2023年04月07日

2022~2024年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.313]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―景気は足踏み状態に

2022年10-12月期の実質GDPは、前期比0.0%(年率0.1%)とほぼゼロ成長にとどまった。高水準の貯蓄や全国旅行支援による下支えもあって民間消費は前期比0.3%と堅調を維持したが、設備投資が前期比▲0.5%と3四半期ぶりに減少したことなどから、国内需要が5四半期ぶりに減少した。一方、輸出が前期比1.5%と増加する一方、輸入が同▲0.4%の減少となったことから、外需は成長率を押し上げた。

2022年10-12月期はかろうじてプラス成長となったが、日本経済は約2年にわたってプラス成長とマイナス成長を繰り返しており、一進一退の状態から抜け出せずにいる。2022年10-12月期の実質GDPはコロナ禍前の2019年10-12月を0.8%上回っているが、直近のピーク(2019年7-9月期)を▲1.9%下回っている。経済の正常化までにはかなりの距離がある。

内閣府の「景気動向指数」では、CI一致指数が2022年9月から3ヵ月連続で低下した後、12月は前月から横ばいとなったが、2023年1月は前月差▲3.0ポイントの大幅低下となった[図表1]。CI一致指数の基調判断は、2022年12月分の公表時にそれまでの「改善」から「足踏み」へと下方修正された。景気動向指数が低下を続けている主因は、海外経済の減速を背景に輸出が低迷し、製造業の生産活動が弱い動きとなっているためである。

鉱工業生産指数は、2022年7-9月期には前期比5.8%の高い伸びとなったが、10-12月期は同▲3.0%と2四半期ぶりの減産となった。供給制約の影響が残る自動車が前期比▲4.3%の低下となったほか、グローバルなITサイクルの調整を反映し、電子部品・デバイスが前期比▲5.9%と3四半期連続の減産となった。

個人消費を中心に国内需要が一定の底堅さを維持していることが下支えとなるものの、欧米を中心とした海外経済の悪化を背景に輸出の低迷が続く可能性が高いことから、生産は当面弱い動きが続くことが予想される。
[図表1]景気動向指数・CI一致指数の推移

2―春闘賃上げ率は94年以来の3%台へ

連合は3/3、2023年の春季労使交渉で傘下の労働組合が要求した賃上げ率が平均4.49%(3/1時点)と、前年を1.52ポイント上回ったことを公表した。

連合傘下組合の賃上げ要求と実績の関係を振り返ってみると、1990年代後半までは4%以上の賃上げ要求に対し、実際の賃上げ率は3%前後となっていた。その後は雇用情勢が厳しさを増す中で、組合が賃上げよりも雇用の確保を優先したこともあり、定期昇給分(ベースアップなし)に相当する1%台後半の要求水準という期間が長く続いた。アベノミクス景気が始まった2013年以降、過去最高益を更新する企業が相次ぎ、企業の人手不足感が大きく高まるなど、賃上げを巡る環境は大きく改善した。しかし、賃上げ要求は3%程度、実際の賃上げ率は2%程度にとどまってきた。

賃上げ要求水準が上がらなかった背景には、デフレマインドが払拭されていないことがあったと考えられる。デフレ期にはベースアップがなくても物価の下落によって実質賃金が上昇した。2013年の異次元緩和開始以降、少なくともデフレではなくなり、賃上げがなければ実質賃金が目減りするようになったが、デフレマインドが根強く残り、賃上げの重要性が十分に認識されることはなかった。

しかし、消費者物価が約40年ぶりの高い伸びとなり、実質賃金の目減りが強く意識されるようになってきたことから、状況は一変した。連合が賃上げ要求を前年までの4%程度から5%程度に引き上げたことを受けて、連合傘下組合の賃上げ要求も大幅に上昇した。このため、最終的な賃上げ率も前年から大きく上昇することがほぼ確実となった。

