2023年06月01日

前年と同水準となった2022年米国個人生命保険販売-前半は好調なるも後半減速へ-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

米国における個人生命保険の2022年新契約販売実績は、収入保険料ベースで2021年とほぼ同水準となった。

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるLIMRAが発表したデータ1によれば、2022年の個人生命保険の新契約の収入保険料(以下、「新契約保険料」とする。)は、記録的な増加率となった22021年に続いて前半は好調を維持したが、後半減速し、年間トータルでは2021年とほぼ同水準となった。

ここでは、上記のLIMRAのデータを元に、2022年の米国における個人生命保険の販売実績について、紹介したい。

なお、LIMRAによれば、上記データの米国生保市場のカバー率は、新契約保険料で85%、新契約高で90%、新契約件数で60%である。
 
1 LIMRA「U.S. RETAIL INDIVIDUAL LIFE INSURANCE SALES TECHNICAL SUPPLEMENT」(FOURTH QUARTER 2022)2023年3月15日。
2 2021年の米国個人生命保険の新契約販売は、パンデミックや好調な株式市場、貯蓄部分に対してより多額の保険料支払を許容する税制変更の影響(内国歳入法(IRC)第7702条)により、対前年20%増加した(新契約保険料ベース)。なお、小著「コロナ禍を契機に伸び始めた米国の個人生命保険販売」『保険・年金フォーカス』(2022年6月30日)において、IRC7702条の変更含め、2021年の米国における生命保険販売業績について紹介している。

2――米国における個人生命保険2022年新契約販売業績の概況

2――米国における個人生命保険2022年新契約販売業績の概況

(図表1)は、新契約保険料(=販売された新契約の保険料を、一時払保険料は10分の1して年換算した数値3)、新契約高(=販売された新契約の死亡保険金額の合計額)、新契約件数(=販売された契約の件数)、という3つの指標で見た2021年、2022年の個人生命保険販売業績である。
 
2022年の新契約保険料は、対前年20%と記録的な好調となった2021年とほぼ同水準となった。新契約高、新契約件数は減少しているが、貯蓄部分に対してより多額の保険料支払を許容する税制変更の影響4等もあって貯蓄性が高い商品の占める割合がより高まっていることを示しているものと考えられる。
【図表1】 米国 個人生命保険販売業績
(図表2)は、2021年、2022年の新契約販売実績について、四半期毎に見たものである。2022年の新契約保険料は、2021年に引き続いて前半は好調を維持したが、後半は減速している。2022年第4Qの新契約保険料が▲13%と急減したことについて、LIMRAでは「税制改正により2021年の第4Qに爆発的な売り上げを記録した(対前年増加率26%、図表には記載なし)ことと比べると、業績が後退するのは当然である」5、としている。実際、金額ベースで見ると、2022年の他のQと比較しても遜色ない水準となっている。
【図表2】 米国 個人生命保険販売業績【四半期毎】  
 
3 注釈1にて前掲のLIMRA調査結果ではAnnualized Premiumと表記されており、「新契約年換算保険料」と記載すべきところとも考えられるが、わかりやすさの観点より、ここでは「新契約保険料」としている。
4 前掲注釈2でも記載のとおり、内国歳入法(IRC)第7702条の変更含め、2021年の米国個人生命保険の新契約販売については、小著「コロナ禍を契機に伸び始めた米国の個人生命保険販売」『保険・年金フォーカス』(2022年6月30日)にて紹介している。
5 前掲LIMRA「U.S. RETAIL INDIVIDUAL LIFE INSURANCE SALES TECHNICAL SUPPLEMENT」(FOURTH QUARTER 2022)P1。

