2023年03月31日

増加する単独高齢女性とその暮らし~平均年収は男性より約70万円低く、3割が年収150万円未満

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

「人生100年」という言葉が流布し、日本が「超高齢社会」であることは広く認識されているが、寿命には男女差がある。「令和3年簡易生命表」によると、平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳と、女性の方が6歳以上長い。また総務省「人口統計」によると、2023年2月1日時点の国内の人口(概算値)は、国内の65歳以上の高齢者約3,600万人のうち6割が女性である。85歳以上だと約7割、100歳以上だと約9割と、年齢が上がるにつれて女性の割合は大きくなる。高齢化によって国内で起きている現象の一つは「高齢女性の増加」だと言える。さらに、核家族化や未婚化といった社会変化が重なった結果、国内では「単独高齢女性の増加」という現象が起きている。そこで本稿では、単独高齢女性が増えている状況と、その暮らしぶりについて報告したい。

2――単独高齢女性の増加

2――単独高齢女性の増加

「令和2年国勢調査」によると、65歳以上で、世帯人員が一人の単独世帯は、全国で672万世帯(人)となった1 。そのうち女性世帯は約441万世帯、男性は約231万世帯で、女性が3分の2を占める(図表1)。2010年からわずか10年の間に単独高齢女性は約100万世帯、単独高齢男性は約90万世帯増えた。背景には、長寿化や未婚率の上昇などがあると考えられる。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、高齢者の単独世帯は今後も増え続けるが、女性がそのうち6割以上を占める状況は変わらない。単独高齢女性世帯は2030年には約500万世帯、2040年には約540万世帯まで増加すると見込まれている。国内の総世帯数に占める単独高齢女性世帯の割合は、2020年時点の8%から、2030年には9%、2040年には11%となる見込みである。
図表1 男女別の単独高齢世帯数の推移(単位・万)
 
1 国勢調査の「単独世帯」には、会社などの独身寮や間借り・下宿屋などの単身者も含まれるが、寮・寄宿舎の学生・生徒などは含まれていない。

3――年間収入の男女差

3――年間収入の男女差

次に、世帯員が一人のみの単身高齢世帯の年間収入の分布をみていきたい。総務省の「全国家計構造調査」(2019年)から、男女別に、高齢層の5歳階級ごとの年収分布を示した(図表2)2。まず男性の高齢層では、「年収150万円以下」の割合は、「65~69歳」から「85歳以上」まで、いずれの年齢階級でも2割前後である。これに対して女性の高齢層では、「年収150万円以下」の割合は「65~69歳」では約2割、「70~74歳」では約3割、「75~79歳」では約4割に上昇する。「80~84歳」と「85歳以上」では約3割である。いずれの年齢階級でも、女性の方が8~16ポイント大きい。

「65歳以上」でみると、「年収150万円以下」の割合は男性19.1%に対して女性は32.5%と、女性の方が10ポイント以上高い。また「65歳以上」の平均年収は、男性282万円に対して女性209万円と、女性の方が73万円低い。
図表2 男女別の単独高齢世帯の年収分布
 
2 「全国家計構造調査」における「単身世帯」は、世帯員が一人のみで生活している世帯。国勢調査の「単独世帯」とほぼ同じ。

4――年収の男女差の要因

4――年収の男女差の要因

1|年金受給額の男女差
3で、単身高齢世帯の年間収入は、男女差が大きいことを説明した。本項では、その要因として考えられる、年金受給額の男女差と、就業率の男女差についてみていきたい3。まず年金受給の状況について、同じく2019年全国家計構造調査から、単身高齢世帯の「公的年金・恩給給付」の年間受給額を性・年齢階級別に見ると、いずれの年齢階級でも女性の方が男性より低かった(図表3)。その差額は最少で「70~74歳」の16万円、最大で「85歳以上」の54万円に上る。

