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求められる将来世代の経済基盤の安定化-非正規雇用が生む経済格差と家族形成格差
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
1――はじめに~新卒は売り手市場で賃上げ機運も高まる中で将来を担う世代の現状は?
これまでにも将来を担う世代の経済環境の厳しさや、経済面の影響が家族形成に及ぼす影響について報告しているが1、本稿では、あらためて統計の最新値等を用いて、その状況を捉えていく。
1 久我尚子「求められる20~40代の経済基盤の安定化-経済格差と家族形成格差の固定化を防ぎ、消費活性化を促す」、ニッセイ基礎研レポート(2017/5/17)、「求められる氷河期世代の救済-経済格差は家族形成格差、高齢期の貧困・孤立問題を生む」、ニッセイ基礎研レポート(2019/7/2)など。
2――世代間と世代内の経済格差~非正規増加、正規・非正規の賃金格差、正規の賃金カーブ平坦化
総務省「労働力調査」によると、雇用者に占める非正規雇用者の割合は1990年代半ばから上昇している(図表1)。背景には、バブル崩壊後に長らく続いた景気低迷に加えて、1990年代後半には「労働者派遣法」の改正で派遣労働者の適用対象業務が拡大され、原則自由化されたことで、雇用調整のしやすい非正規雇用を取り入れる企業等が増えたことがある。
とはいえ、1990年と2022年を比べると、つまり、親世代と現在の若者が新卒で就職した時期と比べると、非正規雇用の割合は25~34歳では男性は3.2%から14.3%(+11.1%pt)へ、女性は28.2%から31.4%(+3.2%pt)へと上昇している。つまり、ひと昔前は結婚や子どもを持つことなど家族形成を考える時期にある男性はおおむね正規雇用で働いていたが、現在では7人に1人は非正規雇用という不安定な立場で働いていることになる。これは日本の少子化の進行を考える上で大きな課題だ。
雇用形態の違いは当然ながら、生涯賃金にも多大な差をおよぼす。本項では男性と比べて働き方が多様な女性の生涯賃金について、働き方の違いに注目しながら捉えていきたい。
2013年に成長戦略として「女性の活躍」が推進されて以降、仕事と家庭の両立環境の整備が進み、30代を中心とした出産や育児期の女性の就業率が上昇し、いわゆる「M字カーブ」は解消に近づいている(図表4)。
一方で現在は「L字カーブ」が課題となっている。L字とは、横軸に女性の年齢、縦軸に正規雇用者の割合をとって、その関係を見ると、20代後半にピークを示した後は低下し、グラフの形状がL字(が時計回りに少し回転したよう)になっているというものだ(図表5)。前述の通り、正規雇用と非正規雇用では賃金水準に差があるため、正規雇用の仕事を継続した女性と、出産や子育てなどを機に一旦離職し、パートタイムなどの非正規雇用の仕事で復職した女性とでは生涯賃金に大きな差が生じる。
これらの金額差は、女性本人の収入として見ても、世帯収入として見ても、多大であることは言うまでもなく、配偶者の収入や資産の相続状況にもよるが、特に住居や自家用車の購入、子どもの教育費等の高額支出を要する消費行動に影響を与える。
また、女性を雇用する企業等から見れば、出産後も就業を継続していれば生涯賃金2億円を稼ぐような人材を確保できていたにも関わらず、両立環境の不整備等から人材を手離す結果となり、新たな採用・育成コストが発生しているとも捉えられる。女性の出産や育児を理由にした離職は、職場環境だけが問題ではないが、両立環境の充実を図ることは、企業にとってもコストを抑える効果はある。
2 詳細は久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計~正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超」、ニッセイ基礎研レポート(2023/2/28)参照。
30~40代は結婚や子育ての家族形成期であり、住居や教育費等の出費がかさむ時期だ。この時期に収入が伸びにくくなると、消費抑制だけでなく家族形成にも影響を与えかねない。一方、2023年の春闘では賃上げの機運が高まっており、今後の賃金動向が注目される。
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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