2023年04月28日

確定拠出年金やNISAでは何に投資したら良いのか【2023年3月版】-国内債券型、国内株式型、外国株式型等でパフォーマンスを比較してみた

金融研究部 研究員 熊 紫云

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2019年夏に「老後資金2,000万問題」で取り上げられたように、公的年金だけでは老後の生活を安心して送ることが出来ないということが広く認識されている。老後を見据えた資産形成が必要不可欠であるが、低金利の環境下では、元本確保型等だけでは、十分な資産形成を期待することが難しい。そのため、各個人には、適切なポートフォリオの資産配分を決めて、効率良く資産形成をしていくことが望ましい。

このレポートでは、確定拠出年金やNISAなどで、老後に備え、毎月積立投資をする場合に、国内債券型、国内株式型、外国株式型など何に投資したら良いのかを考えたい。まずは、直近の金融市場動向に注目したいと思う。その上で、日本における代表的な4つの金融・経済危機直前から、バランス型や国内債券型、国内株式型、外国株式型などへ毎月2万円ずつ積立投資をし、2023年3月末にそれぞれ最終的にいくらになったのかについて確認したい。

1――直近15か月間の各資産の価格推移

1――2021年12月末から2023年3月末まで直近15か月間の各資産の価格推移

2022年はロシア・ウクライナ戦争や米連邦準備理事会(FRB)による政策金利引き上げ、さらには米国での銀行破綻等が相次いだことによる金融システム不安などで、株式市場を始めとする金融市場も大きく動揺し、乱高下した(図表1)。結果、2021年12月末を基準に、2023年3月末で、国内債券、外国債券のリターンはマイナスで、国内株式、米国株式、外国株式のリターンはプラスだった。
【図表1】各資産の価格推移(2023年3月末まで)

2――代表的な金融危機直前から

2――代表的な金融危機直前から2023年3月末まで毎月2万円を積立投資したらいくらになるのか

2022年から2023年までは激動の時期であったが、代表的な4つの金融・経済危機直前から、2023年3月末までに毎月2万円ずつ積み立てた場合の最終積立金額は図表2の通りである。ちなみに、以前に筆者がレポート1で発表した2021年12月末までの最終積立金額が図表3である。
 
2021年12月末と比べて、2023年3月末の最終積立金額の順番が変わったのは、比較的投資期間が短いコロナ・ショック直前から投資した場合で、国内株式型と高リスクバランス運用型(高リスク型)、外国債券型と低リスクバランス運用型(低リスク型)の2か所だけである。

総じて順番はあまり変わっていない。国内債券型など債券型が下位にあるのに対して、米国株式型と外国株式型など株式型が依然として上位にあることに変わりがないことが確認できる。

長期の積立投資ではやはり外国株式などの高いリターンが期待できる資産が有利である。例えば、日本バブル崩壊直前から2023年3月末までと2021年末まででは、毎月2万円の積立投資で米国株式が6,000万円程度、外国株式が4,700~4,900万円程度と、十分な資産形成ができている。
【図表2】最終積立金額(2023年3月末)
【図表3】最終積立金額(2021年12月末)
また、2021年12月末までと2023年3月末までの年率リターンで見てみると、図表4のようになる。例えば、日本バブル崩壊直前から2021年12月末までと2023年3月末までで両方とも、外国株式型が9%、国内債券型が2%と、年率リターンが7%も違う。ITバブル崩壊直前からやリーマン・ショック直前からの積立投資でも同様に、米国株式型や外国株式型や内外株式型といった成長が見込める金融商品が有利であったことが分かる。また、日本バブル崩壊直前やITバブル崩壊直前からなど、長期間の投資では、外国株式型で年率リターンが9%または10%であるなど、それぞれの金融商品の年率リターンが概ね同じようなレベルに収束していくことが分かる。
【図表4】年率リターン比較
 
1 基礎研レポート「確定拠出年金では何に投資したら良いのか?-外国株式型、国内株式型、バランス型、外国債券型と国内債券型でパフォーマンスを比較してみた」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70490?site=nli)

3――長期投資ではリスクよりリターンが大切である理由

3――長期投資ではリスクよりリターンが大切である理由

一般的に長期投資が良いと言われることが多いが、その基本的な考え方について説明してみたい。
リターンとリスクの基本概念
投資の世界では、「リターン」と「リスク」には、過去に実現したものと将来に実現する可能性があるものがある。過去の実績リターンと違い、将来のリターンは期待値である。また、損することをリスクとするのではなく、リターンの期待値に対するばらつきをリスクと捉えることが多い。例えば、リターンの期待値が1年間5%と仮定すると、1年後4%で期待値を下回ったり、6%で上回ったりすることがある。このばらつきをリスクと呼ぶ2

