2023年03月09日

米国経済の見通し-足元で景気は12月予測時点から上振れ。金融引締めは長期化へ

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(設備投資)需要低下や金融環境の引締まりからマイナス成長へ
実質GDPにおける22年10-12月期の設備投資は前述のように前期から伸びが鈍化した。当期の設備投資のうち、建設投資が7期ぶりにプラスに転じたものの、需要低下に伴い設備機器投資がマイナスに転じたことが大きい。また、設備投資の先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は23年1月が年率▲0.3%(前月:▲0.3%)と2ヵ月連続でマイナスとなっており、設備投資は23年入り後にマイナス成長に転じた可能性を示唆している(図表12)。

一方、製造業の企業景況感を示すISM製造業指数は23年2月が47.7(前月:47.4)と6ヵ月ぶりに改善したものの、好不況の境となる50を4ヵ月連続で割り込んでおり、依然として製造業需要が低下していることを示している(図表13)。実際に、製造業指数のうち、新規受注は47.0(前月:42.5)とこちらも20年5月以来の水準に低下した前月から4ヵ月ぶりに改善したものの、50を6ヵ月連続で下回っており、回復は鈍い。

なお、2月はインフレに関連する支払価格指数が51.3(前月:44.5)と5ヵ月ぶりに50を超えてきており、足元で物価上昇圧力が高まっていることを示したことが特筆される。

設備投資は製造業で一部改善はみられるものの、引続き需要が低迷していることに加え、今後の金融環境の引締まりに伴う調達コストの増加などから、23年入り後には四半期ベースではマイナス成長に転じる可能性が高い。当研究所は実質GDPにおける設備投資(前年比)が22年の+3.8%から23年に+0.5%と大幅に低下するほか、24年も+0.4%と小幅なプラスに留まると予想する。
(図表12)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資/(図表13)ISM製造業指数
(住宅投資)住宅ローン金利の上昇から23年も住宅需要は低迷
実質GDPにおける住宅投資は、22年10-12月期まで7期連続のマイナス成長となるなど、住宅市場は不振が続いている。また、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比、年率)は23年1月が▲24.6%(前月:▲11.8%)と3ヵ月連続で2桁のマイナスとなった(図表14)。さらに、先行指標である住宅着工許可件数(同)は▲42.2%(前月:▲40.9%)と20年6月以来のマイナス幅に拡大しており、23年入り後も住宅投資は大幅なマイナス成長が継続している可能性が高い。

一方、住宅ローン金利は22年初の3.3%から10月下旬から11月上旬にかけて7.1%台に上昇した後、米国債金利の低下に伴い23年年初から1月下旬にかけて6%台前半まで低下した(図表15)。住宅ローン金利の低下に伴い、米国抵当銀行協会(MBA)の住宅購入と借り換えを合わせた住宅ローン申請件数は一時250台半ばと22年秋口の200近辺から底入れする兆しがみられた。しかしながら、足元で住宅ローン金利は米国債金利の上昇を背景に再び6.8%台近辺に上昇しており、住宅ローン申請件数は200近辺に低下している。

FRBによる金融引締めの長期化に伴い、今後も住宅ローン金利の上昇が見込まれるため、住宅需要の低下は続こう。当研究所は実質GDPにおける住宅投資(前年比)が22年の▲10.7%から23年は▲15.1%とマイナス幅が拡大した後、大幅なマイナス成長の反動に加え、金融緩和に転じることもあって24年は+2.3%とプラス成長を予想する。
(図表14)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表15)住宅ローン金利および住宅ローン申請件数
(政府支出、債務残高)ベースライン予測は財政赤字や債務残高の更なる増加を示唆
22年10月1日からの23年度予算の編成作業では、年度初までに本予算で合意できず、暫定予算で凌ぐ状況が続いていたが、議会は漸く年度末までの統合歳出法案で合意し、22年12月29日にバイデン大統領の署名を経て成立した。統合歳出予算法ではウクライナへの支援として470億ドル、米国内の災害対策費として380億ドルの拠出を含み裁量的経費の歳出規模が1兆6,460億ドル1となった。これは22年度に比べて+1,340億ドル(前年度比+8.8%)の増加となる。また、国防と非国防歳出額の内訳では国防関連が8,584億ドルと前年度比+762億ドル(同+9.7%)となったほか、非国防関連が7,874億ドルと前年度比+575億ドル(同+7.9%)となり、前年度から増加した。
(図表16)財政収支・債務残高見通し(ベースライン) この結果、23年度の統合歳出法を織り込んだ議会予算局(CBO)の財政収支見通しは23年度の財政赤字が▲1兆4,100億ドル(前年度:▲1兆3,750億ドル)、名目GDP比▲5.4%(前年度:▲5.5%)となり、新型コロナ関連の経済対策の期限切れに伴う歳出減少もあって、前年度から僅かに縮小することが見込まれている(図表16)。

