2023年03月24日

ホワイト企業とは?-その定義と特徴について-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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(3)福利厚生制度が充実している
福利厚生が充実している企業もホワイト企業である可能性が高い。独立行政法人労働政策研究・研修機構(2020)によると、現在、実施している福利厚生施策の数を企業規模でみた場合、実施している福利厚生施策の数が「20以上」である企業の割合は、従業員数「300人以上」が40.6%で最も多く、次いで「100~299人」(18.6%)、「30~99人」(7.7%)、「30人未満」(4.0%)の順であることが明らかになった。
図表3 従業員規模別にみた「施策のある数」
また、福利厚生施策の数と従業員の定着状況について、この5 年間で「よくなった」(「よくなった」と「ややよくなった」の合計)と回答した企業の割合は、福利厚生施策の数が多い企業ほど高い傾向が出ている。さらに、企業業績との関係は、過去3年間のおおよその企業業績の傾向が「上向き」(「上向き」と「やや上向き」の合計)の企業ほど施策数が多い傾向が確認された。
図表4 「施策数」と従業員の定着状況(5 年間の変化)
以上の結果から他の条件が同じであるならば、福利厚生施策の数が多く、従業員の定着状況がよくなり、企業業績が上向きである従業員数「300人以上」の企業は、ホワイト企業に含まれる可能性が高いと考えられる。
(4)給与が平均より高く、安定した給与制度がある
給与が高いと業務量が多くなることもあるものの、他の条件が同じである場合、労働者にとっては給与が平均より高く、安定した給与制度がある企業ほどホワイト企業であると考えられる可能性が高い。

国税庁(2022)6によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与を事業所規模別にみると、従事員 10 人未満の事業所においては 358 万円となっているのに対し、従事員 5,000 人以上の事業所においては 515 万円となっており、事業所規模が大きいほど平均給与が高いという結果が得られた。また、資本金 2,000 万円未満の株式会社においては 381 万円となっているのに対し、資本金 10 億円以上の株式会社においては 616 万円となっており、資本金が多い企業ほど平均給与が高かった。一方、業種別には「電気・ガス・熱供給・水道業」が 766 万円で最も高く、最も低い「宿泊業,飲食サービス業」の 260 万円と大きな差があった。

また、厚生労働省の「令和3年度の未払賃金立替払事業の実施状況」を見ると、2021年度現在の立替払状況は、企業規模別には30人未満の企業が全体の88.4%を占めて最も高く、業種別には「製造業」(23.3%)、「商業」(21.8%)、「接客娯楽業」(12.5%)、「建設業」(11.0%)が上位4位を占めた(企業数基準)。 未払賃金立替払事業とは、企業倒産に伴い、賃金が支払われないまま退職を余儀なくされた労働者に対して、未払賃金の一部を国が事業主に代わり、立て替えて支払うものである。

以上の結果から他の条件が同じであるならば、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与が全体平均443万円より高い、従業員数「100~499人」、「500~599人」、「1000~4,999人」、「5000人以上」の企業、資本金「1億円以上~10億円未満」、「10億円以上」の企業、「複合サービス事業」、「建設業」、「製造業」、「学術研究,専門・技術サービス業,教育,学習支援業」、「情報通信業」、「金融業・保険業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」の企業はホワイト企業に含まれる可能性が高いと考えられる。また、安定した給与制度の側面からは従業員数が多く企業規模が大きい企業がホワイト企業になる可能性が高い。
図表5 事業所規模・資本金・業種別1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与
 
6 国税庁(2022)「令和3年分民間給与実態統計調査」

3――むすびにかえて

3――むすびにかえて

生産年齢人口の減少により将来の労働力不足が予想される中で、企業がホワイト企業を目指すことは将来の優秀な人材を確保する近道の1つであるだろう。企業は自社がホワイト企業であることを自ら証明する必要があり、そのためには本文でホワイト企業の特徴として挙げた「労働時間が短い」、「休暇が取りやすい」、「福利厚生制度が充実している」、「給与が平均より高く、安定した給与制度がある」等と関連したデータを可視化して公開することが大事だ。

日本政府が、2019年4月から「働き方改革関連法」(正式名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)を順次施行したことにより、法律が施行される前と比べて労働者の労働時間は減少し、有給休暇の取得日数も増加した。多くの企業が残業削減に取り組んだ結果であり、労働時間の減少だけを見ると日本企業の多くがホワイト企業になりやすい環境になったと言えるだろう。

しかしながら、残業削減に取り組んでいる企業であっても、残業が規制されただけで業務量が減っておらず、「隠れ残業」をしている労働者もまだ多い。特に、最近は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワークが普及したことに伴い、隠れ残業が生じやすくなっており、企業が公開する労働時間と実際の労働時間の間にギャップが発生する可能性もある。従って、企業は見せかけのホワイト企業にならないように固定業務を見直して労働者の負荷を減らす等の対策を講ずる必要がある。

また、労働者の処遇水準の改善にもより力を入れる必要がある。最近は物価上昇に対する対策として賃上げを実現する企業が増えたものの、海外の企業と比べると賃上げの水準はそれほど高くなく、賃金格差はますます広がっている。労働者の立場からは雇用の安定も重要であるが、賃金など処遇水準が高い企業をホワイト企業だと思い、選択する傾向が多い。従って企業としては投資を増やし、生産性を向上させ、海外企業との処遇水準の差を縮めないと多様で優秀な人材を確保することがいっそう難しくなるだろう。日本の企業がどのような形で社員が健康で生き生きと働くことができるホワイト企業を作って行くのか、今後の動きに注目したいところだ。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2023年03月24日「基礎研レポート」)

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