2023年04月06日

気候指数 [全国版] の作成-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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3――観測地点の拡充

今回の指数拡張のもう1つの項目である、観測地点の拡充についても見ていく。

1|12の地域区分ごとに複数の観測地点を設定
前回のレポートでは、気象庁の気候区分をもとに、「北日本」「東日本」「西日本」「沖縄・奄美」の4つに分けたうえで、日本全体を12の地域区分に分けて、気候指数を作成することとした。一般的な地方区分を踏まえつつ、都道府県の行政単位ごとに設定することが、主な狙いとなっている。
図表4. 12の地域区分
2|奄美については、九州南部と合わせた地域区分も設定
今後、気候変動問題が保険事業に与える影響をみていくために、気候指数と各種保険事故の発生動向を関連付けるような展開が考えられる。そのようなときに、気候指数を都道府県単位で設定しておくことができれば、使い勝手がよい。

12の地域区分はそのことを意識しているが、奄美については鹿児島県の一部であり、市町村単位での設定となっている。また、奄美は、面積が0.1万km2、人口が11万人であり、他の地域区分と比べて小さい。
図表5-1. 面積の内訳/図表5-2. 人口の内訳
そこで、今回の気候指数作成では、奄美について、奄美単独の地域区分に加えて、九州南部と合わせた「九州南部・奄美」の地域区分も設定することとする。

日本全体の気候指数については、各気候区分の気候指数を平均して算定する。その際、九州南部と奄美の代わりに、九州南部・奄美を用いることとする。

3|気象データの観測地点は気象台等とする
今回、各地域区分に複数の観測地点を設定して、そのデータをもとに地域区分の気候指数を作る。地域区分内の地点の気候指数を平均したものを、その地域区分の気候指数とする6

各地域区分で設定する気象データの観測地点は、原則として気象台等7とする。気象台等では、過去からの日々の観測要素(降水量、風、気温、湿度、天気など)が取得できるためである8。無人観測施設であるアメダス9による観測地点でも、降水量、風、気温などのデータが取得できるが、湿度や一部の項目が取得できないなどの制約があることから、今回の気候指数作成のための気象データとしては用いない。なお、すでに観測を停止している地点のデータは、用いないこととする。
 
6 各地点の気候指数は、気象や潮位のデータの参照期間(1971~2000年)平均からの乖離度(平均と標準偏差を用いて算定)として計算される。そのため、各地点の平均をとることができる。
7 気象台の他に、有人の気象観測施設も含まれる。
8 一部の項目のデータが取得できない気象台等もある。その場合、その観測地点のデータは気候指数作成には用いない。
9 国内約1300か所の気象観測所で構成される気象庁の無人観測施設。アメダス(AMeDAS)は、Automated Meteorological Data Acquisition System(地域気象観測システム)の通称。
4|潮位データについては歴史的潮位資料が公表されている潮汐観測地点とする
気候指数の1つに、海面水位指数がある。これは、潮位データをもとに、作成される。潮位データについては、1997年3月以前の潮位の観測値が「歴史的潮位資料」、1997年4月以降の潮位の観測値が「近年の潮位資料」として、気象庁より公表されている。ただし、歴史的潮位資料は、すべての潮汐観測地点で公表されているわけではなく、長期に渡って観測を続けている地点に限られる。一方で、過去のデータはあるものの、すでに観測を停止しているため、直近のデータがない地点もある。

そこで、各地域区分で設定する潮位データの観測地点は、歴史的潮位資料と近年の潮位資料が公表されていて、現在も観測を継続している潮汐観測地点とする。

5|観測地点は気象データ154地点、潮位データ57地点
観測地点は次の表のとおりとなった。気象データとして154地点、潮位データとして57地点のデータを気象庁のホームページより取得し、これらをもとに気候指数を作成する。
図表6. 気候指数作成にデータを用いる観測地点の一覧

4――気候指数の作成方法

4――気候指数の作成方法

本章では、気候指数の作成方法を振り返っておく。多くは、前々回のレポートに記載した内容の再掲となっている。次章に示す、気候指数の計算結果を読み解くうえで、参考としていただきたい。

1|地域区分に分けて指数を作成し、その平均から日本全体の指数を作る
前章で述べたとおり、日本全体を12の地域区分に分ける。また、九州南部と奄美を合わせて、「九州南部・奄美」の地域区分もつくる。各地域区分の指数は、それぞれに含まれる観測地点の指数の単純平均とする。

そのうえで、日本全体の気候指数を、各地域区分の単純平均として作る。平均の計算にあたり、九州南部と奄美については、「九州南部・奄美」を用いる。

2|月ごとと季節ごとの指数を作成する
指数は、月ごとおよび四半期の季節単位(12~2月、3~5月、6~8月、9~11月)に作成する。そして、月や季節の指数と併せて、月の5年移動平均、季節の5年移動平均の指数も設定する。これは、気候変動を、短期間の変動としてではなく、より長いスパンで捉えようとする試みである。

なお、やや細かいが、参照期間の当初5年間(1971~1975年)については、実績が5年分に満たないため、移動平均をとっても変動が大きくなる。そこで、この期間は、5年移動平均の不足分を1971~1975年の平均で補うこととする。

