2023年03月29日

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インセンティブは若者と高齢者では違う。高齢者は他人から感謝されるだけでもインセンティブになる。

山田氏: 私はそこがすごく重要だと思っていて、「インセンティブ」といっても、高齢者と若者ではイメージが違うんですよね。若い方はすぐに「〇〇のポイントがつかないと」とか、何かにつけて、すぐにポイント、ポイントと言うのですが、高齢者の場合はそうではなく、誰かに「ありがとう」と言ってもらえるだけでインセンティブになる。ハーブ摘みの場合も、お風呂代をくれるから行ってるのではなく、やっぱり楽しいから行ってるんだと思います。ハーブを摘むのも楽しいし、誰かとお風呂に入るのも楽しいのかなと、お風呂代がついてくるから行くという感覚ではないのかなと、聴いていて思いました。すごくいい取組だと思いますが、お風呂屋さんの方にはメリットはあるんでしょうか。

加藤氏: お風呂屋さんは、あわよくば、来たついでにソフトクリームも買ってくれたらいいな、というイメージです。お風呂は何人入ってもあまり原価が変わらないので。

山田氏: このビジネスモデルは、大儲けはできないかもしれないけど、高齢者の健康増進というイメージでは、いろいろなところに反映できそうですね。非常に興味深いです。

加藤氏: このような取組を増やすことで、高齢者の介護予防が進み、医療費や介護費が下がるところまで証明できれば、チョイソコ利用料をただにしても良いかという気持ちもありますが、現段階では、地域の交通手段として成り立たせるために、利用料を頂いています。

坊: チョイソコの外出促進の取組は、とてもバリエーションがあってどれも面白い。加藤さんがおっしゃったように、前年度の利用実績を属性別に分析して、男性の参加率が低いことから、次の年には、男性向けの取組を増やすなど、ターゲットを絞って仕掛けをするという取り組み方も、効果を発揮しているのだと思いました。また、今のハーブ摘みのお話では、インセンティブをつけてお出掛けを促すと。このような取組を交通事業者が行っている例は、非常に稀ではないでしょうか。

チョイソコの特徴は、先ほども述べたように、単に乗り物を用意したからお出掛けしましょう、と言うのではなく、「こんな楽しいことがありますよ」、「外出するとこういうインセンティブがついてきますよ」という動機付けをしているところだと思います。簡単に言うと、高齢者を変にお年寄り扱いするのではなく、生産活動や消費活動の主体として考えている。昨年の座談会でも、加藤さんは高齢者のことを「GDPの担い手」とおっしゃっていましたが、そういう概念があるから、このようなユニークな企画を次々作れるのかなあと思いました。

加藤氏: おっしゃる通り。高齢になると、自分が誰かの世話になったり、受け身になったりすることが多い中で、自分で何かを生産できる、自分が何かを生み出せるという機会がとても良いのだと思います。企画者側もその点を認識していて、ハーブ摘みの時も「上手ですね」と周りの人も褒めるので、やりがい、生きがいを感じてもらい、精神機能のところに効果が出てくる。そして、褒めてもらえる、喜んでもらえるからまた行こう、という気持ちになるのだと思います。

広がる情報格差

広がる情報格差。情報発信する側はあらゆる手段を使うことが必要。

坊美生子准主任研究員 坊: 次に、今後の課題についてです。山田先生、例えば、既に不活発が定着してしまった方への呼びかけをどうしたら良いと思われますか。先生の研究では、独居で近所づきあいがない方が特に活動が低下しているということですが、そのような方にはどう情報提供したり、アクセスしたりする方法があるのでしょうか。また、高齢者の社会活動と言っても、身体機能のレベルによって仕事ができる人もいれば、自宅近くの散歩ぐらいしいか難しいなど、幅があるかと思います。でも、既にフレイルや要介護になった人でも、外出しないと状態が悪化して死亡率も上がると思うので、どんなレベルの人も活動した方がいいと思うのですが、どういう活動の仕方があるのか教えてください。
山田氏: まず一点目の情報の届け方に関しては、ありとあらゆる手段を使うしかないと思っています。例えばご自身で様々な情報をみつけてこれる人もいれば、広報誌への折り込み広告じゃないとみつけられない人、回覧板じゃないと、口コミじゃないと、という人もいる。若い人も一緒です。情報を取るのがうまい人とそうではない人に分かれて、情報格差は広がっている。だから情報を発信する側には、ありとあらゆる手段を使いましょうと言ってます。意外と高齢者に関しては、地域の掲示板は、よく足を止めて見ておられる姿を見かけるので、重要だと思っています。

二つ目のご質問の、活動の種類については、私は身体機能に応じてと言うよりは、その方のライフスタイルに合うものが大事だと思っています。例えばデパートにしても、お客さんはお元気な方しかいないだろうと思ったら、意外とシルバーカートを押した人もいる。本人に「行きたい」という思いがあれば、何らかの手段を使って行くんです。逆に、お元気でも、デパートへ行かない人は行かない。