個人投資家は、自分に適した金融商品を選択する前には、その商品の将来のリターンとリスクなどの特徴を理解しておく必要がある。一般的に投資の世界では、将来のリターンは「正規分布」に従うことを前提とし、将来のリターンとして最も可能性が高い値が期待値とされる。そして、将来のリターンのばらつきを正規分布の標準偏差で表現し、これをリスクとしている。将来のリターンの期待値や標準偏差は過去のリターンを参考にして推定することが多い。ここでは、将来のリターンの期待値として過去の月次リターンを年率換算して年率リターンを算出し、将来のリスクとして過去の月次リターンの標準偏差「σ(シグマ)」を年率換算して年率リスクを算出することとする。
 
2 幸田博人/川北英隆編著『金融リテラシー入門 応用編』125-130頁を参照した。
投資期間ごとの累積リスクと年平均リスクの関係
もし将来のリターンが正規分布に従ってランダムに変化するならば、投資期間が長くなればなるほど、当然のことながら累積のリスクは大きくなるが、投資期間がT年であればリスクはT倍になるのではなく、√T倍になる。年平均リスクはT年の累積リスクをT年で割るので、投資期間が長くなればなるほど小さくなる。投資期間1年の場合のリスク(σ:年率リスク)を基準とすると、投資期間2年の場合の年平均リスクは√2分の1、投資期間3年の場合は√3分の1、投資期間4年の場合は√4分の1、つまり2分の1になる。さらに、投資期間25年の場合の年平均リスクは√25分の1、つまり5分の1になる。投資期間1年の場合のリスクに比べ、長期投資における年平均リスクは、それほど大きくない。

それでは、具体的にイメージが分かるように、確定拠出年金やNISAで採用されている代表的な金融商品のリスクについて説明してみたい。

過去5年間の月次リターンの実績値を用いて計算した年率リスクは国内債券で2.0%、外国債券で5.3%、国内株式で15.1%、外国株式で18.9%だが、過去と将来が同じであると仮定して、将来のリターンのばらつきである年平均リスクを計算したのが図表5である。
【図表5】投資期間における累積リスクと年平均リスク
例えば、外国株式型だと、投資期間1年の場合のリスクは18.9%だが、投資期間が長くなるにつれて小さくなり、投資期間25年の場合、年平均リスクは3.8%にまで縮小する。これは単純計算なのでこの数値通りにはならないが、投資期間が長いと年平均リスクは小さくなる傾向があるということだ。言い換えると、金融危機などで資産残高が大きく下がることもあるが、長期投資であれば長期的に期待できるリターンにそのうち戻っていくので、資産残高が回復するまで待てるということである。投資期間1年でのリスクが高いとされる外国株式型などの金融商品は、長期投資をすると、それほどリスクは高くなくなるので、必要以上にリスクを恐れる必要はないということだ。逆に金融危機などで資産残高が大きく下落した時には、けっして慌てて元本確保型等に入れ替えずに積立投資を継続し、気長に資産残高の回復を待つことが大切になる。
投資期間とリターンとリスクの関係
次に、投資期間とリターンとリスクの関係について説明する。投資効率を表す指標としてリターンをリスクで割るシャープレシオというものがある。厳密に言うとリターンからリスクフリーレートを引いて算出するのだが、簡単に言うと、リスクに見合うリターンがあるかどうかの指標である。

本レポートもこのシャープレシオを参考に、投資期間内の累積リターンを累積リスクで割った数値を算出して金融商品の投資効率とし、投資期間とリターンとリスクについて考えてみたい。

計算を簡単にするため、将来、国内債券型の年率リターンが2%、年率リスクが2%、外国株式型の年率リターンが10%、年率リスクが20%と仮定する。将来のリターンはランダムで正規分布に従うとする。

その仮定を前提に、投資期間1年、10年、25年、40年で累積リターン(a)と累積リスク(b)及び(a)を(b)で割った投資効率を算出してみた(図表6)。

単純な計算ではあるが、投資期間が長ければ長いほど、投資効率が良くなることが分かる。このことは、一般的に長期投資が良いということの根拠の一つであると言えるのではないだろうか。また、国内債券型と外国株式型を比べると、1年、10年といった比較的短い投資期間だと国内債券型の投資効率は外国株式型より良い。一方で、25年とか40年の超長期の投資期間では、外国株式型のリターンが加速度的に大きくなり、リスクはそれほど増えないので、外国株式型の投資効率の方が格段に良くなる。
【図表6】投資期間における累積リスクと累積リターンと投資効率
尚、図表6で示した試算はあくまでも投資期間とリターンとリスクの関係を簡便に示したものであり、実際にはこの数値通りにはならない点は注意が必要である。しかし、ここで言えることは、長期投資においては、短期的な価格変動等のリスクを気にするよりも長期的に高いリターンが期待できる投資を選択した方が良い結果となる可能性が高いということである。長期保有のメリットを享受できる長期投資ではリスクよりもリターンが大切なのである。

但し、高いリターンが期待できるからと言って、よほどの投資プロやベテランでない限り、個別銘柄投資はあまりお勧めしない。長期投資においても複数の銘柄、投資先の国や地域を分散する資産分散と資金投入時期を分散する時間分散は重要であり、十分に銘柄分散や銘柄選択がされている外国株式インデックスなどへの積立投資が良いと思われる。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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