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デマンド型交通の利用促進方法~カギは外出機会の創出と利便性向上にあり
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
1――はじめに
2――デマンド交通の概要と種類
実際の運行方法は、実施主体や事業者によって様々である。まず経路については、あらかじめ乗降所が指定されていて、予約があった乗降所のみ立ち寄るパターンもあれば、特に乗降所は指定されておらず、対象エリア内ならどこでも自由に乗降できるパターンもある。ダイヤについても、「8時便」「9時便」などのように、あらかじめ目安となる出発時間を定めているパターンもあれば、運行時間帯であればいつでも出発可能、というパターンもある。
道路運送法では、デマンド型乗合タクシーは一般乗合旅客自動車運送事業の「路線不定期運行」か「区域運行」のいずれかであり、地元の交通事業者などで構成する地域公共交通会議等で、事前に協議が整っていることが条件とされている。
デマンドの種類としては、「フルデマンド」や「セミデマンド」などがある。明確な言葉の定義は定まっていないようだが、本稿では、運行本数の違いに着目し、予約があれば、随時、ルートを決めて運行する形態を「フルデマンド」、予め出発時間を決めて運行する形態を「セミデマンド」と呼ぶこととする。
ここで、デマンド型乗合タクシーを、フルデマンドとセミデマンドに分けて特徴を整理すると(図表1)、まずフルデマンドについては、メリットとしては最大運行本数が多いため、より多くの移動ニーズに柔軟に対応できる可能性がある。AIを搭載したシステムを用いる場合、予約時間により正確な配車がしやすい。また、3-2|のチョイソコの事例で述べるように、乗合サービスのプラットフォームを活用して野菜や弁当を運ぶなど、新たなサービスを展開しやすい。デメリットとしては、需要が分散しやすいために相乗りが発生しにくく、実態としては一般のタクシーに近づく。一般のタクシーには、基本的に運行経費に対する公的補助が無いことから、公平性を保つためには、デマンド型乗合タクシーの乗合率(1区間当たりの平均乗車人数)を高めるか、公的な役割を担ってもらうなどの工夫が求められるだろう。
次にセミデマンドは、目安の運行時間に、利用者側が都合を合わせて乗車することから、需要を束ねやすく、より相乗りが発生しやすい。運行本数を限定し、供給を絞るため、効率的な運行になりやすい。デメリットとしては、運行本数が限定されているために、利用者からみた利便性は、フルデマンドに比べれば低くなる。従って、あえて概念化して述べれば、フルデマンドは、「より多くのニーズに柔軟に対応して、輸送の価値を最大化する仕組み」を志向しているのに対し、セミデマンドは「供給と需要を束ねて、輸送をより効率化する仕組み」を志向していると言える。
因みに、どちらのタイプでも、利用者数が少なければ、予約受付や経路の決定、配車指示などをオペレーターが手動で行うことは可能である。利用者数が増えてくると、経路作成や配車指示が複雑になるため、システムを導入した方がスムーズに行える。またシステムを導入していれば、乗降データ等の生成や分析も容易になり、運用の見直しがしやすい。特にフルデマンドの場合は、AIを搭載したシステムを用いる事業者が多い。ただし、利用者が極端に少ない場合は、システムを導入してもメリットが小さく、経費が大きな負担になることがある。
フルデマンドとセミデマンドのどちらが適しているか、システムを導入した方が良いかどうかは、実施主体である市区町村などが、どのような目的で、どのようなサービスを提供したいと考えるか、デマンド型乗合タクシーによって何を実現しようとしているかによるだろう。
3――好事例から見る利用促進策
(1) 事業概要と利用実績
丹波市では、路線バスを運営していた神姫バスが、2010年に一部路線を休止すると市に通知したことをきっかけに市が代替交通を検討し、2011年2月にデマンド型乗合タクシーを導入した1。市の概要は図表2、事業概要や利用実績等は図表3に示した。実施主体は、市や交通事業者、住民代表などで構成する「丹波市地域公共交通活性化協議会」である。予約センター業務は丹波市商工会、運転業務は市内のタクシー会社6社が担っている。同協議会予算は市が100%負担しているため、実質的には市が乗合タクシーの赤字分を支出している。協議会の配布資料によると、2021年度のデマンド型乗合タクシー事業にかかる費用は年間約5,400万円となっている。
次に、会員登録状況についてみていきたい。利用対象は高齢者だけでなく、登録すれば住民は誰でも利用できる。直近の2021年度実績では、登録会員数は9,695人で、全人口に占める登録率は15.6%。年代別に登録率をみると、40歳代以下はいずれも1割未満だが、50歳代になると10.1%、60歳代は18.3%、70歳代は18.7%、80歳代は30.8%、90歳以上は53.8%と高齢層で上昇しており、高齢者、特に後期高齢者の移動手段として定着している。
次に利用実績をみると、2021年度の年間利用者数は24,993人で、運行日数で割った1日当たりの平均利用者数は123.7人。車両1台当たりが1日に輸送した利用者は平均9.5人である。丹波市では1車両につき1日7便運行しているため、1便当たりの平均利用者数は1.36人である。
