2023年03月27日

生活者のメディア接触の状況-メディア接触に乏しい生活者との接点構築が新たな課題になる可能性-

生活研究部 井上 智紀

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1――はじめに

コロナ禍の外出を控える生活から脱し、徐々に「平時の生活」に戻りつつある。この間、弊社の「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査(以下、新型コロナ調査)」では生活行動の一貫としてメディアとの接触状況の変化についても定点観測を続けており、外出を控え家の中にこもりがちな生活を送る中、ネット系メディアを中心に利用が増えた状況が続いていることを示してきた1

実際のところ、人々はテレビに代表されるマスメディアやネット系メディアにどれくらいの時間、接触しているのだろうか。また、それぞれのメディアに接触している人々の属性にはどのような差異があるのだろうか。本稿では、昨年12月に実施した「新型コロナ調査2」の結果から、それぞれのメディアへの接触時間について尋ねた結果を示す。
 
1 これまでの結果の詳細は、特設サイトを確認されたい。
2 調査概要は以下の通り(調査対象:20~74歳の男女個人。調査時期:2022年12月21日~26日。有効回収サンプル数:2,582サンプル)。

2――メディアへの接触時間

2――メディアへの接触時間

はじめに、それぞれのメディアへの平日1日あたりの接触時間についてみると、テレビは「1~3時間未満」が32.9%で最も多く、「3~5時間未満」(20.6%)、「1時間未満」(18.4%)の順となっている(図表 1)。同様にラジオは「ほとんどない」が16.2%、新聞・雑誌(電子書籍含む)は「1時間未満」が37.3%で、それぞれ最も多くなっている。ただし所有していないなどの理由から「ない・該当しない」と回答した割合はラジオが43.3%、新聞・雑誌(電子書籍含む)が31.0%とそれぞれ3割を超えているほか、テレビも6.1%と5%を超えている。これに「ほとんどない」「毎日ではないがたまに」を加えた日常的な接触習慣がない割合としてみると、ラジオが72.1%、新聞・雑誌(電子書籍含む)が57.2%となっているほか、テレビでも14.5%に及んでいる。

一方、ネット系のメディアでは、映画やドラマなどの動画配信サービスで「毎日ではないがたまに」が20.2%で最も多く、「1時間未満」(17.1%)、「1~3時間未満」(14.7%)の順で続いている。同様にネットサーフィン、SNSの閲覧や投稿はいずれも「1時間未満」が37.3%、42.9%で最も多くなっている。日常的な接触習慣がない割合では、ネットサーフィンは27.3%、SNSの閲覧や投稿は41.6%と、いずれもラジオや新聞・雑誌(電子書籍含む)を下回っている。
図表1 メディアへの接触時間

3――テレビと動画配信サービス、SNSの接触状況

3――テレビと動画配信サービス、SNSの接触状況

1|テレビと動画配信サービス、SNSの接触状況
コロナ禍にも堅調に利用されてきたメディアの代表としてテレビと動画配信サービス、SNSに着目し、それぞれの利用状況について属性別にみると、いずれも性別では大きな差異はみられない(図表 2)。年代別ではテレビが高齢層ほど、SNSが若年層ほど、それぞれ「1時間以上」が高くなっており、テレビの60代以上では「1時間以上」が8割を超えて高くなっている。一方、SNSでは若年層でも「1時間未満」が4割を占めて最も多く、必ずしも長時間接しているわけではないようである。また、動画配信サービスでは20代で「1時間以上」が、50代で「たまに・ほとんどない」が、70代で「ない・該当しない」が、それぞれ高くなっている。これらのメディアに対し「たまに・ほとんどない」または「ない・該当しない」と回答している日常的には接点を持たない層に着目すると、テレビは20~30代で2割台と40代以上に比べ高い。動画配信サービスやSNSでは逆に20~30代では40代以上に比べ低くなっているものの、「たまに・ほとんどない」または「ない・該当しない」と回答した割合は20~30代でもSNSでは2~3割、動画配信サービスでは5~6割とテレビより多くなっている。職業別にみると、いずれも公務員で「1時間未満」が高くなっているほか、テレビは専業主婦(夫)・無職で「5時間以上」が、嘱託・派遣・契約で「1~3時間未満」が高い。
図表2 テレビと動画配信サービス、SNSの接触時間
2|テレビと動画配信サービス、SNS利用の重複状況
テレビとネット系メディアの利用の重複状況を確認するためにそれぞれの利用時間の組合せについてみると、テレビと動画配信サービスでは、テレビが1時間以上で動画配信サービスは1時間未満という、いわば旧来型のメディア接触をしている層が52.4%と約半数を占め、いずれも1時間以上が14.6%で続く(図表 3)。一方、まったく利用していない方も含めていずれも日常的には利用していない層が10.3%となっており、いずれも1時間未満を含めると広告等での接触困難層は27.4%に達することになる。

テレビとSNSについてみても同様に、テレビが1時間以上、SNSが1時間未満の層が55.6%と半数超を占め、いずれも1時間以上(11.5%)は1割に過ぎない。一方、接触困難層は29.0%と3割近くに達している。
図表3 テレビと動画配信サービス、SNS利用の重複状況

4――メディア接触の乏しい生活者との接点構築が課題となる可能性

4――メディア接触の乏しい生活者との接点構築が課題となる可能性

このように、以前から喧伝されていたほど、若者がこぞってテレビから離れていたわけではないものの、視聴時間の点でみれば40~50代と並んで短く、むしろ高齢層の突出ぶりが際立っていることが明らかにされた。また、コロナ禍に注目されてきた動画配信サービスも利用は拡大しているものの、テレビほど長時間利用されているものではなく、旧来のメディアに比肩するレベルに達するには、まだ相応の時間も必要であるように見受けられる。ながら視聴やタイムシフト視聴など、接触のあり方による変化はありつつも、広告宣伝を通じた生活者との接点としてのテレビの役割は、未だ世代を問わず大きい。また、SNSを含むネット系メディアへの生活者の接触状況が、主として生活者自身の趣味嗜好などに左右されることを踏まえれば、こうしたメディアを通じた接点の確保は、生活者理解の程度により巧拙が分かれよう。

一方で、こうしたネット系メディアにもテレビにもほとんど接触することがない接触困難層が無視できないボリュームで存在していることも示されたことは、こうした生活者に対して、どのように接点を構築していくかが大きな課題となりつつあることを意味しているとはいえないだろうか3
 
3 本稿では、調査票上の制約から平日1日あたりの接触に限られており、休日の状況まで確認できていないことから、実際には接触困難層はより少ない可能性はあり、今後の動向も含めてより精査していくことも肝要であろう。
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