2023年05月31日

韓国の生命保険市場の現状-2021年と2022年のデータを中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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4――販売チャネルと販売制度

生命保険の販売チャネルの推移を初回保険料を基準としてみてみると、過去には保険外交員による販売が多かったものの、バンカシュアランスが登場してからは保険外交員のシェアは低下傾向にある。2022年第2四半期における生命保険の販売チャネル(初回保険料基準)は、バンカシュアランスが60.4%で最も高く、次いで、職員販売(20.4%)、保険外交員(9.5%)、代理店(9.1%)などの順であった。バンカシュアランスチャネルと代理店チャネルのシェアが減少した理由としては貯蓄保険と変額保険の販売不振が考えられる。一方、職員販売チャネルと保険外交員チャネルのシェアは、それぞれ退職年金や年金保険の新規販売拡大により増加した。
図表6 生命保険の販売チャネルの推移(初回保険料基準)
保険商品販売における保険外交員のシェアが減少することにより、2008年に173,277人でピークであった保険外交員の数は2020年には112,780人まで減少した。さらに、2021年には新型コロナウイルスの感染拡大の影響で保険外交員の数は86,006人まで急減した。保険外交員の性別は女性が76.4%で男性の23.6%を大きく上回った。

最近は若者の保険外交員離れが続いており、保険外交員の高年齢化も進んでいる。つまり、保険外交員に占める30歳未満と30~39歳の割合はそれぞれ2011年の7.1%と28.3%から2021年には3.9%と13.2%に低下したことに比べて、50~59歳と60歳以上の割合は同期間に19.8%と2.6%から37.7%と15.5%に大きく上昇した。

若者が保険外交員になろうとしない理由は、韓国では保険外交員が個人事業主で働くケースが多く、安定的な収入が保障されていないからである。今後労働力人口の減少が予想される中で保険業界がどのように若手人材を確保するのか、また、どのような販売チャネルをより活用するのか注目したい。
図表7 保険外交員の年齢階層別割合

5――収支動向

5――収支動向

2021年における生命保険業界の当期純利益は約3.7兆ウォンで、前年と比べて8.0%増加した。図表8は2006年から2021年までの当期純利益を示しており、2010年に4兆ウォンまで増加した当期純利益が2013年には2.1兆ウォンまで減少したものの、その後は増減を繰り返している。
図表8 当期純利益の動向

6――結びに代えて

6――結びに代えて

新型コロナウイルスの影響が長期化する中、韓国における2021年の生命保険の総資産は992.4兆ウォンで、2020年の977.3兆ウォンに比べて1.5%増加した。しかし、生命保険の総資産は増えたものの、今後、韓国における生命保険市場の見通しは明るいとは言えない。若者の保険離れが続いており、合計特殊出生率が継続して低下しているからである。ちなみに2022年における韓国の合計特殊出生率は0.78(暫定値)まで低下し、過去最低を更新した。韓国における少子化の主な原因としては、若者がおかれている経済的状況が良くないこと、若者の結婚及び出産に関する意識が変化したこと、少子化対策が子育て支援政策に偏っていること1、男女差別がまだ残存していること、女性が労働市場に参加する代わりに結婚や出産を選択することにより発生する機会費用が高くなったこと、子育ての経済的負担感が重いこと等が考えられる。

韓国の生命保険業界は若者の保険離れと少子高齢化、そして人口減少にどのように対応するだろうか。韓国の生命保険業界の今後の対応に注目したい。
 
1 韓国における少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担の問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けている。しかしながら、韓国政府の少子化対策は、出産奨励金や保育費の支援、そして教育インフラの構築など主に子育て世帯に対する所得支援政策に偏っている。韓国政府がこのような少子化対策を実施したことにより結婚した世帯の出生率は少し改善され、子育て世帯も少しは経済的に助けられたと考えられる。しかしながら少子化の他の要因である未婚化や晩婚化に対する対策はあまり行われていない。従って、今後は子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも雇用の安定性を高める必要がある。特に、男女間における賃金格差、出産や育児による経歴断絶、ガラスの天井など結婚を妨げる問題を改善し、女性がより安心して長く労働市場に参加できる環境を作ることが大事である。少子化対策が子育て支援政策に偏らないように注意する必要がある。

参考文献

日本語  
韓国語
  • 生命保険協会『生命保険Factbook』各年
  • 保険研究院「保険動向」各号
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2023年05月31日「保険・年金フォーカス」)

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