一方、現行の予算関連法の継続を前提としたCBOによるベースライン予測では10年後の33年度の財政収支は▲2兆8,510億ドル(名目GDP比:▲7.3%)と財政赤字の大幅な拡大が見込まれている。また、債務残高も23年度見込みの25兆7,160億ドル(名目GDP比:98%)から33年度には46兆4,450億ドル(同:118%)まで大幅に増加することが見込まれている。このため、24年度の予算編成作業では大きな方向性として、財政赤字削減や債務残高の抑制方針が示されよう。

バイデン大統領は3月9日に24年度の予算教書を発表する。同予算案には歳出面ではインフレ削減法の審議過程で当初のビルドバックベター法案から削除された家計や教育、介護支援の扱いや、歳入面では企業や富裕層に対する課税強化策がどのように盛り込まれるのか注目される。もっとも、現議会がねじれ議会となったことで野党共和党の反対からバイデン政権が目指す政策の実現は困難だろう。

また、ねじれ議会により、今後米国経済が深刻な景気後退に陥った場合の迅速な経済対策の成立が見込み難いほか、前述の債務上限問題が金融市場の不安定化を通して米国経済にネガティブに影響する可能性が懸念される。

当研究所は実質GDPにおける政府支出(前年比)予想について、大幅な歳出や歳入は見込めないものの、経済対策効果の剥落からマイナスとなった22年の▲0.6%の反動もあって23年は+1.9%とプラス成長になった後、24年も+1.0%と小幅ながらプラス成長を維持すると予想する。
 
1 歳出規模等は責任ある連邦予算委員会の試算(23年2月3日)https://www.crfb.org/blogs/whats-fy-2023-omnibus-bill
(貿易)海外との成長率格差から23年以降、成長率寄与度は小幅なプラスが継続
実質GDPにおける22年10-12月期の外需は前述のとおり、成長押上げ要因となったが、輸出入の内訳をみると輸出が前期比年率▲1.6%(前期:+14.6%)と前期に2桁の伸びとなった反動もあってマイナスに転じたものの、輸入が▲4.2%(前期:▲7.3%)と輸出を上回る落ち込みとなったことで純輸出を押し上げた。輸出はウクライナ侵攻に伴う石油・石油製品の輸出が22年7-9月期に前期比年率+43.0%と大幅な伸びとなった反動で当期は▲1.0%と小幅ながらマイナスに転じたことが大きい。

先日発表された23年1月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は季節調整済で653億ドル(前月:683億ドル)の赤字となり、前月から赤字幅が▲30億ドル縮小した(図表17)。輸出入では輸入が▲27億ドル減少したほか、輸出が+3億ドル増加しており、23年入り後も主に輸入の減少が貿易赤字を縮小させる動きが続いている。

一方、IMFの見通しに基づく米国の輸出相手国上位10ヵ国の平均成長率は、23年と24年ともに輸出相手国の成長率が当研究所の米国成長率見通しを上回るとみられる(図表18)。このため、海外との成長格差から、純輸出の成長率寄与度は23年以降も小幅ながらプラスが続く可能性が高いとみられる。

当研究所は外需の成長率寄与度について、22年の▲0.6%ポイントから23年は+0.7%ポイントとプラスに転じるほか、24年も+0.2%ポイントとプラス寄与を予想する。
(図表17)貿易収支(財・サービス)/(図表18)米国の輸出相手国の成長率と外需の成長率寄与度
なお、バイデン大統領の対中関税政策については一時インフレ抑制の観点から一部を削減することなどの見直しが議論されたが、現状で政策の見直しは行われていない。バイデン政権が今後どのような方針を示すか注目される。

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)24年にかけて低下予想も労働需給次第で低下が緩慢に留まる可能性
CPI(前年同月比)は前述のように総合指数の低下基調が持続しているものの、低下スピードが鈍化している(前掲図表4)。CPIの内訳をみると、食料品とコア財価格では低下基調が持続した(図表19)。とくに、コア財価格は供給制約の解消に伴い価格上昇圧力が緩和している。実際に、輸送コストやPMIなどからニューヨーク連銀が推計する世界サプライチェーン圧力指数が過去からの標準偏差で▲0.3と過去平均を下回る水準に低下しており、世界のサプライチェーンからみた供給制約はほぼ解消されたとみられる(図表20)。