公的年金・恩給給付の男女差の要因としては、女性の方が専業主婦が多いため、厚生年金保険等の被保険者本人に給付される場合よりも給付額が少ない「遺族年金」の受給者が多いことや、結婚・出産・育児等を機に退職し、その後再就職した場合でも、勤続年数が短いことなどから、厚生年金受給額が少ないことなどが考えられる4
図表3 性・年齢階級別にみた単身高齢世帯の「公的年金・恩給給付」の年間受給額(単位・万円)
 
3 総務省の「全国家計構造調査」(2019年)によると、65歳以上単独世帯の年間収入に占める「公的年金・恩給給付」の割合は、男性は約57%、女性は約69%であり、高齢者にとって年金が最大の収入源である。同じく「勤め先収入」の割合は、男性は約18%、女性は約11%であり、ともに2番目に構成割合が大きい。
4 厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給額の算定ベースとなる標準報酬月額は、男性361,563円に対し、女性は251,727円と、10万円以上の差がある。
2|就業率の男女差
次に、高齢者の就業率を総務省「労働力調査」(2021年)からみると、男性の就業率は「65~69歳」では6割を超え、「70~74歳」でも4割を超える(図表4)。これに対して女性は「65~69歳」では約4割、「70~74歳」では3割弱である。いずれも同じ年齢階級の男性とは20ポイント前後の差がある。このような高齢期における就業率の差が、年間収入の男女差の一因になっていると見られる。

さらに、高齢期だけでなく、ライフコース全体でみた就業状況は、年金収入の金額にも影響する。1|でも述べたように、結婚・出産・育児を機に退職し、その後パートとして再就職したが、会社員である夫の扶養に入っていたというような場合は、夫と死別した後、被保険者本人が受給するよりも給付額が低い遺族厚生年金の受給者となる。また、正社員として再就職した場合でも、就業期間が男性よりも短く、育児との両立のためにキャリアアップが難しく、賃金が抑制された、といったような場合にも、年金受給額が抑制されるためである。

ここで、15歳以降のすべての年齢階級の就業率を概観しておくと、高卒で就職する人を含む「15~19歳」と、短大卒・大卒で就職する人を含む「20~24歳」では、女性の方が男性を上回っている。これには大学院への進学率の男女差などが関係すると考えられる。その後、結婚・出産期に当たる20歳代後半から女性の就業率が低下する。以前に比べると、女性の出産・育児期に就業率が下がって子が成長した後に再就職する傾向を示す「M字カーブ」はほぼ解消したが、現在の高齢女性は、M字の谷が大きかった時代に結婚・出産した世代であり、年金にも大きな影響を受けていると考えられる。
図表4 性・年齢階級別にみた就業率

5――男女別の家計の状況

5――男女別の家計の状況

これまでに、単独高齢世帯の年収には男女で大きな差があり、年金受給状況の違いや就業率の差がその要因となっていることを説明してきた。次に、年金生活者である無職の単身高齢世帯について、家計収支の状況を男女別にみていきたい。

全国家計構造調査から、性・年齢階級別に家計の状況をみると、男性の高齢層では、70歳代までは1か月あたりの可処分所得を消費支出が約8,000~約1万9,000円上回る赤字となっている(図表5)。赤字分は、貯蓄を取り崩して生活していると考えられる。80歳代以上では可処分所得自体が上昇しており、家計収支も1万7,000円~4万2,000円の黒字である。

女性の高齢層では、同様に70歳代までは1か月あたりの可処分所得を消費支出が上回る赤字であり、赤字幅は男性よりも大きい約1万7,000円~約2万4,000円となっている。男性よりも、貯蓄の取り崩しが大きいと言える。また80歳代以上では、男性同様に、可処分所得自体が若干上昇しており約4,000円~約7,000円程度の黒字となっている。

無職の単身高齢世帯では、70歳代までは、貯蓄を取り崩しながら生活している点は男女とも同じだが、1で述べたように、女性の方が平均余命が長いため、保有する貯蓄額によっては、男性よりも困窮状態に陥るリスクが大きいと言える。
図表5 性・年齢階級別にみた無職の単身高齢世帯の可処分所得と消費支出(1か月あたり)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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