2023年03月31日

増加する単独高齢女性とその暮らし~平均年収は男性より約70万円低く、3割が年収150万円未満

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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6――貯蓄の男女別の状況

5では、無職の単独高齢世帯では、男女ともに70歳代までは家計の赤字を貯蓄で補っていること、平均余命が長い女性の方が、貯蓄が尽きるリスクが大きいことを説明した。そこで本項では、高齢層の貯蓄の状況についてみていきたい。厚生労働省の「令和元年国民生活基礎調査」によると、単独世帯の性・年齢階級別の貯蓄残高は図表6のような状況となっている。

男性では、「60~69歳」と「70~79歳」、「80歳以上」のいずれの年齢階級でも「貯蓄がない」が2割前後に上った。これに対し、女性で「貯蓄がない」と回答したのは「60~69歳」では約1割、「70~79歳」と「80歳以上」では約2割に上る。60歳代に限れば、男性よりも女性の方が非貯蓄層の割合は小さいが、女性の方が年収が圧倒的に低く、平均余命が長いことを勘案すると、女性の方が経済的リスクが高いと言えそうである。

従って、これまでにみた状況を総合すると、無職の単独高齢女性を中心に、今後、困窮状態に陥る高齢者が増える恐れがある。実際に、厚生労働省「2021年度被保護者調査」によると、生活保護の被保護世帯のうち単身高齢世帯は51.3%(1か月平均837,379世帯)を占めており、5年前の46.6%(同758,787世帯)よりも構成比が上昇している。
図表6 男女別単独高齢世帯の貯蓄残高の構成比

7――終わりに

7――終わりに

本稿でみてきたことをまとめると、現在、単独高齢女性が増加しており、その平均年収は単独高齢男性よりも約70万円低く、150万円未満の人が3割を超える。この男女差は、専業主婦やパートなどの非正規労働で働いてきた人が多いことなどから、単身になった後の年金受給額が男性より少ないことや、高齢期における女性の就業率が男性よりも低いことなどが要因だと考えられる。また、年金生活をしている無職の単身高齢世帯に限って家計収支をみると、80歳未満の女性は男性よりも赤字幅が大きく、貯金の取り崩しが大きいとみられる。一方、高齢女性の1~2割は貯蓄がない。したがって、無職の単独高齢女性を中心に、今後、困窮状態に陥る高齢女性が増える恐れがある。実際に、近年、生活保護を受給する単身高齢者の割合は増えている。

「人生100年」という言葉と共に、日本が超高齢社会を迎えた事実は広く認識されているが、それによって発生する課題には男女で違いがある。本稿では、単独高齢女性が置かれる状況について大まかに説明してきたが、年収の男女差が大きいことに驚く人もいるだろう。あるいは「女性は専業主婦が多いから、老後の収入が少ないのは当然」と受け止める人もいるかもしれない。ただ、現在の高齢女性が辿ってきたライフコースは、その時代の性別役割意識と大きく関連しており、不本意ながら就労を後回しにし、家事や育児、介護など、家庭における無償労働を優先してきた人もいるだろう。

長寿化と家族構成の変化によって、今後も単独高齢女性は増えていく。それによって困窮する高齢女性が増え、生活保護を受給することになれば、結局、社会保障費が上昇し、市場も縮小する。そのような老後の経済的リスクを抱えている女性たちの生活を安定させるためには、低収入・非貯蓄状態に陥った後で生活保護等によって救済するだけではなく、より手前の中年層までの期間に、出産・育児や介護を理由とする不本意な離職を防ぐ取組や、いったん退職した女性への再就職をしやすくする仕組み、子育てしながら働く人がキャリアアップしやすくする仕組みなど、現役時代の間に経済基盤を厚くしておく対策が必要なのではないだろうか。女性自身もまた、老後の家計に男女差があることを認識し、体調等に問題が無ければ就労を選択肢に入れることも必要ではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年03月31日「基礎研レポート」)

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