一方、エネルギーは23年入り後のガソリン価格の上昇もあって、+8.7%(前月:+7.3%)と7ヵ月ぶりに上昇に転じた。また、コアサービス価格も住居費の上昇に歯止めがかかっていないことから、+7.2%(+7.0%)と82年8月以来の水準となるなど、物価を押し上げる状況が続いている。もっとも、コアサービス価格のうち、住居費については足元で住宅価格の上昇が大幅に鈍化しているほか、家賃の上昇も鈍化していることから、比較的早期のピークアウトが見込まれる。

また、コアサービス価格のうち、住居費を除いた部分についてはサービス業を中心に賃金との連動性が高い。前述のように足元で労働需給が逼迫しており、FRBによる大幅な金融引締めにもかかわらず、労働需給の逼迫が長期化する場合には賃金の高止まりを通じて、コアサービス価格(除く住居費)の低下が緩慢に留まる可能性もあろう。
(図表19)CPI内訳(前年同月比)/(図表20)世界サプライチェーン圧力指数
当研究所は、足元の堅調な景気状況を反映して、当面はインフレの高止まりが見込まれるものの、その後は前年同月比でみたエネルギーや食料品価格の伸び鈍化や供給制約の解消、住居費や賃金上昇率の低下から、24年末にかけてインフレの緩やかな低下を予想する。CPIの総合指数(前年比)は22年の+8.0%から23年は+4.2%、24年は+2.5%に低下すると予想する。もっとも、前述のようにインフレ見通しには上振れリスクがある。
(金融政策)政策金利は23年末が5.75%、24年末が4.5%を予想
FRBはインフレ抑制のために22年3月から政策金利の引上げを開始し、6月から11月にかけてFOMCの4会合連続で0.75%引上げた。その後は12月に0.5%、23年2月に0.25%と2会合連続で利上げ幅を縮小させている(図表21)。また、バランスシート政策については22年6月に量的引締めを開始し、9月以降は米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合わせて950億ドルのペースで残高を縮小させている。
(図表21)CE価格、失業率、政策金利およびFOMC参加者見通し 一方、23年3月7日に行われたパウエルFRB議長による上院銀行委員会での議会証言で、同議長は足元の堅調な経済指標やインフレ指標の高止まりを受けて、次回3月会合後に発表されるFOMC参加者の政策金利見通しが上方修正される可能性が高いことを指摘した。前回発表(22年12月)の政策金利見通し(中央値)は23年末で5.1%となっている(図表21)。

また、同議長は3月の利上げ幅についても今後のデータ次第で2月会合の0.25%から拡大する可能性を示唆した。同議長の発言を受けて金融市場は本稿執筆時点(3月9日)で3月の0.5%の利上げ確率を6割超織り込んでいる。このため、金融市場の不安定化リスクを考えると、3月会合までに発表される雇用やCPIなどの指標が明確な減速を示さない限り0.5%の利上げ幅に拡大される可能性が高まった。

当研究所は3月会合で0.5%に利上げされると予想するものの、その後は経済の減速を示す指標や、インフレ上昇圧力の緩和を確認して、5月と6月にそれぞれ0.25%の利上げと3月から利上げ幅を縮小すると予想する。この結果、今般の利上げ局面における政策金利のピークは5.75%となろう。その後はインフレが物価目標を上回る中で23年内は政策金利を据え置こう。

FRBが利下げに転じる時期は、インフレ率がFRBの物価目標の達成が視野に入る水準に低下する24年3月を予想する。FRBはインフレ率の低下基調が持続する中、24年は合計▲1.25%ポイントの引下げを実施し、24年末の政策金利を4.5%まで低下させよう。

一方、バランスシート政策については、パウエル議長はこれまで金融政策の調整手段は一義的には政策金利としているため、バランスシートの縮小金額を機動的に調整する可能性は低いだろう。このため、当面FRBは月950億ドルの削減ペースを維持するとみられる。
(図表22)米国金利見通し (長期金利)23年10-12月期平均が3.8%、24年が同3.2%への低下を予想。
長期金利(10年金利)は、23年1月に発表された雇用統計やCPIが物価上昇圧力の低下を示したことを受けて、利上げ幅が縮小するとの見方が強まったこともあり、1月中旬に一時3.3%台に低下した(図表22)。しかし、2月に発表された雇用統計や個人消費が堅調となったほか、CPIもインフレの高止まりを示したことから金融引締めが長期化するとの見方が強まり、3月上旬に一時4%超の水準まで上昇、足元は4%近辺で推移している。

当研究所は、23年6月まで利上げが継続されることもあって、長期金利は23年4-6月期平均で4.1%まで上昇、その後はインフレ率の低下に加え、政策金利が据え置かれることから、低下基調に転じ、23年10-12月期平均で3.8%へ低下すると予想する。24年もインフレ率の低下が続くほか、金融緩和に転じることから、24年10-12月期平均で3.2%に低下すると予想する。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年03月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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