2023年04月06日

気候指数 [全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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(9) 九州北部
(9) 九州北部
九州北部の合成指数は、2000年代半ばより徐々に上昇しており、2022年秋季には1.14となっている。高温の指数は2020年に1.5を超えて、2に迫っている。さらに、長崎、福江、口之津といった観測地点の海面水位が上昇して、海面水位指数が高い水準で推移しており、合成指数の上昇につながっている。三大都市圏につぐ九州北部の人口集中地域でも、徐々に気候変動の影響があらわれつつある。

(10) 九州南部
(10) 九州南部
九州南部の合成指数は、2010年頃までゼロ前後で推移してきたが、その後上昇して、2022年秋季には1.21となっている。中でも、海面水位指数は2010年代以降大きく上昇している。油津、鹿児島、枕崎といった観測地点で海面水位が継続的に上昇している。また、近年、高温指数は1を超えている。湿度指数は、2010年代後半に急上昇した。これらのことが、合成指数の上昇につながっている。

(11) 奄美
(11) 奄美
奄美の合成指数は、2000年代半ばより上昇を続け、2022年秋季には1.12となっている。特に、湿度指数が2を超えて推移していることが大きく寄与している。この地域区分は、気象の観測地点が2つ、潮位の観測地点が1つであり、各指数が変動しやすい。そのため、奄美単独の地域区分に加えて、九州南部と合わせた「九州南部・奄美」の地域区分でも気候指数を見ていくことが望ましいものと考えられる。

(12) 九州南部・奄美
(12) 九州南部・奄美
九州南部・奄美の合成指数は、2010年頃までゼロ前後で推移してきたが、その後上昇して、2022年秋季には1.19となっている。九州南部と奄美の地域区分の気候指数の状況が、あらわれている。特に、海面水位指数が高い水準で推移し、上昇している。また、湿度指数は、2010年代後半に急上昇している。これらのことが、合成指数の上昇の要因となっている。

(13) 沖縄
(13) 沖縄
沖縄の合成指数は、長らくゼロ近辺で推移してきたが、2010年代半ばより上昇し、2022年秋季には1.05となっている。特に、高温指数は急上昇して、2020年に2を超えた。その後、やや低下している。また、湿度指数は、2010年代に上昇のペースを上げてきた。これらのことが、合成指数の上昇につながっている。

2|日本全体では合成指数が1971年以降の最高水準に
前節の各気候区分の気候指数の計算結果を踏まえたうえで、日本全体のグラフを見ていこう。日本全体は、各地域区分の指数を平均したものとしている。ただし、九州南部と奄美については、両者を一体化した「九州南部・奄美」の地域区分をもとに、平均をとることとしている。

日本全体
図表20. 指数推移 (5年平均) [日本全体]
日本全体の合成指数は、参照期間の1971~2000年には、ゼロ前後で推移していた。2000年代には、0~0.5の範囲内で変動していたが、2010年代に入ると上昇傾向となった。2013年に0.5を超え、2022年夏季には1に達し、2022年秋季には1.01に上昇した。この水準は、1971年以降の過去最高水準となっている。

高温指数と海面水位指数の2つは、長らく合成指数を上回る水準で推移し続けている。高温指数は、上昇基調にあり、2010年代半ば以降は上昇の勢いが増している。海面水位指数も、上昇傾向が続いている。さらに、湿度指数は、2000年以降マイナスで推移していたが、2010年代半ばにプラスに転じ、急上昇した。

なお、その他の指数をみると、低温指数は、緩やかに低下。降水指数と乾燥指数は、いずれもゼロ近辺で推移。風指数は、概ね0~0.5の範囲内での変動となっている。

高温指数、湿度指数、海面水位指数の上昇が、合成指数の上昇を引き起こす主な要因となっている。

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

本稿では、観測地点を増やすことで、各地域区分の気候指数を作成した。そして、それらを平均して、日本全体の気候指数を作成した。その際、日本で問題とされやすい“暑さ”を示すために、気候指数の項目として、湿度指数を追加した。これにより、熱中症などの健康不良を引き起こす、暑熱環境の極端さを定量化することが期待される。

今後、気候変動問題が保険事業に与える影響をみていくために、北米で開発されている気候リスク指数のような、気候変動が人命や財産に与えるさまざまなリスクの定量化の試みも必要と考えられる。

グローバルに目を向ければ、地球温暖化を背景とした気候変動の問題は、これからますます注目度が高まるものと考えられる。スーパー台風の襲来や、豪雨、豪雪による激甚災害など、急性リスクの懸念はさらに高まっている。一方、南極やグリーンランドの氷床の融解、アフリカ山岳地域等の氷河の消失、ヨーロッパなどでの熱波や干ばつの発生など、慢性リスクの発生が、人々の生活に深刻な影響を及ぼし始めている。

こうしたリスクを定量的に示すために、引き続き、気候指数の検討を進めるとともに、気候の極端さの定量化に関する海外の調査・研究動向のウォッチを続けていくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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