後、2023年4月には前年比1.7%まで伸びを高めている。サービス価格は賃金との連動性が高いが、現時点では、サービスの中では原材料コストの割合が高い一般外食の大幅上昇(2023年4月:前年比7.3%)がサービス価格上昇の主因となっている。しかし、今後は賃上げに伴う人件費の増加を価格転嫁する動きが一段と広がることが予想される。

2023年のベースアップは2%程度が見込まれることを考慮すれば、2023年度のサービス価格の上昇率は2%台まで高まる可能性が高い。これまで長期にわたって値上げが行われていなかった分、今後のサービス価格の上昇ペースは非常に速いものとなる可能性がある。

コアCPI上昇率は財価格を中心に鈍化傾向が続くが、日銀が物価安定の目標としている2%を割り込むのは2024年度入り後と予想する。財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、2023年度は財、サービスが概ね同程度の寄与となった後、2024年度はサービス中心の上昇へと変わっていくだろう。

コアCPI上昇率は、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.7%、2024年度が同1.3%、コアコアCPI上昇率は、2022年度の前年比2.2%の後、2023年度が同3.3%、2024年度が同1.2%と予想する。
日本経済の見通し(2023年1-3月期2次QE(6/8発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年06月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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