- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 雇用・人事管理 >
- ホワイト企業とは?-その定義と特徴について-
給与が高いと業務量が多くなることもあるものの、他の条件が同じである場合、労働者にとっては給与が平均より高く、安定した給与制度がある企業ほどホワイト企業であると考えられる可能性が高い。
国税庁(2022)6によると、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与を事業所規模別にみると、従事員 10 人未満の事業所においては 358 万円となっているのに対し、従事員 5,000 人以上の事業所においては 515 万円となっており、事業所規模が大きいほど平均給与が高いという結果が得られた。また、資本金 2,000 万円未満の株式会社においては 381 万円となっているのに対し、資本金 10 億円以上の株式会社においては 616 万円となっており、資本金が多い企業ほど平均給与が高かった。一方、業種別には「電気・ガス・熱供給・水道業」が 766 万円で最も高く、最も低い「宿泊業,飲食サービス業」の 260 万円と大きな差があった。
また、厚生労働省の「令和3年度の未払賃金立替払事業の実施状況」を見ると、2021年度現在の立替払状況は、企業規模別には30人未満の企業が全体の88.4%を占めて最も高く、業種別には「製造業」(23.3%)、「商業」(21.8%)、「接客娯楽業」(12.5%)、「建設業」(11.0%)が上位4位を占めた(企業数基準)。 未払賃金立替払事業とは、企業倒産に伴い、賃金が支払われないまま退職を余儀なくされた労働者に対して、未払賃金の一部を国が事業主に代わり、立て替えて支払うものである。
以上の結果から他の条件が同じであるならば、1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与が全体平均443万円より高い、従業員数「100~499人」、「500~599人」、「1000~4,999人」、「5000人以上」の企業、資本金「1億円以上~10億円未満」、「10億円以上」の企業、「複合サービス事業」、「建設業」、「製造業」、「学術研究,専門・技術サービス業,教育,学習支援業」、「情報通信業」、「金融業・保険業」、「電気・ガス・熱供給・水道業」の企業はホワイト企業に含まれる可能性が高いと考えられる。また、安定した給与制度の側面からは従業員数が多く企業規模が大きい企業がホワイト企業になる可能性が高い。
6 国税庁(2022)「令和3年分民間給与実態統計調査」
3――むすびにかえて
日本政府が、2019年4月から「働き方改革関連法」(正式名称は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)を順次施行したことにより、法律が施行される前と比べて労働者の労働時間は減少し、有給休暇の取得日数も増加した。多くの企業が残業削減に取り組んだ結果であり、労働時間の減少だけを見ると日本企業の多くがホワイト企業になりやすい環境になったと言えるだろう。
しかしながら、残業削減に取り組んでいる企業であっても、残業が規制されただけで業務量が減っておらず、「隠れ残業」をしている労働者もまだ多い。特に、最近は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワークが普及したことに伴い、隠れ残業が生じやすくなっており、企業が公開する労働時間と実際の労働時間の間にギャップが発生する可能性もある。従って、企業は見せかけのホワイト企業にならないように固定業務を見直して労働者の負荷を減らす等の対策を講ずる必要がある。
また、労働者の処遇水準の改善にもより力を入れる必要がある。最近は物価上昇に対する対策として賃上げを実現する企業が増えたものの、海外の企業と比べると賃上げの水準はそれほど高くなく、賃金格差はますます広がっている。労働者の立場からは雇用の安定も重要であるが、賃金など処遇水準が高い企業をホワイト企業だと思い、選択する傾向が多い。従って企業としては投資を増やし、生産性を向上させ、海外企業との処遇水準の差を縮めないと多様で優秀な人材を確保することがいっそう難しくなるだろう。日本の企業がどのような形で社員が健康で生き生きと働くことができるホワイト企業を作って行くのか、今後の動きに注目したいところだ。
このレポートの関連カテゴリ
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
(2023年03月24日「基礎研レポート」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年05月10日
米国消費者の生命保険ニーズギャップは過去最大-コロナ禍以降、ニーズギャップは拡大- -
2024年05月10日
英国金融政策(5月MPC公表)-6会合連続で政策金利据え置きを決定 -
2024年05月10日
米労働市場の減速は続くか-中小企業を中心に労働需要が低下するほか、移民増加が賃金上昇圧力を緩和する可能性 -
2024年05月10日
投資部門別売買動向(24年4月)~個人は2カ月連続買い越し~ -
2024年05月10日
Japan Real Estate Market Quarterly Review-First Quarter 2024
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【ホワイト企業とは?-その定義と特徴について-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ホワイト企業とは?-その定義と特徴について-のレポート Topへ