「社会参加」といっても、内容は仕事でも良いし、地域とのお付き合いもすごく大事だし、カルチャー教室でも良い。あるいは、喫茶店、居酒屋、定食屋とか、行きつけの店を持つのもいい方法だと思います。店員や他のお客さんと顔見知りになるから。重要なのは誰かと会うこと。自ら話すことが苦手な人もいるけど、そうなったら人の話を聞いてるだけでもいい。誰とも接点がないのがいちばん問題なので、何らか、自分ができる所から始めたら良いのではないでしょうか。

車椅子等の高齢者にも外出を楽しんでもらう

車椅子等の高齢者にも外出を楽しんでもらうため、チョイソコで使用する車両を検討する。

坊: 加藤さんにも、今後の課題についてお聞きしたいと思います。先ほどのご発表で、介護施設の利用者さんを車椅子で送迎したという取組は大変興味深いです。日本では、これからまだ後期高齢者が増加し、より自立度が低い高齢者が増えていきます。車椅子の方やシルバーカートを押した方、認知症の方など、介助を必要とする人が増えていく中で、そういう人たちにどうやってチョイソコが貢献できると思われますか。

現状では、日本では、介助を必要とする人への移動サービスはほとんどない。一部の介護タクシーなどに限られていますが、実際には供給量がほとんどない。チョイソコの現在の利用条件は、基本的に「一人で乗降できる人」となっていると思いますが、高齢者を対象としている以上、そこに対応できるようになっていく候補ではないかと期待しています。今回チョイソコが介護施設へ行って、チョイソコが空いている時間帯に限定して、施設のスタッフにも介助のお手伝いに来ていただいて、車いすの高齢者の外出を実現するという取組には、非常に可能性を感じました。最初の話の通り、特にコロナ禍でフレイルの人も増えている訳ですが、今後、そのような自立度が低下した人の外出に、どう貢献していくお考えがあるか、教えてください。

加藤氏: 今、全国で走っている何百台のチョイソコ車両の中で、車椅子対応できるものはほとんどありません。これからの課題として、一つは車両の検討、より多くの人が乗れるための車両の装備をしていく。今回実験を行って分かったのは、車椅子も形状がいろいろあるんです。フレームの太さとかが違っていて、我々が予め用意していた車両では車椅子をロックできなくて、当日になって車両を変えてもらったということもありました。もっと言うと、ストレッチャーの人もいるから、そういう人も外に出られるように、車両側の検討を我々の業界としてしないといけないと思っています。

でも、それにはアイシンだけでは無理で、今回は、チョイソコで協業している損保ジャパンさんの傘下の介護施設に行ったので、介護スタッフの方も付いてきてくれましたが、そういう介護施設は案外少ないのではないかと思います。介護施設の中でも、外出サービスをしたいというところとタイアップできれば、社会貢献というお題目はともかく、ビジネスと考えたときに、介護施設にとっても、競合との差別化につながるのではないかと思っています。さらに、先ほどお話したように、外出した先での異業種連携も重要だと思います。今日は花王さんとアシックス商事さんの話をしましたが、コストとパフォーマンスのバランスを考えて、外出先でのイベント作りを進めていきたいと思います。

高齢者の足をどう確保するか

高齢者の足をどう確保するかという課題と、身体活動、社会活動の課題はセット。

山田氏: 今日は、高齢者の移動手段について、知らないことを教えて頂きました。加藤さんが、「継続が大切だ」と最初におっしゃっていましたが、私もフレイル対策、介護予防は、何より継続が大事だとお伝えしています。続けられないことは提案しない方がいいし、続けられるところからやった方がいいというのが信念なので、続けられる活動をされてるところに感銘を受けました。高齢者の足と身体活動、社会活動の問題は、セットで考えないといけないと改めて思いました。

加藤氏: 高齢者の動機付けの部分で、高齢者がこういうことをしたら動く、理解してくれる、動かなかった人たちが動くようになった、というあたりをこれからも共有させて頂き、チョイソコでもそれを進めて、より多くの人にサービスが届けられるといいなと思ってます。

坊: 今日はたくさんの示唆を得られました。最初に山田先生がおっしゃった、活動を回復させるためには、もともとたくさんの活動を持っておこうという「重層性」も鍵だと思いますし、山田先生も集いのひろばで毎週メール配信を続けておられるし、チョイソコも信念とされている「継続性」という点も、非常にポイントだと思いました。

これからゴールデンウイークが明けて、コロナの感染症分類がインフルエンザと同じ5類に引き下がっても、高齢者の外出は、増える人もいるかもしれないし、減る人もいるかもしれない。まだまだ閉じこもりやフレイルのリスクがある中で、どうにか外出を増やし、活動を増やし、介護予防していかないといけない。それには、あらゆるプレーヤーが、それぞれできることをしないといけないのではないかと思います。研究する人、情報を届ける人、移動サービスを提供する人、高齢者向けの企画をする人と、地域でいろんなステークホルダーがちょっとずつ関わっていくことで全体として社会活動が増えていく。そしてそれが高齢者の消費拡大、GDP拡大までいけるといいなと思いました。
 
(終わり)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2023年03月29日「ジェロントロジーレポート」)

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【コロナ禍が高齢者の生活に与えた影響と回復に向けた取組(下)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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