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物価高の高齢者への影響~食料や光熱費の値上げが家計圧迫。今後の消費のキーワードは「良いものを長く使う」と「健康」
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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1――はじめに
一方で、賃上げの恩恵が小さい高齢者の暮らしはどうかと言うと、厚生労働省によると、2023年度の年金改定では、年金額が3年ぶりの引き上げとなったものの、67歳以下は前年度比2.2%、68歳以上は同1.9%の引き上げにとどまった2。つまり、年金暮らしの高齢者にとっては、前年の物価上昇率を年金改定によって吸収できない状況である。年金改定は、物価と賃金の変化を反映する仕組みになっているが、年金財政健全化のために、現在は、年金水準を段階的に引き下げる「マクロ経済スライド」という措置が実施されているためである3。
そこで本稿では改めて、物価高の高齢者への影響の大きさや意識をみるために、ニッセイ基礎研究所が今年3月29~31日に20~74歳の男女2,398人を対象に実施したインターネット調査「第12回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の結果を基に状況をまとめる。
1 連合プレスリリース(2023年5月10日)。
2 厚生労働プレスリリース(2023年1月20日)。
3 中嶋邦夫(2023)「2023年度の年金額(確定値)は、67歳までは2.2%増、68歳からは1.9%増だが、実質的には目減り-年金額改定の仕組み・確定値・注目ポイント」(基礎研レポート)
2――物価高の高齢者への影響
同様に、支出割合ランキング(図表4)では、「電気代」も「60~69歳」では7位、「70~79歳」では5位と、若年・中年層(9~10位)に比べて順位が高くなっており、電気料金の値上げは高齢層への打撃が大きいことが分かる。因みに「80歳以上」では「電気代」は3位と全年齢階級の中で最も高くなっている。ニッセイ基礎研究所の調査(図表3)は対象年齢を74歳までとしているが、後期高齢者の世帯に限れば、電気料金の高騰は、本調査の結果以上に家計を圧迫している可能性がある。
図表3に戻ると、高齢者が物価高を感じている項目の3位は「ガソリン代」(57.3%)である。支出割合ランキング(図表4)でも、ガソリン代を含む「自動車等維持費」は「60~69歳」「70~79歳」では1位、2位と順位が高く、高齢者の家計への影響が大きいことが分かる。コロナ禍以降、高齢者は公共交通を避けてマイカーを利用することが増えた影響もあると考えられる4。
逆に、支出割合ランキング(図表4)では、住宅の修繕工事を含む「工事その他のサービス」が60~69歳では9位、70~79歳では4位に入っているのに、ニッセイ基礎研究所の調査(図表3)では「住居の設備・修繕」は6.9%と選択割合が小さい。物価高の状況で、高齢者世帯のなかには、住宅の修繕が必要な状態になっても、実施を先延ばしにしているケースもあるかもしれない。
4 坊美生子(2022)「コロナ禍における移動の現状~移動総量は最大1割減で推移。20 歳代は外出のハードルが益々高く~」(基礎研レポート)など
次に、物価高への防衛策について、複数回答方式で聞いた結果が図表5である。最も大きかったのは「節電を心がける」(66.9%)で、全体(50.7%)より有意に高かった。すぐに取り組みやすい手段であることや、2-2|でみた、家計への影響の大きさの裏返しだと考えられる。2位は「できるだけ不要なものは買わない」(63.0%)で、全体(52.4%)よりも有意に高かった。その他にも、「外食を減らす」(31.7%)、「洋服や装飾品を買い控える」(27.6%)、「旅行やレジャーなどの娯楽費用を減らす」(23.9%)なども全体より有意に高い数値となっており、高齢者には、ぜいたく品はできるだけ買い控える動きが強いことが分かる。生活必需品についても「特売日やセールで買うようにする」が全体より大きく、割安に入手するよう努めていることが分かる。
また「できるだけ長く使えるものは使い続ける」も全体より有意に高い18.1%で、単に節約するだけではなく、ものを大事に使う「始末する」という姿勢が伺える。「貯蓄や投資を切り崩す」は14.4%だった。全体(10.3%)と有意な差は無かったが、物価高が続けば、勤労収入の少ない高齢者の資産が目減りを続け、暮らしはより厳しくなっていく可能性がある。
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
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