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外国人観光客数を回復させるために~感染拡大に備えた上で、水際対策を緩和するべき

経済研究部 研究員 安田 拓斗
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9月7日から水際対策が一部緩和される。内容は、「有効なワクチン接種証明書があれば、出国前72時間以内の検査証明の提出が必要なくなること」、「1日当たりの入国制限が2万人から5万人に引き上げられること」、「すべての国を対象に添乗員を伴わないパッケージツアーによる入国を可能にすること」である。
一部水際対策が緩やかになることが決定されたが、諸外国に比べると依然として厳しい。現在の日本の水際対策の特徴は、国・地域を「青」、「黄」、「赤」の3色に分類し、どの色の国・地域から日本に入国したかによって異なる対応をしていることだ。

ワクチン接種証明書がない場合、アメリカでは到着後3日から5日以内に検査を受けることと、5日間の自主隔離が求められる。カナダでは年齢により扱いが異なり、12歳以上の場合は、農業または食品製造業等のごく限られた必要不可欠な目的に限り入国可能で、出国前・到着時検査(到着時と到着から8日目)、14日間の自主隔離が求められる。5歳から11歳は、ワクチン接種が完了した渡航者に同伴される場合に限り入国可能で、検査は必要ないが公共の場所でのマスク着用が14日間求められる。5歳未満は検査、隔離ともに求められない。フランスは入国前72時間以内にしたPCR検査又は、入国前48時間以内にした抗原検査の陰性証明が求められ、到着時検査、待機は求められない。
水際対策が他国と比べて厳しくとも、ビジネス目的や留学目的で訪日する外国人は目的地を日本から変更することは少ないかもしれない。しかし、観光客の多くは日本の水際対策による検査や隔離を受けたくなければ、目的地を変更するだろう。したがって、水際対策によって日本に訪れる人数に大きな影響を及ぼすのは観光客だろう。厳しい水際対策に加えて、観光客への制限もあるため、日本の外国人観光客数は回復が遠のいている。コロナ前の2019年の新規入国外国人をみると、観光客の割合が91%と圧倒的に高く、観光客数の回復がインバウンド需要の回復に直結する。
G7各国における新型コロナウイルスの100万人当たりの新規感染者数推移を7日移動平均でみると、日本がG7の中でも感染者数を低位で保っていた。しかし足元では世界一の水準となっている。世界保健機関(WHO)の発表によると8月22日から8月28日の1週間の集計で日本の新規感染者数が125万8772人となり、6週連続で世界最多1となった。このような状況下のため、水際対策の意義は薄れている。水際対策は海外から感染者が流入し、国内で感染が拡大することを防ぐために実施するものだからだ。

8月24日の会見で岸田首相は、「水際対策についてはG7並みの円滑な入国が可能となるよう、内外の感染状況やニーズ、主要国の水際対策などを勘定しながら、段階的に緩和を進めていくという方針」だと述べた。しかし、現在決定されている水際対策及び外国人観光客の訪日条件はG7の国々と比べて厳しい。
9月7日から一部水際対策が緩和され、ワクチン接種証明書があれば、出国前72時間以内の陰性証明は必要なくなること、入国者数の上限を2万人から5万人に引き上げること、外国人観光客の訪日条件を、水際対策における「青」の国・地域からの、添乗員付きのパッケージツアーのみとしていたところから、すべての国から添乗員なしのパッケージツアーによる受け入れが可能となることが発表された。
入国者全員に課していた出国前検査が、ワクチン接種証明書があれば不必要となること、外国人観光客の受け入れが水際対策の区分の「青」に該当する国・地域のみだったものがすべての国となり、添乗員の条件が外されたことは評価できる。一方で、色による区分と外国人観光客がパッケージツアーのみでの受け入れということは依然として残ることとなった。国際的な人の往来再開やインバウンドの回復を実現していくためにはこれらは大きな障害となるだろう。
新型コロナウイルス感染症を完全に封じ込めることは困難である。このまま厳しい水際対策を継続するのではなく、感染症対策や医療体制の整備を徹底した上で、水際対策及び外国人観光客の訪日条件をさらに緩和し、国際的な人の往来の再開、インバウンドの回復を目指すべきだろう。
1 全数把握を中止した国があることに留意が必要
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(2022年09月02日「研究員の眼」)

03-3512-1838
- 【職歴】
2021年4月 日本生命保険相互会社入社
2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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