2023年05月19日

マンションと大規模修繕(3)~超高層マンション(タワーマンション)の大規模修繕

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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【超高層マンションとその他のマンションの大規模修繕工事の違い】

超高層マンション(タワーマンション)の法律上の定義はないが、一般的には高さ60メートル以上、概ね20階以上のマンションを指す。国土交通省が2021年7月から10月に行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」のなかで、工事の施工事業者に「超高層マンション特有の大規模修繕工事のうち難しい工事は何か」を聞いたところ、そもそも「施工計画全般が難しい」との回答が52.5%あった。具体的な工事内容では、仮設工事が62.5%、外壁塗装が55.0%、外壁タイルが50.0%の順で難しいとの回答が多かった。(図表1)。
図表1 超高層マンションの大規模修繕工事のうち難しい工事は何か(複数回答)
また「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、修繕工事費を押し上げる主な変動要因として、「建物が複雑な形状のマンション」、「超高層マンション」、「エレベーターや機械式駐車場がある」、「共用部に空調機が設置された内廊下、ラウンジ、ゲストルームなどがある」、「塩害を受ける海岸に近いマンション」などがあげられている。こうした特徴は超高層マンションにあてはまることが多く、超高層マンションの大規模修繕費用が高額となる原因であることが指摘されている。以下では、超高層マンションの大規模修繕費用が高い原因となりやすい(1)仮設工事、(2)外壁塗装・外壁タイル補修工事、(3)エレベーター取替工事の3つについて述べ、超高層マンションの大規模修繕にどのように対応すべきかを考える。

大規模修繕費用が高くなる原因(1)

【大規模修繕費用が高くなる原因(1):仮設工事】 

費用が高くなる原因の1つ目は、仮設工事である。仮設工事とは、目的の構造物を建設するために必要となる一時的な施設や設備(足場・防護柵・電力・水・トイレ等の仮設設備など)の設置と除去に関する工事をいう。国土交通省が行った「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、工事費全体に占める仮設工事費の割合は、超高層以外のマンションの場合が21.9%であるに対し、超高層マンションは29.0%と大きい(図表2)。
図表2 大規模修繕工事費全体に占める各工事の費用の割合
超高層マンションの仮設工事費が高くなる原因は「足場」である。マンションの大規模修繕工事で用いられる主な足場には、「枠組足場」、「ゴンドラ」、「移動昇降式足場」がある。「枠組足場」とは、地上から鋼材などを組み立てて建物の外部に足場を設置する方法(写真1)、「ゴンドラ足場」とは必要な工事箇所に屋上からゴンドラを吊るす方法(写真2)、「移動昇降式足場」とは必要な工事箇所の外壁にレールを設置して昇降式の足場を設ける方法である(写真3)。このうち「枠組足場」が最も安価であるが、安全性確保のため60メートル程度までが組み立て可能な高さの上限となる。
 
超高層マンション以外のマンション(以下、一般的なマンション)では、工事に必要な仮設の足場は、「枠組足場」で組むことができることが多い。一方、超高層マンションは、工事に必要な足場の全部または多くの部分に「ゴンドラ」または「移動式昇降足場」を用いる必要がある。階段状などのデザイン、建物の横断面の形、ベランダの形状などによっても組める足場は異なり、超高層マンションの仮設工事はそのマンションにカスタマイズされたものになることが多く、仮設工事費用は高くなりがちである。また、複合用途で低層階に商業施設がある場合などは、足場の設置に大きな制約が生じる場合がある。
大規模修繕工事に用いられる外部足場

大規模修繕費用が高くなる原因(2)

【大規模修繕費用が高くなる原因(2):外壁塗装・外壁タイル補修工事】

2つ目は、外壁塗装・外壁タイル補修工事である。超高層マンションの外壁に用いられる主な仕様には、オフィスビルなどにも用いられる「カーテンウォール1」や、中低層のマンションでもよく用いられる「タイル貼り」があり、このうち大規模修繕工事の手間と時間がかかるのは「タイル貼り」である。
 
基本的なタイルの補修工事では、歩行者の頭上などの通行人に影響する場所のタイルを1枚1枚、割れていないか(割れ)、外壁に接着しているモルタルからタイルが浮いてしまっていないか(浮き)など、劣化や破損を確認し2、割れや浮きのあるタイルを1枚ずつ交換する作業が行われる。基本的な工程は、その外壁の場所が1階でも20階でも変わらない。
 
