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- キャップレートは一段と低下。利回りの地域格差も縮小へ
2023年06月05日
大規模金融緩和を背景に国内外の投資マネーが不動産市場に流入するなか、不動産利回りが一段と低下している。J-REITの開示データをもとに、東京中心部に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2022年は2.8%となり前年比▲0.1%低下した(図表1)。同様に、東京中心部に所在する住宅のキャップレートも大きく低下しており、2022年は3.3%(前年比▲0.2%)となった。
2007年~2008年の「不動産ファンドバブル」と呼ばれたボトム水準と比較した場合、住宅の低下幅(▲1.4%:4.7%⇒3.3%)がオフィスの低下幅(▲1.2%:4.0%⇒2.8%)を上回っており、コロナ禍における住宅需要の高まりを背景に、住宅への高い投資意欲を確認することができる。
2007年~2008年の「不動産ファンドバブル」と呼ばれたボトム水準と比較した場合、住宅の低下幅(▲1.4%:4.7%⇒3.3%)がオフィスの低下幅(▲1.2%:4.0%⇒2.8%)を上回っており、コロナ禍における住宅需要の高まりを背景に、住宅への高い投資意欲を確認することができる。
このように、キャップレートの低下が進むなか、利回りの地域格差についても縮小傾向にある。弊社の推計によれば、オフィスビルにおける東京都心部と地方主要都市のキャップレート格差は、アベノミクスが始まった2013年と比較して、大阪市では25bp、福岡市では34bp縮小し、他の地方都市でも20~30bp程度縮小した(図表2)。国土交通省「令和2年度 海外投資家アンケート調査」によれば、「日本における不動産投資先として検討可能なエリア」について、「その他の大都市(札幌・仙台・広島・福岡)」との回答は28%(2013年)から80%(2020年)と大きく増加している。海外投資家を中心に投資対象エリアが拡大し、地方主要都市にも多くの投資資金が流入していると推察される。
ところで、今年1月に弊社が実施した「不動産市況アンケート」において、「東京の不動産価格のピーク時期」について質問したところ、「2023年」(43%)との回答が最も多く、次いで「2022年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(39%)との回答が多かった。不動産価格は2023年までにピークアウトするとの回答が大多数を占める結果となった。
また、上記のアンケートにおいて、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「国内金利」が67%と前年の32%から約2倍に増加した(図表3)。日銀は、2022年12月に「イールドカーブコントロール」の許容幅を±0.25%から±0.50%へ拡大し、10年国債利回りの上昇を容認した。CBREが不動産投資家を対象に行った調査によれば、日銀による利上げは2023年中に行われるとの回答が56%を占め、不動産投資市場では金利上昇への警戒感が高まっているようだ。
一般に、キャップレートの変動を考える際、リスクフリーレート、リスクプレミアム 、NOI等の成長率の3要素に分解することができる。この考えに倣えば、現在の金融緩和政策が見直されてリスクフリーレートが上昇した場合、キャップレートは上昇に転じると考えられる。また、キャップレートの地域格差についても、リーマンショック後のキャップレート上昇局面において拡大したことを鑑みると(図表2)、今後は縮小から拡大に転じる可能性がある。
不動産証券化協会「機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査(2022年公表)」によれば、不動産投資を行っている企業年金は69%に達し、不動産投資の比重が年々高まっている。不動産投資市場が転換期に差し掛かるなか、市場動向の変化に即した投資不動産の選別がこれまで以上に求められると思われる。
ところで、今年1月に弊社が実施した「不動産市況アンケート」において、「東京の不動産価格のピーク時期」について質問したところ、「2023年」(43%)との回答が最も多く、次いで「2022年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(39%)との回答が多かった。不動産価格は2023年までにピークアウトするとの回答が大多数を占める結果となった。
また、上記のアンケートにおいて、「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「国内金利」が67%と前年の32%から約2倍に増加した(図表3)。日銀は、2022年12月に「イールドカーブコントロール」の許容幅を±0.25%から±0.50%へ拡大し、10年国債利回りの上昇を容認した。CBREが不動産投資家を対象に行った調査によれば、日銀による利上げは2023年中に行われるとの回答が56%を占め、不動産投資市場では金利上昇への警戒感が高まっているようだ。
一般に、キャップレートの変動を考える際、リスクフリーレート、リスクプレミアム 、NOI等の成長率の3要素に分解することができる。この考えに倣えば、現在の金融緩和政策が見直されてリスクフリーレートが上昇した場合、キャップレートは上昇に転じると考えられる。また、キャップレートの地域格差についても、リーマンショック後のキャップレート上昇局面において拡大したことを鑑みると(図表2)、今後は縮小から拡大に転じる可能性がある。
不動産証券化協会「機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査(2022年公表)」によれば、不動産投資を行っている企業年金は69%に達し、不動産投資の比重が年々高まっている。不動産投資市場が転換期に差し掛かるなか、市場動向の変化に即した投資不動産の選別がこれまで以上に求められると思われる。
(2023年06月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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![](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/57681_ext_01_0.jpeg?v=1516671138)
03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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