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2023年04月05日
新型コロナウイルス感染症の拡大から3年強が経過した。感染拡大当初は、経済社会活動が世界的に停止に追い込まれ、先行きに対する不安が強まるなか、内外の株式市場は短期間で20%程度の下落に見舞われた。しかし、各国で大規模な財政政策や金融緩和政策が矢継ぎ早に打たれたことで安心感が広がると、株式市場は急速に回復。その後も、ワクチン接種の普及や経済社会活動を再開する動きとともに、上値を追う展開となった。
昨年はロシアのウクライナ侵攻や西側諸国のロシアに対する制裁措置の影響により、インフレ高進という新たな課題に直面。急ピッチの金融引き締めによって景気悪化リスクが意識されるなか、株式市場は調整を余儀なくされた。それでも、感染拡大前の2019年12月末からのリスク性資産の騰落率は2月末時点で総じて大幅なプラスを確保している。
図表1は確定拠出年金での積み立てを想定し、定額で積立投資をした場合の平均利回りを計算した結果だ。国内債券の利回りは昨年初来の金利上昇の影響からマイナスとなっているが、毎月末に国内株式に投資した場合の利回りは7.4%で、外国株式に至っては15.2%と高い。緩和マネーや大幅な円安によって上振れしている面があり、足元でも不確実性の高い市場環境が続いていることを踏まえると手放しで喜べる状況ではないが、感染拡大前から今年2月末までの市場動向がDC加入者による資産形成のサポートになったことに間違いはないだろう。
昨年はロシアのウクライナ侵攻や西側諸国のロシアに対する制裁措置の影響により、インフレ高進という新たな課題に直面。急ピッチの金融引き締めによって景気悪化リスクが意識されるなか、株式市場は調整を余儀なくされた。それでも、感染拡大前の2019年12月末からのリスク性資産の騰落率は2月末時点で総じて大幅なプラスを確保している。
図表1は確定拠出年金での積み立てを想定し、定額で積立投資をした場合の平均利回りを計算した結果だ。国内債券の利回りは昨年初来の金利上昇の影響からマイナスとなっているが、毎月末に国内株式に投資した場合の利回りは7.4%で、外国株式に至っては15.2%と高い。緩和マネーや大幅な円安によって上振れしている面があり、足元でも不確実性の高い市場環境が続いていることを踏まえると手放しで喜べる状況ではないが、感染拡大前から今年2月末までの市場動向がDC加入者による資産形成のサポートになったことに間違いはないだろう。
しかし、こうした恩恵を受けられないDC加入者も少なからず存在する。企業年金連合会の「確定拠出年金実態調査結果(2020年度)」によれば、元本確保型商品のみで運用する加入者の割合が40%以上となる企業型DC実施企業は全体の31.3%を占める(図表2)。また、運営管理機関連絡協議会の「確定拠出年金統計資料」によれば、企業型DCで元本確保型商品のみで運用する加入者の割合は年々低下しているものの、2022年3月末時点で29.1%を占める。およそ10人に3人が元本確保型商品のみで運用している計算だ。
50歳代の加入者を中心に、給付金の受け取り開始に向けて運用リスクを抑える目的から元本確保型商品での運用が選択されているケースもあると思われる。ただ、DC制度や投資などに関する様々な調査結果などを参考にする限り、その多くは、過度な安全志向、投資や金融商品に対する知識不足、投資に対する無関心によるものと推測される。
図表1は3年強という短い期間における結果であって、長期の資産形成における平均的な利回りを代替するものではない。しかし、リスクの高い資産ほどより高い利回りを提供するというファイナンスにおける基本的な関係が維持される限り、DC加入期間を通じて元本確保型商品のみで運用する加入者の給付額は、リスクを取って運用する加入者の給付額を大きく下回る可能性は高い。単に安全だと思って元本確保型商品を選択し、給付額が相対的に低水準に留まる受給者の出現を抑えるためにも、DC加入者一人ひとりの運用の改善が求められる。
そのためには、継続投資教育の拡充や指定運用方法の見直しなど、DC制度の枠組みの中での課題解決に向けた取り組みはもとより、それを後押しする社会経済環境の創出が何よりも重要になろう。日本経済が成長性を取り戻し、企業も消費者も将来への過度な不安から解放され、個人が資産形成において適切にリスクテイクが実践されるような環境の創出である。それが「新しい資本主義」が目指すべき世界であり、その実現に向けた今後の取り組みが注目される。
50歳代の加入者を中心に、給付金の受け取り開始に向けて運用リスクを抑える目的から元本確保型商品での運用が選択されているケースもあると思われる。ただ、DC制度や投資などに関する様々な調査結果などを参考にする限り、その多くは、過度な安全志向、投資や金融商品に対する知識不足、投資に対する無関心によるものと推測される。
図表1は3年強という短い期間における結果であって、長期の資産形成における平均的な利回りを代替するものではない。しかし、リスクの高い資産ほどより高い利回りを提供するというファイナンスにおける基本的な関係が維持される限り、DC加入期間を通じて元本確保型商品のみで運用する加入者の給付額は、リスクを取って運用する加入者の給付額を大きく下回る可能性は高い。単に安全だと思って元本確保型商品を選択し、給付額が相対的に低水準に留まる受給者の出現を抑えるためにも、DC加入者一人ひとりの運用の改善が求められる。
そのためには、継続投資教育の拡充や指定運用方法の見直しなど、DC制度の枠組みの中での課題解決に向けた取り組みはもとより、それを後押しする社会経済環境の創出が何よりも重要になろう。日本経済が成長性を取り戻し、企業も消費者も将来への過度な不安から解放され、個人が資産形成において適切にリスクテイクが実践されるような環境の創出である。それが「新しい資本主義」が目指すべき世界であり、その実現に向けた今後の取り組みが注目される。
(2023年04月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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