当たり前だが、超高層マンションは、一般的なマンションよりも高さが高く、上層に行くほど作業には危険が伴う。前述の「大規模修繕に関する実態調査」では、「超高層マンションの外壁工事に特有の難しさは何か」との問いに対し、「安全対策3」が69.2%と大半を占めている。建物の形状にもよるが、高所の作業における作業者自身や落下物に対する安全対策・強風への対策をし、風が強い日には工事を見送る可能性など工期も長く見積もる必要があり、費用も当然高くなる。
 
1 高層ビルや高層マンションの外壁の種類の1つで、工場で作成されたの軽量なフレームまたはパネルを、うろこのように建物の躯体に張り付ける工法である。ガラス張りのビルでよく用いられるほか、セラミック、コンクリートなど多様な製品がある。
2 高層マンションのタイルの割れ等の検査には、近年はドローンを用いた赤外線検査が発達している。利用可能なら確認作業のための一部費用が削減できる。
3 安全対策のための設備の設置と除去に関する費用は仮設工事に含まれる場合もある。

大規模修繕費用が高くなる原因(3)

【大規模修繕費用が高くなる原因(3):エレベーター】

3つ目は、エレベーターである。通常のマンションであっても、エレベーターや機械式駐車場などの機械設備は維持費も修繕費も高額となることが多い。加えて超高層マンションのエレベーターについては、下記の点を知っておく必要がある。
 
◇ 全てのエレベーターは一定周期で取替が必要で、取替時期は大規模修繕2回目または築30年程度である。主要メーカーによると、エレベーターの耐用年数は25年とされ、国土交通省の「長期修繕計画標準様式」では築12年から15年で修繕、築26年から30年で取替が推奨されている。
 
◇ 超高層マンションで設置されるエレベーターは、超高層のオフィス・商業施設などのビルでも用いられる超高速・大容量エレベーターである。特注品で価格も維持費も高い。
 
前稿4で述べたように、大規模修繕を実施する建設会社は、5年後、10年後の予想できない将来の工事請負について正式な見積書を出すことはない。加えて、エレベーター取替工事には、建設業者が見積書を作成する前に、費用の計算根拠となるエレベーターメーカーの見積もりが必要になり、同様に将来の見積書を入手することは難しい。
 
一般的なマンションであれば、類似のエレベーターが数多くあるため、エレベーター取替の施工事例が蓄積しており、熟練した専門家であれば、見積書がなくても工事期間の長さや必要な費用をある程度予測することは可能である。しかし、超高層マンションの多くがまだ新しく、前述の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」で集められたサンプルに占める超高層マンションの施工事例は、大規模修繕工事の各回別に1回目が12.4%、2回目が0.5%、3回目が0.4%にすぎない5。また、超高層マンションの施工事例の築年数は、91.5%が築25年以下であった(図表3)。
 
つまり、超高層マンションの大規模修繕の施工事例は、エレベーターの取替時期である大規模修繕2回目または築30年前後で大規模修繕工事を行った例があまりなく、施工業者側にノウハウが十分蓄積しておらず、過去の施工事例が参考にならない。
 
むしろ、超高層のオフィス・商業施設などのビルのエレベーター取替工事に近い高額な費用になると考えられるが、これと同レベルの大規模修繕工事費をすべての超高層マンションでオーナーである居住者が負担できるかどうかには疑問が残る。もし、工事予定時期までに積み立てられた修繕積立金では不足する場合には、「部品の取替で済ませて工事費を抑えられるのか」、「エレベーターが耐用年数を超えてどこまで使えるか」が重要な問題となるだろう。
図表3 大規模修繕の施工事例に超高層マンションが占める割合(回数別)
 
4 渡邊布味子『マンションと大規模修繕(2)~なぜ修繕積立金の累計は大規模修繕費に足りなくなるのか』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2023年04月05日)
5 各案件の詳細な工事内容については公開されておらず、アンケートに「2回目」と回答した施工事例に実際に、エレベーター交換工事が含まれているかは不明である。しかし、超高層マンションの1回目の大規模修繕工事にエレベーター取替工事が含まれる場合はほとんどないと考える。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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