3――商品別販売状況

3――商品別販売状況

1商品別構成比の状況
販売された商品種類に着目して販売業績を見たのが(図表3)である。ここでは、新契約保険料、新契約高、新契約件数それぞれの実績数値が、どの商品種類の販売によるものであるかで区分して、その構成比を見たものである。なお、定期保険は一定の契約期間内の死亡に対して保険金を払うことのみを契約する保険、終身保険は期限の定めなく死亡があった場合に保険金を払うことを契約する保険(必ず保険金が支払われるので保険金支払いに備えた積立額が大きくなり、その分解約時の返還金等も大きくなる)、ユニバーサル保険は定期預金に定期保険をセットしたイメージの保険で、定期預金的部分でお金を貯蓄しながら、そこから定期保険部分の保険料を払い出していく商品である。ユニバーサル保険の定期預金部分について、投資信託的なものに置き換わったイメージの商品が変額ユニバーサル保険、S&P500などの市場指数の増加率にリンクして決める商品がインデックス連動ユニバーサル保険である。
【図表3】販売業績の商品種類別構成状況
【新契約保険料】
新契約保険料では、33%が終身保険、19%が定期保険、29%がインデックス連動ユニバーサル保険となっている。
 
【新契約高】
新契約高では、一番大きいのは定期保険で72%、終身保険が10%、インデックス連動ユニバーサル保険が11%である。死亡保障に特化した保険商品である定期保険は、貯蓄要素がないので保険料基準での構成比は小さいが、保障額基準での構成比は大きなものとなる。
 
【新契約件数】
新契約件数では、定期保険(43%)、終身保険(42%)、という伝統的な生保商品があわせて85%を占める。インデックス連動ユニバーサル保険は9%、ユニバーサル保険は4%、変額ユニバーサル保険は2%を占めるにすぎない。

もっとも一般的な指標となっている新契約保険料からはわからないが、新契約件数から見る限りは、米国で個人生命保険を購入している消費者の多くが終身保険、定期保険という伝統的生命保険商品を購入していることがわかる。ただし両商品の1件1件の契約は、顧客が支払う保険料が小口であるため、新契約保険料では、1件あたりの保険料が大きい契約が販売されるインデックス連動ユニバーサル保険(29%)や変額ユニバーサル保険(13%)は件数に比べてかなり大きな比率となっている。
2商品種類別の販売増勢
(図表4)は、保険種類別販売業績の対前年増加率を示している。

全体的に増加傾向であった2021年度とは一転して、一部を除いて減少傾向にある6

LIMRAでは、「米国における生命保険へのニーズは引き続き高く、1億人以上が、生命保険に対するニーズギャップを感じている」としつつも、「インフレや景気に対する不安は、2021年に新型コロナウイルスが喚起した需要を減退させた」としており、生命保険の新契約販売は、2024年まで横ばいが続くことを予測している7
【図表4】商品種類別販売業績の対前年増加率
 
6 インデックス連動ユニバーサル保険のみ、3指標とも増加しているが、景気に左右されることが比較的少ないインデックス連動型のユニバーサル保険については、安定的に増加基調を維持しているものと推測される。
7 2023年3月14日付ニュースリリース「LIMRA:2022 Life Insurance Sales Match Record Set in 2021」より。なお、米国における生命保険に対するニーズギャップについては、小著「米国消費者の生保加入動向-加入率、加入状況とニーズとのギャップ、なぜ加入しないのか-」『保険・年金フォーカス』(2023年3月28日)でも紹介している。

4――おわりに

4――おわりに

以上、2022年の米国生保市場における個人生命保険販売業績について概要を見てきた。上記のとおり、記録的な進展を遂げた2021年に対して、インフレや景気への懸念や新型コロナウイルスを巡る状況の変化もあって、数年は横ばいが続く、というのがLIMRAの予測である。

横ばいと言っても、2021年が記録的な状況であったことを考えると、「好調を維持」との見方もできよう。この状況を維持できるのか、ニーズギャップを抱える消費者が1億人を超える状況でもあり、保険会社各社が、ニーズの取り込みにどう動いていくのか、注目されるところである。

米国の生命保険販売を巡る状況については、引き続き注視していきたい。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2023年06月01日「保険・年金フォーカス」)

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