2023年03月28日

「健康経営」における関心テーマの推移~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

3月上旬に、健康経営優良法人2023認定法人が公表された。今回の認定数は、大規模部門、中小規模部門いずれも過去最多となり、認定をとる動きは広がっている。「健康経営1」は、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することによって、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につなげることとされる。国の健康経営優良法人の認定制度は、こういった考え方の企業を社会的に評価する環境を作るために設けられ、認定のための要件は、企業の取り組み実施の進捗や世の中のニーズにあわせて、少しずつ更新されている。

従業員の良好な健康状態を業績向上に結びつけたり健康状態の悪化による業績低下を避けるのは企業の役割だとしても、従業員の健康の維持や向上は企業の行動だけでは実現できない。従業員やその家族の理解と協力が必要である。また、国が健康経営を主導することによって、こういった考え方の企業を社会で評価をしていこうとする動きがある。

本稿では、従業員や家族の理解の広がりや関心テーマを測る1つの手がかりとして、全国紙1における「健康経営」に関する記事を、計量テキスト分析(テキストマイニング)の手法で分析した2
 
1 「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標。
2 後述する5紙。従業員や家族が接するメディアには全国紙以外にも多様な物が存在するが、データの継続的な入手しやすさや地方紙には重複する記事(通信社の配信記事)が存在することを考慮して、全国紙を分析対象とした。
3 中嶋邦夫・村松容子「「健康経営」はどう広められてきたか~全国紙に対する計量テキスト分析によるアプローチ」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2020年3月31日)も参照のこと。

2――分析方法

2――分析方法

計量テキスト分析は、文章を単語(形態素)に分解し、各単語の出現回数を分析単位(本稿の場合は記事)ごとに集計し、その集計表(数値データ)を統計手法で分析する、という手法である。文字情報(新聞記事)の分析結果を数量として把握できる、客観的な判断であり第三者が結果を再現できる、というメリットがある。

本稿の分析対象紙は、朝日新聞(以下、朝日)、産経新聞(同、産経)、日本経済新聞(同、日経)、毎日新聞(同、毎日)、読売新聞(同、読売)の朝夕刊である。対象記事は日経テレコンで検索した「健康経営」を含む記事であり、対象期間は2022年12月31日までとした(図表1)。

分析ツールには、「KH Coder 34」を使い、単語の抽出に用い形態素解析エンジンと辞書には「MeCab」を使用した。単語抽出に際しては、「健康経営銘柄」等の複合語を「健康」「経営」「銘柄」等に分解しないよう複合語を指定した。
図表1 分析対象
 
4 樋口耕一(2014)「社会調査のための計量テキスト分析」、ナカニシ出版

3――分析結果

3――分析結果

1|該当記事数の推移
(1) 5紙合計の推移
本稿で分析対象とした「健康経営」を含む新聞記事数(5紙合計)の推移を見たのが、図表2である。最も古いものは1994年の1件5で、その後は、2005年に1件、2010年に2件、2012年に3件、であった。2013年には9件あり、この年以降は各紙で年1件以上が掲載されていた。

大きく増加したのは、2015年と2017年である。2015年は東証と経産省による「健康経営銘柄」が、2017年は日本健康会議による「健康経営優良法人」が始まった時期とそれぞれ重なっており、新たな動きとして取り上げられたと考えられる。2018年以降は件数が減少していることからも、目新しさがないと新聞には取り上げられにくいことが想像される。一方、Google trendsによれば、「健康経営」の検索数は2018年以降も増加傾向にあることから、健康経営への関心が薄まっているのではなく、考え方が浸透してきたと考えられるのかもしれない(図表3)。
図表2 分析対象とした「健康経営」を含む新聞記事数の推移(5紙合計)/図表3 Google trends 「健康経営」の検索数
 
5 最初の記事は1994年の読売新聞によるもので、読売新聞が主催した企業内の医療制度の充実を考える「21世紀への医療―はたらく人々の健康」シンポジウムの中での発言だった(読売新聞1994年12月22日)。
(2) 新聞別の推移
新聞別に見ると、分析期間中の記事数は、日経が277件で、全記事数の半数近くを占めていた(図表4)。次いで読売が93件、朝日が91件、産経が56件、毎日が35件だった。日経は、特に2015年以降で他紙よりも記事数が多い。東証と経産省による「健康経営銘柄」が始まったことが、影響しているとみられる6。日経が多く扱っていることについて、「健康経営は一般の人よりも、企業経営や金融・マーケットなどを中心とした「プロ好みの施策」と言えるのかもしれない」といった指摘もある7
図表4 分析対象とした「健康経営」を含む新聞記事数の推移(掲載紙別)
 
6 2020年の日経には、「やさしい経済学」における健康経営をテーマとする計8回の連載を含む。
7 三原岳「社会保障から見たESG の論点と企業の役割(5)」ニッセイ基礎研究所 研究員の眼(2022年11月14日)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/72950_ext_18_0.pdf?site=nli
2|頻出語の傾向
(1) 各単語の出現回数
分析対象とした記事で、各単語の出現回数をみた。図表5に頻出語の上位50語を示す。

最も多く使われた単語は「健康」で2,313回だった。その他、上位50語に含まれた健康に関連する単語には、「産業医」(227回)、「医療費」(189回)だった。「コロナ」という単語が最初に健康経営と同時に記事に登場したのは2020年3月で、分析対象期間中に215回使われていた。当初は、社内でどのように感染を抑止するかや、勤務管理の話題が多かったが、コロナ禍が長引くにつれ、出勤数や対面による会議の減少にともなうコミュニケーション不足、在宅勤務と外出自粛にともなう生活の乱れや運動不足解消の話題、ワクチンによる副反応への対応の話題が増え、最近では、コロナ禍をきっかけとする健康の重要性を再確認するものや、リモートワークを踏まえ働く場所や転勤のあり方について等、話題は徐々に推移していた。

「健康」に次いで2番目に多く使われた単語は「企業」(1623回)で、その他、会社や働き方に関連する単語としては、「社員」(1033回)や「従業員」(786回)、「仕事」(390回)、「生産性」(315回)、「労働」(245回)、が見られた。

また、「取り組み」「取り組む」「支援」「導入」「サービス」などの単語も多く登場しており、健康増進や働き方の見直しに関する取組み等が話題なっていたと考えられた。
図表5 頻出単語(上位50語)
(2) 結びつきが強い単語
それぞれの単語がどの単語と結びつきが強いか、すなわち、記事内でどの単語と同時に出現(共起)していたかを図表6に示す。図表6の円の大きさは各単語の出現回数を示し、同一記事内で使われる回数が多い単語同士ほど、太い線で結ばれている。

その結果、健康経営に関する記事の話題が、いくつかに分類できる可能性が観察された。例えば、「健康経営」「健康」「会社」「取り組む」「取り組み」「生産性」「管理」「実施」「支援」などが同時に使われる傾向があり、それらの記事では健康経営に関する取り組みが健康や生産性を意識して実施されていることが話題になっていた可能性が高い。また、「時間」「仕事」「働く」などが同時に使われる傾向があり、働く時間などが話題になった可能性が考えられる。その際、「男」「女」がそれぞれ同時に使われていることから、働き方については性別に語られることが多い可能性がある。その他、「医療費」「保険者」では、健保における医療費適正化の取り組みが、「健康診断」「生活習慣」では、健康診断による生活習慣のみなおし、「サービス」「提供」では、健康増進等のサービスについて話題になっていた可能性が考えられる。
図表6 単語どうしの関係(共起ネットワーク)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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