- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 雇用・人事管理 >
- 「健康経営」における関心テーマの推移~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ
「健康経営」における関心テーマの推移~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
続いて、それぞれの単語と記事の時期(年)との関係の強さを図表7に示す。
出現時期別に特徴的な単語とその結びつきをみていくと、大きく2012~2013年、2015~2016年、2017~2019年、2020~2022年と、話題は、時期によって4つのグループに分かれているようだった。まず、2012~2013年には「政投銀(政策投資銀行)」が使われており、日本政策投資銀行の、健康経営に取り組む企業に対する有利な貸付(DBJ健康経営格付け)が話題になっていたと思われる。
2015~2016年には「健康経営銘柄」がよく使われていた。2015年は健康経営銘柄の公表が始まった年である。また、この時期には「保険者」「健康診断」「医療費」が使われており、2015年に、医療費適正化に向けて健康保険組合等の保険者に対して健康診断やレセプトを分析し、改善するための計画を立てることが推奨された「データヘルス計画」が話題にあがっていた可能性がある。
2017~2019年には、全体でも出現回数が多い「健康経営」「健康」「会社」「取り組む」が多く使われていた。2017年は健康経営優良法人の認定が始まった年で、この3年間は記事数も比較的多い。2017年には、「中小規模」が話題になっており、大規模法人から取り組みが進んできた健康経営が中小規模にも広がりをみせてきたことが推測できる。実際、2022年9月に実施した「ニッセイ景況アンケート」によると、従業員数が50名以下の企業でもおよそ7割が健康経営に関心を示している8。2017年と2019年には、「働き方改革」「時間」が多く使われており、2017年の「働き方改革」実行計画と、2019年の「働き方改革」関連法の施行が、長時間労働の是正や健康経営とともに話題になっていたと考えられる。
2020~2022年には「コロナ」が、2020~2021年には「在宅」が多く使われており、コロナ禍における従業員の健康に関心が高まっていた様子が記事数からもわかる。2020年には、「ウェルビーイング」といった、近年注目される概念も登場している。ウェルビーング(ウェルビーング経営)とは、目指すべき「健康」をWHOの憲章の定義に立ち返り、「肉体的に、精神的に、社会的に、すべてが満たされた状態」と捉えた経営を目指すもので、従業員の健康だけでなく、従業員を取り囲む環境を踏まえてより良好な状態で働けることを目指そうとするものである。
また、同じく2020年には「人的」もあげられた。人的資本とは、従業員、または従業員が持つ知識やスキルを「付加価値を生み出す資本」と捉える考え方で、経済産業省では2020年9月から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を、2022年には「人的資本経営コンソーシアム」を立ち上げている9。財務情報だけではわからない企業の価値を測る材料として、2023年3月から、主として投資家への情報開示を目的として、有価証券を発行している企業に対して「従業員の状況」に「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表することになった。今後は、開示を義務付けられる企業、および開示項目が拡大されると考えられる。
8 金 明中・斉藤 誠・村松 容子「ニッセイ景況アンケート調査結果-全国調査結果 2022年度調査(2022年9月)」ニッセイ基礎研究所(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/73021_ext_18_0.pdf?site=nli)
9 金明中「人的資本経営と健康経営」ニッセイ基礎研究所 研究員の眼(2023年3月22日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74290_ext_18_0.pdf?site=nli等に詳しい。
4――まとめ
時期別の傾向をみると、2015~2016年頃は健康診断や医療費、保険者の取り組みなど、身体的健康に関係する記事が多くあっていたが、2017~2019年は、健康経営優良法人の認定の開始等にともない、記事数は多く、話題も身体的健康以外に、働き方や生産性の話題に広がっていた。2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、「コロナ」「在宅」といった言葉も見られたが、「ウェルビーイング」といった従業員の「健康」をより幅広く捉える傾向や「人的資本」といった持続的な企業価値の向上に着目した語も見られた。
今後も、人材を資本と捉え、従業員の健康の維持・向上をはじめとしてその価値を最大化しようとする動きは継続するものと思われる。こういった動きが従業員やその家族に広まり、安心した状態で、個人の力を発揮できる社会につながることを期待したい。
(2023年03月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/06 | 生命保険の基礎知識はなぜ定着しないのか | 村松 容子 | 基礎研マンスリー |
2025/04/22 | 生命保険の基礎知識はなぜ定着しないのか | 村松 容子 | 保険・年金フォーカス |
2025/03/28 | 就労世代の熱中症リスクと生活習慣~レセプトデータと健診データを使った分析 | 村松 容子 | 基礎研レポート |
2025/03/27 | 「早食いは太る」は本当か~食べる速さは、肥満リスクをどの程度予測できるか | 村松 容子 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年06月17日
今週のレポート・コラムまとめ【6/10-6/16発行分】 -
2025年06月16日
株式併合による非公開化-JAL等によるAGPのスクイーズアウト -
2025年06月16日
なぜ博士課程への進学者が減少しているのか-注目したい民間就職の動向- -
2025年06月16日
マスク着用のメンタルヘルスへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと -
2025年06月13日
DeepSeekに見るAIの未来-近年のAI進化の背景とは
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
【「健康経営」における関心テーマの推移~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「健康経営」における関心テーマの推移~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチのレポート Topへ