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- 投資信託の信託報酬は低下したか?
投信の手数料のうち信託報酬(投資した資金から定期的に差し引かれる手数料)が、どのように変わったかを検討する。金融庁等が指摘するように、これまで投信の手数料が高いという問題があり、投信業界の競争を促進するために、2017年に「顧客本位の業務運営に関する原則」が導入された。金融機関(銀行、証券会社、資産運用会社など)にこの原則の受け入れを呼びかけ、より良い金融商品・サービスの提供を競争することを狙った政策である。2024年には新NISA導入がはじまるが、さらなる顧客獲得競争が予測される。
図表1は、2017年3月(原則の公表時)および2020年2月(コロナ前)における信託報酬の平均値と、2時点間の差をみたものである。純資産額で加重した平均値を示している。これは投信市場全体の傾向を見るためで、純資産が大きいファンドほど平均を計算するウエイトが大きくなっている。モーニングスター社のデータベース(Morningstar Direct)を利用している。信託報酬はデータベース上の公表値であり、ファンド設計上の最大値と考えられる。実勢値とは異なる可能性があるが、投信市場全体の傾向を分析するのであれば支障ないと思われる。
一方で、アクティブファンドについては、国内株式投信では信託報酬は変化していない。外国株式投信では信託報酬は逆に上昇した。これは信託報酬の高いファンド(新興国株式へ投資するファンドや仕組みが複雑なファンド)への資金のシフトが考えられる。外国債券へ投資するファンドの信託報酬も変化がない。
海外における研究では、低コストのパッシブファンドが普及する国では、アクティブファンドの手数料も低下する傾向が示されている。パッシブファンドでの金融機関間の競争が、アクティブファンドにも影響するためである。しかし、これまでのところ、日本のアクティブファンドの信託報酬は低下していない。
この理由としては、(1)パッシブファンドを利用する投資家は手数料が低いことに関心があるが、アクティブファンドを利用する投資家は手数料への関心が低いため、パッシブファンドでの信託報酬の低下がアクティブファンドに影響しない。(2)販売会社や運用会社が手数料の比較的高いアクティブファンドの販売促進を行った。(3)パッシブファンドの手数料低下がアクティブファンドに影響するまで時間がかかる、などが考えられるが、実際の理由がどのようなものであるかについてさらなる調査・研究が必要である。
図表2は、同様な分析を確定拠出年金(DC)用のファンドに限定した結果である。国内株式のアクティブファンドを除き、信託報酬は有意に低下している。国内株式と外国株式ともに、DC向けのパッシブファンドの信託報酬はもともと低いが、さらにコストの低いファンドに資金が集まる傾向がみられ、ファンド間の競争が高まっているものと思われる。パッシブファンドの場合、投資対象や運用の巧拙でファンドの差別化をすることが難しく、競争環境の高まりが手数料の引き下げに直結しやすい。
武蔵大学 経済学部
北村 智紀
研究・専門分野
(2023年06月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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