2023年03月28日

「健康経営」における関心テーマの推移~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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(3) 単語と出現時期(年)の結びつき
続いて、それぞれの単語と記事の時期(年)との関係の強さを図表7に示す。

出現時期別に特徴的な単語とその結びつきをみていくと、大きく2012~2013年、2015~2016年、2017~2019年、2020~2022年と、話題は、時期によって4つのグループに分かれているようだった。まず、2012~2013年には「政投銀(政策投資銀行)」が使われており、日本政策投資銀行の、健康経営に取り組む企業に対する有利な貸付(DBJ健康経営格付け)が話題になっていたと思われる。

2015~2016年には「健康経営銘柄」がよく使われていた。2015年は健康経営銘柄の公表が始まった年である。また、この時期には「保険者」「健康診断」「医療費」が使われており、2015年に、医療費適正化に向けて健康保険組合等の保険者に対して健康診断やレセプトを分析し、改善するための計画を立てることが推奨された「データヘルス計画」が話題にあがっていた可能性がある。

2017~2019年には、全体でも出現回数が多い「健康経営」「健康」「会社」「取り組む」が多く使われていた。2017年は健康経営優良法人の認定が始まった年で、この3年間は記事数も比較的多い。2017年には、「中小規模」が話題になっており、大規模法人から取り組みが進んできた健康経営が中小規模にも広がりをみせてきたことが推測できる。実際、2022年9月に実施した「ニッセイ景況アンケート」によると、従業員数が50名以下の企業でもおよそ7割が健康経営に関心を示している8。2017年と2019年には、「働き方改革」「時間」が多く使われており、2017年の「働き方改革」実行計画と、2019年の「働き方改革」関連法の施行が、長時間労働の是正や健康経営とともに話題になっていたと考えられる。

2020~2022年には「コロナ」が、2020~2021年には「在宅」が多く使われており、コロナ禍における従業員の健康に関心が高まっていた様子が記事数からもわかる。2020年には、「ウェルビーイング」といった、近年注目される概念も登場している。ウェルビーング(ウェルビーング経営)とは、目指すべき「健康」をWHOの憲章の定義に立ち返り、「肉体的に、精神的に、社会的に、すべてが満たされた状態」と捉えた経営を目指すもので、従業員の健康だけでなく、従業員を取り囲む環境を踏まえてより良好な状態で働けることを目指そうとするものである。

また、同じく2020年には「人的」もあげられた。人的資本とは、従業員、または従業員が持つ知識やスキルを「付加価値を生み出す資本」と捉える考え方で、経済産業省では2020年9月から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を、2022年には「人的資本経営コンソーシアム」を立ち上げている9。財務情報だけではわからない企業の価値を測る材料として、2023年3月から、主として投資家への情報開示を目的として、有価証券を発行している企業に対して「従業員の状況」に「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表することになった。今後は、開示を義務付けられる企業、および開示項目が拡大されると考えられる。
図表7 単語と時期(年)の関係(共起ネットワーク)
 
8 金 明中・斉藤 誠・村松 容子「ニッセイ景況アンケート調査結果-全国調査結果 2022年度調査(2022年9月)」ニッセイ基礎研究所(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/73021_ext_18_0.pdf?site=nli
9 金明中「人的資本経営と健康経営」ニッセイ基礎研究所 研究員の眼(2023年3月22日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74290_ext_18_0.pdf?site=nli等に詳しい。

4――まとめ

4――まとめ

以上より、「健康経営」に関する全国紙の記事には、2013年頃から各紙が取り上げ始め、2015年の「健康経営銘柄」の選定、2017年の「健康経営優良法人」の認定を契機に件数が増えた。しかし2018年以降は、記事数は減少している。一方、Googleにおける検索数は2018年以降も増加傾向にあることから、関心が薄まっているというよりは、健康経営の考え方が浸透してきていると考えられるのではないだろうか。

時期別の傾向をみると、2015~2016年頃は健康診断や医療費、保険者の取り組みなど、身体的健康に関係する記事が多くあっていたが、2017~2019年は、健康経営優良法人の認定の開始等にともない、記事数は多く、話題も身体的健康以外に、働き方や生産性の話題に広がっていた。2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、「コロナ」「在宅」といった言葉も見られたが、「ウェルビーイング」といった従業員の「健康」をより幅広く捉える傾向や「人的資本」といった持続的な企業価値の向上に着目した語も見られた。

今後も、人材を資本と捉え、従業員の健康の維持・向上をはじめとしてその価値を最大化しようとする動きは継続するものと思われる。こういった動きが従業員やその家族に広まり、安心した状態で、個人の力を発揮できる社会につながることを期待したい。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2023年03月28日「基礎研レポート」)

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