2023年06月01日

宿泊旅行統計調査2023年4月-日本人延べ宿泊者数はコロナ禍前の水準を下回るも、外国人延べ宿泊者数は順調に回復

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1. 外国人延べ宿泊者数は速い回復ペースを維持

観光庁が5月31日に発表した宿泊旅行統計調査によると、2023年4月の延べ宿泊者数は4,763万人泊(3月:5,068万人泊)となった。前年同月比は41.6%(3月:同51.5%)、新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年同月比でみると、▲6.1%(3月:同▲0.9%)と3ヵ月ぶりにマイナス幅が拡大した。

2023年4月の日本人延べ宿泊者数は3,724万人泊(3月:4,313万人泊)となり、2019年同月比は▲5.6%(3月:同3.6%)と3ヵ月ぶりにコロナ禍前を下回った。ただし、2019年4月は日本人延べ宿泊者数が前年比17.3%と、2019年3月の同8.7%から伸びが大きく高まった月だったことが2019年比のマイナス幅を拡大させた一因である。4月はコロナ禍前を下回ったが、引き続き全国旅行支援の後押しを受けて日本人延べ宿泊者数は、回復のペースを速めるだろう。

2023年4月の外国人延べ宿泊者数は1,038万人泊(3月:755万人泊)となり、2019年同月比は▲8.0%(3月:同▲20.7%)と2ヵ月連続でマイナス幅が縮小した。先月に引き続き速い回復ペースを維持した。外国人延べ宿泊者数は2022年10月の水際対策緩和以降、回復傾向にある。
延べ宿泊者数の推移(2019年同月比)/宿泊施設タイプ別客室稼働率推移
2023年4月の客室稼働率は全体で55.6%(3月:同57.3%)、2019年同月差▲9.4%(3月:同▲6.1%)と、2ヵ月ぶりにマイナス幅が拡大した。ただし、日本人延べ宿泊者数と同様、2019年4月は客室稼働率の前年同月差が4.1%と、2019年3月の同2.3%から拡大した月だったことが、2019年同月差のマイナス幅を拡大させた一因である。

宿泊施設タイプ別客室稼働率をみると、旅館は33.3%、2019年同月差▲6.4%(3月:同▲1.6%)、リゾートホテルは48.0%、2019年同月差▲9.8%(3月:同▲6.7%)、ビジネスホテルは67.7%、2019年同月差▲11.5%(3月:同▲8.1%)、シティホテルは68.2%、2019年同月差▲14.8%(3月:同▲10.1%)、簡易宿所は24.2%、2019年同月差▲10.8%(3月:同▲7.4%)であった。2019年同月差では、すべてのタイプの宿泊施設でマイナス幅が拡大した。

2. 日本人延べ宿泊者数は回復のペースが加速する

日本人延べ宿泊者数は、3ヵ月ぶりにコロナ禍前の水準を下回った。全国旅行支援が開始された2022年10月以降、日本人延べ宿泊者数はコロナ禍前と同程度の水準で推移してきた。今回はわずかにコロナ禍前を下回ったが、これは国内旅行需要の低迷を意味するものではない。

全国旅行支援は2022年10月に運用が開始され、2023年1月10日以降は割引率を40%から20%へ下げて延長されている。割引上限額は交通付宿泊旅行の場合は一泊5,000円、それ以外の場合は3,000円、クーポン券は平日2,000円、休日1,000円である。

同制度は明確な期限が決められておらず、地域によって期限が異なるが、観光庁の見解では多くの都道府県で初夏ごろまでの実施が可能だという。

5月8日に新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「5類」に引き下げられたことに伴って、全国旅行支援の使用条件であった、「ワクチン3回接種証明書もしくは陰性証明書の提出」が不要となり、これまでより多くの観光客が割引およびクーポン付与の対象となった。日本人延べ宿泊者数は、全国旅行支援の後押しを受けて、回復のペースが加速するだろう。
全国旅行支援の概要

3. 中国から日本への団体旅行が解禁されれば、外国人延べ宿泊者数はさらに増加

外国人延べ宿泊者数は2022年10月11日に個人旅行の解禁、短期滞在のビザ免除再開、一日あたりの入国者数の上限の撤廃など水際対策が緩和されたことで回復してきた。
国籍別外国人延べ宿泊者数 しかし、まだコロナ禍前の水準を回復していない。その一因は中国人観光客が回復していないことである。中国人観光客はコロナ禍前、外国人観光客のおよそ3分の1を占めていたが、2023年4月の中国人延べ宿泊者数は2019年比▲76.7%と他の国・地域と比較すると回復が遅れている。これは2022年末まで厳格なゼロコロナ政策を継続し、同政策解除後中国国内で感染が拡大し、それに伴って日本政府が中国からの入国者に規制を設けたことが主因である。

2023年に入ってから中国への規制は段階的に緩められ、現在では他の国・地域同様に撤廃されている。具体的には、3月1日に、中国と日本の直行便は成田、羽田、関西、中部の4空港以外への到着および増便が認められ、4月5日に、7日以内に中国に渡航歴のあるすべての人及び中国からの直行便で入国する人に対して、ワクチン接種の有無にかかわらず、出国前検査での陰性証明書の提出を求めるという規制が撤廃され、他の国・地域からの入国者と同じようにワクチン3回接種証明書もしくは出国前72時間の陰性証明によって入国ができるようになった。

さらに4月29日以降、中国を含む全ての国・地域からの入国者はワクチン3回接種証明書および出国前72時間以内の陰性証明書の提示なしで日本に入国できるようになった。
中国を除いた外国人延べ宿泊者数 以上によって中国人観光客数は回復していくことが期待される。ただし、中国政府は自国民の日本への団体旅行を解禁していないため、これが中国人宿泊者数の回復の足かせになる可能性があることには注意が必要だ。

水際対策が撤廃されたことで、外国人宿泊者数は5月以降も回復を続けることが予想される。外国人延べ宿泊者数(従業者数10人以上の施設)の2019年比は2023年4月には全体が▲13.1%、中国を除いた全体が6.0%と、中国を除けば、コロナ禍以降初めてプラスとなった。5月には水際対策撤廃による訪日客数の増加で、外国人延べ宿泊者数はコロナ禍前を上回ると予想する。
 
 

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年06月01日「経済・金融フラッシュ」)

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