過去5年間の利用者数の推移を見ると、高齢者のマイカー利用率が近年、上昇していることなどから、2017年度以降、毎年数%ずつ利用者数が減少していたが、コロナ禍に入った2020年度は前年比17.8%減とマイナス幅が大幅に拡大した。2021年度は前年度比5.1%増となり、やや回復している。2022年度はさらに回復してきており、公表済みの月別データとして最新の2022年9月をみると、1日当たりの平均利用者数は140.9人、1台当たりの1人の平均利用者は10.8人、1便当たりの平均利用者数は1.55人となっている。
1 読売新聞地域版2009年4月7日など。
筆者の基礎研レポート「高齢者の移動支援に何が必要か(下)~各移動サービスの役割分担と、コミュニティの変化に合わせた対応を~」(2021年6月1日)でも紹介したが、丹波市のデマンド型乗合タクシーには、その導入経緯に大きな特徴がある。導入の直接のきっかけとなったのは、路線バスの休止だったが、背景には、当時、丹波市で非常に盛んに行われていた地域医療に関する住民運動があった。同市では2007年、県立柏原病院(現県立丹波医療センター)で小児科の常勤医が激減し、小児科の撤退という危機が起きたことから、「(常勤医減少の要因となった)柏原病院への過剰受診を控えて、地域にかかりつけ医を持とう」という住民運動が巻き起こった。その運動と連動して、かかりつけ医までの移動手段を確保することに対し、住民の要望が高まったというものである。
したがって、計画段階で、行政側が住民との意見交換を繰り返し行い、移動に対するニーズを丁寧に汲み取り、制度設計に生かしていった。具体的には、(1)65歳以上の高齢者約1万人を対象に、交通需要に関するアンケートを実施、(2)各種団体の推薦により、計6地域89人の市民と意見交換、間接的な方法としては、(3)自治会長会、(4)自治会、(5)地域ケア会議、(6)障害者地域支援会議、(7)民生委員児童委員協議会との意見交換を行った。同市は、これらを基に、デマンド型乗合タクシー導入を盛り込んだ「丹波市地域公共交通総合連携計画」を策定した。
また、運行開始後も、市職員が約300ある集落をくまなく回り、自治会単位で登録を呼びかけたり、利用方法を教えたりしたという。従来の路線バスなら予約しなくても停留所に行けば車両が来るのに、乗合タクシーでは新たに予約が必要になり、住民にとっては最初のハードルになる。さらに高齢になると、新しい段取りを覚えるのも難しくなることから、このように手取り足取り利用方法を伝授したことが、その後の利用にもつながっていったと思われる。最近では、前述したようにマイカーを運転する高齢者が増え、70歳代の登録が伸び悩んでいるため、市は、地域の高齢者サロンを訪れて啓発活動をしているという。
体制面でも、高齢者や障害者の意見を反映させやすくした。丹波市地域公共交通活性化協議会の委員には、自治会長会に加え、老人クラブ連合会や身体障害者福祉協議会、市社会福祉協議会を入れた。
設備面では、高齢者が乗合タクシーを待ちやすいように、商店等が軒先に乗降者向けのベンチなどを設置する場合に補助金を交付するなど、生活者目線が引き継がれている。また、広域の移動ニーズにも対応できるように、2021年度には、路線バスや隣の区域のデマンドに乗り継ぐための乗継所を整備した。他の乗り物に乗り換え・乗り継ぎしやすくして、公共交通全体の利用促進を図っている。
その他、利用者が得する回数券(11回分で3,000円など)を販売して運行経費との差額分を補助したり、コロナ禍以降はキャッシュレス決済を導入したりしている。さらに特徴的なのは、交通データを積極的に活用している点である。同協議会が年2~3回開く会議では、月や曜日、運行時間帯ごとの利用者数、乗降場所ごとの利用者数、地区別や年代別の登録者数と登録率など、詳細で豊富なデータが報告され、運用の見直しに活かしている。この分析結果を用いて、例えば「今後は若年層や70歳代の登録者数を増やす余地がある」として、公共交通のパンフレット全戸配布や、高校での啓発といった利用促進策を決めている。
(2)で見てきた利用促進策をまとめると、計画段階から運用開始後、現在に至るまで、住民ニーズの把握と利便性の観点から運用見直しを恒常的に行い、PDCAサイクルを回し続けていると言える。ニーズ把握の方法としては、協議会の体制を工夫したり、交通データを生成して分析に活かしている。利便性向上の対策としては、ハード面では待合環境や乗継環境の改善等、キャッシュレス決済の導入、ソフト面では回数券の発行、パンフレット配布や高齢者サロン、高校等での出前授業による周知活動等に取り組んでいる。
繰り返しになるが、このように丁寧な利便性向上策を講じている背景としては、丹波市ではもともと、「かかりつけ医へのアクセス確保」という生活ニーズと連動してデマンド型乗合タクシーが導入されたことから、住民の暮らしを守ることが主眼とされ、生活者目線の運用が貫かれていることがある。その取り組みが、利用促進につながっていると言える。
(2023年04月20日「基礎研レポート」)
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- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
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