2023年03月01日

宿泊旅行統計調査2023年1月-外国人延べ宿泊者数の回復ペースが緩やかに。中国人観光客の回復に期待

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1. 外国人延べ宿泊者数は6ヵ月連続で回復したが、回復ペースは緩やかに

観光庁が2月28日に発表した宿泊旅行統計調査によると、2023年1月の延べ宿泊者数は3,931万人泊(12月:4,690万人泊)となった。前年同月比は38.2%(12月:同19.7%)となり、新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年同月比でみると、▲7.9%(12月:同▲0.5%)と先月からマイナス幅が拡大した。

2023年1月の日本人延べ宿泊者数は3,309万人泊(12月:4,092万人泊)となり、2019年同月比は▲1.1%(12月:同7.8%)と4ヵ月ぶりにマイナスに転じた。1月10日から割引率を下げて全国旅行支援が再開されたが、日本人延べ宿泊者数はコロナ前を下回った。

2023年1月の外国人延べ宿泊者数は622万人泊(12月:598万人泊)となり、2019年同月比は▲32.5%(12月:同▲34.9%)と6ヵ月連続でマイナス幅が縮小した。外国人延べ宿泊者数は2022年10月11日の水際対策緩和以降、急回復していたが、回復のペースが緩やかとなった。
延べ宿泊者数の推移(2019年同月比/)宿泊施設タイプ別客室稼働率推移
2023年1月の客室稼働率は全体で44.7%(12月:同54.3%)となり、2019年同月差では▲9.3%(12月:同▲4.4%)となった。

宿泊施設タイプ別客室稼働率をみると、旅館は28.7%、2019年同月差▲5.2%(12月:同1.8%)、リゾートホテルは43.6%、2019年同月差▲8.0%(12月:同▲1.8%)、ビジネスホテルは54.8%、2019年同月差▲11.5%(12月:同▲6.9%)、シティホテルは55.0%、2019年同月差▲14.1%(12月:同▲8.4%)、簡易宿所は17.1%、2019年同月差▲8.4%(12月:同▲7.4%)であった。2019年同月差では、旅館は再びマイナスに転じ、それ以外のタイプの宿泊施設でもマイナス幅が拡大した。

2. インバウンド需要回復のカギは中国

日本人延べ宿泊者数は、全国旅行支援の開始以降、3ヵ月連続でコロナ前の水準を上回ったが、2023年1月に再びコロナ前の水準を下回った。新型コロナウイルスの感染第8波を受けて、特別な行動制限は実施されなかったが、宿泊旅行が自粛されたことが考えられる。

全国旅行支援は2023年1月10日以降、割引率を下げて運用が延長されている。割引率は20%で、割引上限額は交通付宿泊旅行の場合は一泊5,000円、それ以外の場合は3,000円、クーポン券は平日2,000円、休日1,000円である。なお、すべての都道府県でワクチンの3回接種証明書もしくは陰性証明書の提示が要件とされている。この全国旅行支援は3月末まで実施される予定である。
全国旅行支援
5月8日以降、新型コロナウイルスの感染症法上の分類は、現在の「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられる。この決定を受けて、これまで宿泊旅行を控えていた日本人は、心理的に宿泊旅行を実施しやすくなった可能性がある。また、全国旅行支援は3月末まで実施予定であるため、日本人延べ宿泊者数は引き続き高い水準で推移することが予想される。

外国人延べ宿泊者数は、6ヵ月連続で回復している。日本への入国に際しては、有効なワクチン3回接種証明書または出国前72時間以内の陰性証明書の提出が求められるが、個人旅行の解禁、短期滞在のビザ免除再開、一日あたりの入国者数の上限撤廃など、水際対策が2022年10月11日に緩和され、為替レートはコロナ前に比べると円安の水準となっている。このことから、外国人は日本を観光しやすい状況になっている。さらに3月13日からマスク着用が個人の判断にゆだねられるため、マスク着用を好まない傾向にある外国人はさらに日本を訪れやすくなると思われる。
訪日外客数の構成比(2019年) 今回、外国人延べ宿泊者数の回復ペースが緩やかになった一因は、中国からの観光客が回復していないことである。中国人観光客はコロナ前、外国人観光客のおよそ3分の1を占めていたが、ゼロコロナ政策に伴う出国制限のため消失していた。
2022年末にゼロコロナ政策が緩和されたものの、中国国内で新型コロナウイルスの感染が拡大したことを受けて、日本政府は中国からの入国者に対して規制を設けた。その内容は、7日以内に中国に渡航歴のあるすべての人及び中国からの直行便で入国する人に対して、ワクチン接種の有無にかかわらず、出国前検査証明書の提出と到着時検査での陰性を入国の要件とするものである。このような状況のため、諸外国からの訪日客数が回復する中で、訪日中国人数は足もとの2023年1月においてもコロナ前の4.1%(2019年同月比)と非常に低い水準となっている。

中国からの入国者に対する水際措置は3月1日から緩められた。引き続き出国前検査証明書は必要だが、到着時検査は一部の人を対象とするサンプル検査へと変更となった。インバウンド需要回復のためには中国人観光客の回復は欠かせないため、今回の規制緩和の効果には期待が高まる。

中国以外の国・地域からの観光客数は順調に回復している。中国からの観光客を日本に呼び戻すことができれば、インバウンド需要は今後も順調に回復していくだろう。
日本の水際対策(2023年3月1日以降)
 
 

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経済研究部   研究員

安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年03月01日「経済・金融フラッシュ」)

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