3|指数はゼロを基準に、プラスとマイナスの乖離度の大きさで表される
気候指数は、7つの項目の乖離度をもとに計算される。7つの項目とは、高温、低温、降水、乾燥、風、海面水位、および今回追加した、湿度を指す。計算にあたり、1971~2000年の30年間を、参照期間とする。そして、あらかじめ、各項目の計数値について、参照期間中の同じ月(季節)の平均と標準偏差を求めておく。(以下、本章では季節について、「月」を「季節」と読み替えていただきたい)

ある1つの項目に、注目する。この項目について、ある月の乖離度を求めることにしよう。そのためには、その月の計数値から、参照期間中の平均を引き算する。その引き算の結果を、参照期間中の標準偏差で割り算する。このようにすることで、その月の計数値が、標準偏差の何倍くらい、平均から乖離しているかという、乖離度が計算できる。

乖離度が標準正規分布に従うものと想定すると、-1から1の間に入る確率は、約68.3%となる。逆に、乖離度が1を超える確率は、約15.9%となる。乖離度が2を超えるのは珍しいことで、その確率は、約2.3%。乖離度が3を超えるのは大変珍しいことで、約0.1%の確率となる。このようにして、気候に関する極端さの度合いが、定量化される。この乖離度を、7つの項目それぞれで計算する。

4|元データとして気象庁の気象データと潮位データを使用する
指数作成の元データは、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度については過去の気象データ、海面水位については歴史的潮位資料と近年の潮位資料の潮位データとする。いずれも気象庁のホームページからダウンロードして取得したデータとする。

気象データは、日単位のものとし、各観測地点の「日最高気温 (℃)」、「日最低気温(℃)」、「降水量の日合計 (mm)」、「日平均風速 (m/s)」、「日平均相対湿度 (%)」のデータである。乾燥指数のために、降水に関しては、降水現象の有無に関する「現象なし情報」も用いる。

一方、潮位データは、月単位のものとし、各観測地点の「月平均潮位 (cm)」を用いる。

5|7つの項目について、指数を作成する
以下では、ポイントを絞って、項目別に、作成方法を概観していく。いずれも、極端さの度合いを示すものとして、乖離度を用いるという方針が貫かれている。

(1) 高温は、上側10%に入る日の割合から算出
高温は、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。例えば、ある年の4月6日については、1971年から2000年までの4月6日とその前後5日間(4月1~5日および7~11日)の、合計330日分のデータのうち、33番目に高いデータが閾値(しきいち)となる。この閾値以上の日が何日あったか、をみることとなる。

気温は、1日のうちにも変動するため、日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、高温の指数とする。

(2) 低温は、下側10%に入る日の割合から算出
低温は、高温と同様に、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、下側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、低温の指数とする。

(3) 降水は、5日間の降水量の最大値から算出
降水は、月のうち、連続する5日間の降水量をみる。高温と同様に、参照期間中の降水量の上側10%の中に入る日が、その月にどれだけあるかという割合でみていく。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、降水の指数とする。

(4) 乾燥は、乾燥日が連続する日数から算出
乾燥の指数は、連続乾燥日から算出する。すなわち、乾燥日が何日続くかという、最大連続日数についてデータをとる。その際、乾燥日をどのように判定するかが検討ポイントとなる。降水量が0ミリメートルでも、わずかながら降水が見られる場合と、まったく降水が見られない場合があるためだ。

これについては、気象データにおいて観測単位(降水量0.5ミリメートル)未満で、降水の現象の有無の観測をした結果として表示されている「現象なし情報」を用いて判定する10

参照期間中の同月の乾燥日の最大連続日数をもとに、その月の参照期間からの乖離度が計算される。これを、乾燥の指数とする。

(5) 風は、上側10%に入る日の割合から算出
風は、参照期間中の日平均風速の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、風の指数とする。

(6) 湿度は、上側10%に入る日の割合から算出
湿度は、参照期間中の日平均相対湿度の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、湿度の指数とする。

(7) 海面水位は、参照期間中の同じ月のデータから算出
海面水位は、月平均潮位から算出する。ただし、季節によって海面水位の高さは変わる。そこで、参照期間中の同月の30個のデータをもとに、参照期間の平均や標準偏差を計算する。それらをもとに、その月の平均潮位の参照期間からの乖離度が計算される。これを、海面水位の指数とする。
 
10 現象なし情報は、降水の現象があった日は0、なかった日は1の値で表示されている。
6|合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4つの指数の平均とする
最後に、以上で算出された7項目の指数をもとに、合成指数を算出する。

7項目の指数のうち、高温と低温はともに気温についての項目であり、相互に関連があるものと考えられる。また、降水と乾燥は、反対の事象を表す項目と言えるため、負の相関があるものとみられる。さらに、風については、観測方法がよく変更されており、データが空欄となっていた日数も多いなど、データの一貫性に難があるという課題も残っている。11

このため、今回は、低温、乾燥、風は合成指数の計算には用いず、高温、降水、湿度、海面水位の4項目の平均として合成指数を算出する。なお、観測地点ごとの合成指数を算出する場合、海に面していない観測地点では、海面水位を除いて合成指数を計算する。
 
11 別表21に示すとおり、気象データのうち日平均風速については、1971~2022年の間に、すべての観測地点で少なくとも1回、多い地点では4回、観測方法が変更されている。また、空欄となっている日数は、他の気象データに比べて多い。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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