2023年03月24日

新たな政府の観光指針と2023年の観光市場-世界が2019年水準を回復するなか何をすべきか

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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■要旨

観光庁が3月8日に行った交通政策審議会観光分科会では、「観光立国推進基本計画(案)」が提示され、「持続可能な観光地域づくり」、「消費額拡大」、「地方誘客促進」の3つがキーワードとして示された。人数(客数)ではなく金額(旅客消費額)を重視する内容となっており、具体的な目標として、2025年に「観光客数は2019年の水準越え」、「訪日外国人旅行消費額単価の2019年水準に対し25%増」などが挙げられている。
 
2022年の日本の訪日外客数と旅行消費額は、いずれも2019年の水準を大きく下回っており、他国・地域と比べて極めて低い水準にとどまっている。
 
消費額の増加という政府目標に対して影響が大きいと考えられる各国・地域における外国人訪問客の「旅行消費額単価」の推移を確認すると、2019年の日本の旅行消費額単価は世界平均を上回っていたが、オーストラリアや米国と比べるとまだまだ低かった。
 
コロナ禍の落ち込みから、いくつかの各国・地域では、かなり早い時期から急回復しているが、客数回復に比べて旅行消費額の大幅増加となった国・地域は多かった。富裕層が、高価格帯の宿泊施設、高額の小売り商品を消費し、各国・地域の旅行消費額単価が引き上げたのだろう。日本でも旅行消費額単価の上昇は生じており、2016年策定の政府目標20万円は2021年も2022年も達成している。
 
しかし、2023年の日本の観光市場では、「世界の多くの国と同様に、旅行単価の低い普通の観光客が増えていくとともに、日本の旅行消費額単価も下落していく」と考えられる。このようななか、政府目標は、旅行消費額単価の低下という流れに逆らい、単価の低下をなるべく抑制しようとする意欲的なものである。達成には、今までのサービスのまま、コストアップの分だけ高い値段を設定するという安易な方法ではなく、「観光客を高い水準で満足させるサービスや旅行体験価値を提供し、それに見合ったより高い対価を得る」ことを戦略的に行う必要がある。
 
日本各地には世界的に競争力のある魅力的な観光資源や優れた食事やサービスが数多くある。観光関連業界や小売業全体が、今後の訪日客の増加にどのように対応していくか非常に大事な時を迎えようとしている。

■目次

・新たな観光立国推進基本計画について
・世界のインバウンド客数と旅行消費額の回復状況
・2019年の世界のインバウンド客数および旅行消費額単価の動向
・コロナ禍下の観光市場では何が起こっていたか
・2022年の世界のインバウンド客数および旅行消費額単価の動向
・2023年の旅行消費額単価上昇には、変化への対応と高付加価値化が必要

(2023年03月24日「基礎研レポート」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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