2023年05月12日

物流市場は空室率が大きく上昇。J-REIT市場は調整が続く-不動産クォータリー・レビュー2023年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1. 経済動向と住宅市場

日本経済は、約2年にわたってプラス成長とマイナス成長を繰り返す一進一退の状態から抜け出せずにいる。5/17に公表予定の2023年1-3月期の実質GDPは前期比+0.1%(前期比年率+0.3%)とかろうじてプラス成長を確保したと推計される1。海外経済の減速を背景に輸出が低迷し外需が成長率を押し下げる一方、外食や旅行などの対面型サービスを中心に民間消費がプラスに寄与する見込みである。

経済産業省によると、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比▲1.8%と2四半期連続の減産となった。(図表-1)。業種別では、世界的な半導体関連需要の低迷を反映し、電子部品・デバイスが前期比▲3.7%と4四半期連続の減産となったほか、生産用機械(前期比▲9.9%)などが大幅減産となった。

ニッセイ基礎研究所は、3月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2023年度+1.0%、2024年度+1.6%を予想する(図表-2)2。民間消費など国内需要を中心に景気回復の継続が見込まれるものの、その回復力は脆弱で、米国やユーロ圏が景気後退に陥った場合には日本経済への影響は避けられず、下振れリスクの高い状態が続く見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) / 図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、価格が上昇するなか、マンションの新規発売戸数や成約件数は低調に推移している。2023年3月の新設住宅着工戸数は73,693戸(前年同月比▲3.2%)、1-3月累計では約20.1万戸(前年同期比+0.6%)となった(図表-3)。着工戸数はコロナ禍の影響から立ち直り持ち直しの動きが続いているものの、建築コスト上昇や住宅ローン金利の動向などを注視する必要がある。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2023年3月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,439戸(前月同月比▲2.1%)、1-3月累計では4,970戸(前年同期比▲15.9%)と減少基調が続く(図表-4)。3月の1戸当たりの平均価格は都心の高額物件の発売を受けて1億4,360万円(前年同月比+120.3%)となり、単月では初めて1億円を超えた。m2単価は199.9万円(前年同月比+104.8%)、販売在庫は5,189戸(前年比▲692戸)となった。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2023年3月の首都圏の中古マンション成約件数は3,442件(前年同月比+1.1%)、1-3月累計では9,263件(前年同期比▲0.5%)となり、7四半期連続で減少した(図表-5)。中古マンション市場では取引価格が上昇し成約件数が減少するなか、在庫戸数が増加し14カ月連続で前年同月を上回っている。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
また、日本不動産研究所によると、2023年2月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前月比▲0.0%、過去1年間の上昇率は+6.1%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第4四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「71」(前回65)、横ばいが「9」(前回14)、下落が「0」(前回1)で、2019年第4四半期以来3年ぶりに下落地区がゼロとなった(図表-7)。同レポートでは、「住宅地ではマンション需要に引き続き堅調さが認められたことから上昇が継続。商業地では人流の回復傾向を受け店舗需要の回復が見られたことなどから上昇地区が増加し、下落地区がゼロとなった」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
また、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(4月1日時点)は前期比+0.7%(年間+3.7%上昇)となり11四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は31.4%(前回30.8%)、「値下がり」地点の割合は3.0%(前回2.4%)となった。引き続き、住宅地価格は上昇しているものの、上昇率は2022年4月をピークに鈍化傾向にある(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2023年3月の東京都心5区の空室率は6.41%(前月比+0.26%)、平均募集賃料(月坪)は32カ月連続下落の19,991円(前月比▲0.1%)となり、約5年ぶりに2万円の大台を下回った。他の主要都市をみると、空室率は新規供給の影響で横浜(6.40%)と福岡(5.89%)が前年対比で大幅に上昇した一方、札幌・仙台・名古屋・大阪は概ね横ばいで推移している(図表-9)。また、募集賃料は大阪と仙台を除いて前年比プラスを確保している3
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2023年第1四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は27,479円(前期比▲3.9%)に下落し、空室率は4.7%(前期比+1.1%)に上昇した(図表-10)。三幸エステートは、「オフィス需要はコロナ前の水準を回復しつつあるものの、建築中ビルは依然としてテナント誘致に時間を要している」としている。

また、日経不動産マーケット情報(2023年4月号)によると、「来年4月までに竣工するビル12棟4のテナント内定率は52%と進捗のペースは緩やかで、欧米本社のリストラの影響を受けて外資系企業のオフィス検討の動きが鈍っている」としている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心Aクラスビル市場の見通しを2月に発表した5。「今後5年間の空室率は2023年と2025年の大量供給の影響を受けて2027年には5%後半に上昇し、成約賃料については▲7%程度下落する」見通しである。東京オフィス市場は、オフィス出社率が70%を超えてオフィス回帰の動きが緩やかに進んでいるものの、オフィスの大量供給局面を迎えるなか、アフターコロナを見据えた企業のオフィス戦略や外資系企業のオフィスニーズなど、需要サイドの動向を注視したい。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
3 2023年3月時点の平均募集賃料は、前年比で、札幌(+2.4%)・仙台(▲0.3%)・東京(▲1.8%)・横浜(+0.3%)・名古屋(+0.5%)・大阪・(▲0.3%)・福岡(+1.8%)となっている。
4 東京23区内にある延べ床面積1万m2以上の賃貸オフィスビルを対象(2023年3月~2024年4月に竣工予定)
5 吉田資『東京都心部Aクラスビル市場の現況と見通し(2023年2月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023年2月21日)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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