ただし、賃上げ率の要求水準が高いほど、実際の賃上げ率との差は大きくなる。たとえば、要求が定期昇給分に相当する1%台後半にとどまっていた時期は要求と実績の差があまりなかったが、要求が5%を超えていた1990年代前半は要求と実績の差が2~3%程度となっていた[図表2]。こうした点を考慮し、今回の見通しでは、2023年の春闘賃上げ率の想定を3.00%(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース、2022年実績は2.20%)とした。

この想定が実現すれば、2023年の春闘賃上げ率は1994年(3.13%)以来の3%台となる。定期昇給分を除いたベースアップは1%台前半で、2022年度に続き2023年度も消費者物価の伸びを下回る公算が大きい。しかし、2024年度は物価上昇率の低下が見込まれるため、景気回復基調が維持され、賃上げがさらに進めば、ベースアップが物価上昇率を上回る状態が実現する可能性が高くなる。

2023年度は、コロナ禍における行動制限の影響で高水準となっている貯蓄率の引き下げ、2024年度は賃上げの進展と物価上昇率の低下に伴う実質所得の増加が消費を下支えするだろう。
[図表2]春闘賃上げ率の要求と実績の関係

3―実質GDP成長率の見通し

2022年10-12月期はほぼゼロ成長となったが、2023年1-3月期も前期比年率0.6%と低成長が続くことが予想される。民間消費を中心に国内需要が底堅く推移する一方、欧米の景気減速を背景に輸出が減少に転じるためである。

2023年度入り後は、引き続き輸出が景気の牽引役となることは期待できないものの、民間消費、設備投資などの国内需要を中心とした景気回復が続くことが見込まれる。2024年度は国内需要が底堅さを維持する中で、海外経済の持ち直しを受けて輸出が増加に転じることから、成長率は高まるだろう。

実質GDP成長率は、2022年度が1.2%、2023年度が1.0%、2024年度が1.6%と予想する。

米国のマイナス成長は小幅にとどまり、ゼロコロナ政策終了を受けて中国経済が持ち直すことから、日本は景気回復基調が維持されることをメインシナリオとしている。しかし、景気の回復力は脆弱で、米国、ユーロ圏が深刻な景気後退に陥った場合には、輸出が大きく落ち込み、日本も景気後退が避けられなくなるだろう。

実質GDPが直近のピークの水準を回復するのは、2024年4-6月期になると予想する。リーマン・ショック時には実質GDPの水準が直前のピークを回復するまでに5年以上(22四半期)かかったが、今回のコロナ禍でもそれに匹敵する長さとなる可能性が高くなってきた[図表3]。
[図表3]実質GDPが元の水準まで戻るまでの期間

4―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、エネルギーや食料の価格上昇を主因として、2023年1月に前年比4.2%と、1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった。これまでは物価上昇のほとんどが資源・穀物価格の高騰や円安に伴う輸入物価の上昇を受けた財価格の上昇によるものだったが、サービス価格も2022年8月に上昇に転じた後、徐々に伸びを高めている。

コアCPI上昇率は、2月には政府の負担緩和策によって電気・都市ガス代が抑制されたことから、3%台前半まで低下したが、電力各社が申請している認可されれば電気料金は再び大きく上昇する。電気代やガス代、ガソリン、灯油も含めたエネルギー価格はいったん前年比でマイナスとなるが、電気料金値上げや10月に予定されている負担緩和策の縮減によって再び上昇することが見込まれる。

原油高や円安の一服により輸入物価の上昇には歯止めがかかっており、2023年度入り後には原材料コストを価格転嫁する動きが弱まり、財価格の上昇率は鈍化する公算が大きい。一方、サービス価格は賃上げ率の高まりを受けて、上昇ペースが徐々に高まるだろう。

コアCPI上昇率は、2022年度が前年比3.0%、2023年度が同2.3%、2024年度が1.1%と予想する[図表4]。
[図表4]消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年04月07日「基礎研マンスリー」)

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