2023年02月02日

米FOMC(23年2月)-予想通り、利上げ幅を0.25%に縮小、利上げ継続方針を維持

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、0.25%の利上げ、利上げ継続方針を維持

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が1月31日-2月1日(現地時間)に開催された。FRBは政策金利の引上げ幅を前回会合(12月)の0.50%から0.25%に縮小させて、政策金利を4.50-4.75%に引き上げた。利上げ幅縮小は12月に次いで2会合連続。量的引締め政策の変更はなかった。

今回発表された声明文では景気判断部分でインフレに関して「幾分和らいだ」との表現が追加され小幅に下方修正された。景気見通し部分は一部の表現変更に留まった。一方、フォワードガイダンス部分では「目標レンジの継続的な引上げが適切」との表現が維持され、利上げ継続方針が確認された。もっとも、金融政策の決定に際して、金融政策の累積的な引締め、金融政策の時間差、経済・金融情勢を考慮する対象として従前の将来の目標レンジの「引上げペース」との表現から「引上げの程度」に変更されたことは今後の利上げ停止に向けた布石と考えられる。

今回の金融政策方針は前回会合に続いて全会一致での決定となった。

2.金融政策の評価:パウエル議長の記者会見を金融市場はハト派的と解釈

投票権を持つ複数のFOMC参加者が事前に示唆していたこともあり、政策金利の0.25%の引上げは予想通り。また、12月時点の政策金利見通し(中央値)で今年0.75%ポイントの引上げが示されていたことから、声明文で利上げ継続方針が維持されたのも予想通りだった。

パウエル議長の記者会見では、昨秋以降の金融環境の緩和がインフレ抑制を目指すFRBの金融引締めを減殺しているのではないかとの指摘に対して、金融環境の緩和を懸念する発言を行わなかった。12月会合の議事要旨では金融環境の緩和が金融引締め効果を減殺させることに対する懸念が明記されていたため、パウエル議長が懸念を示さなかったことは予想外で金融市場はハト派的と解釈し、長期金利の低下、株式市場の上昇と一段と金融環境を緩和させる方向で反応した。

当研究所は足元で金融環境は緩和しているものの、23年末時点でもインフレ率がFRBの物価目標を一定程度上回る水準に留まると予想しており、金融市場の年内利下げ予想は行き過ぎと考えており、今後金融環境は引締まり方向で修正されると予想している。本日のFOMC会合を踏まえて、FRBは3月と5月に政策金利の0.25%引上げを行い、その後は23年を通して政策金利を据え置くとのこれまでの見通しを維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを4.25-4.50%に引き上げることを決定(今回削除)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを4.50-4.75%に引き上げることを決定(今回追加)
  • 加えて、以前発表した計画通り、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(前回の「5月に公表された「連邦準備のバランスシート削減計画」」”the Plans for Reducing the Size of the Federal Reserve's Balance Sheet that were issued in May”から「以前発表した計画」”its previously announced plans”に表現変更)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率を長期的に2%に戻すために十分に抑制的な金融政策スタンスを達成するためには目標レンジの継続的な引上げが適切であろう(変更なし)
  • 将来の目標レンジの引上げの程度を決定する際、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する予定である(前回の「将来の目標レンジの引上げペース」“the pace of future increases in the target range”から「将来の目標レンジの引上げの程度」” the extent of future increases in the target range”に表現変更)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(前回の文中にあった「公衆衛生」”public health”が今回削除)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は消費と生産の緩やかな伸びを示している(変更なし)
  • 雇用の伸びはこの数ヵ月堅調で、失業率は低いままだ(変更なし)
  • インフレは幾分和らいだものの、高止まりしている(インフレの評価に関して、前回の「パンデミックに関連する需給不均衡、食料品とエネルギー価格の上昇、より広範な価格圧力を反映してインフレは高止まりしている」“Inflation remains elevated, reflecting supply and demand imbalances related to the pandemic, higher food and energy prices, and broader pressures”から今回は「インフレは幾分和らいだものの、高止まりしている」”Inflation has eased somewhat but remains elevated”と小幅下方修正)
 
(景気見通し)
  • ロシアの対ウクライナ戦争は、多大な人的および経済的困窮を引き起こし、世界的な不透明感の高まりを招いている(「世界的な不透明感の高まりを招いている」”and is contributing to elevated global uncertainty”の表現を追加し、下記の文章と統合)
  • 戦争とそれに関連する出来事は、インフレ上昇圧力の一因となっており、世界経済に重くのしかかっている(今回削除)
  • さらに、中国における新型コロナウイルス関連のロックダウンは、サプライチェーンの混乱を悪化させる可能性が高い(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 過去1年間、我々は金融政策スタンスを引締めるため、力強い行動をとってきた。これまでの急速な引締めの効果が十分に発揮されるのはこれからだ。それでも我々にはまだやるべきことがある。
    • 本日、FOMCは政策金利を25ベーシスポイント引上げた。我々はインフレ率を長期的に2%に戻すために十分に抑制的な金融スタンスを達成するために、継続的な引上げが適切であると引続き考えている。
    • 米国経済は昨年大幅に減速し、実質GDP(第4四半期の前年同期比)はトレンドを下回る1%の成長率となった。成長率の低下にもかかわらず、労働市場は極めてタイトである。労働需要は労働力の供給を大幅に上回っている。
    • インフレ率は、長期的な目標である2%を大幅に上回っている。過去3ヵ月のインフレデータは前月比で歓迎すべき低下を示している。最近の動向は心強いものだが、インフレが持続的な低下基調にあると確信するには、さらに多くの証拠が必要だ。
    • 金融引締めの累積、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差を考慮し、昨年の急激な利上げペースからのステップダウンを継続した。緩やかなペースに移行することで、委員会は目標に向けた経済の進捗を評価し、十分な制限的スタンスを達成するために必要な将来の引上げ幅を決定することが出来る。
 
  • 主な質疑応答
    • (昨秋以降の金融環境の緩和がインフレや政策金利に与える影響について)金融環境はこの1年間で非常に大きく引き締った。インフレ率を2%に引下げるために我々が実施している引締め政策を全体的な金融環境が引続き反映していることが重要だ。我々の焦点は短期的な動きではなく、より広範な金融情勢の持続的な変化であり、まだ十分に引締め的なスタンスではないと判断しているため、継続的な引上げが適切であると考えている。
    • (前四半期は物価、賃金、個人消費が減速した一方、失業率は歴史的な低水準を維持した。これにより、想定したインフレ率に低下するのに必要な失業率の上昇幅の見通しは変化したか)これまでみてきたインフレ率の低下が労働市場の弱体化を犠牲にして起きていないことは良いことだ。ただし、インフレ低下の動きは始まったばかりだ。財や住宅関連のサービス分野では良い兆候がみられるが、非住宅のサービス分野ではインフレ低下の兆候はみられていない。その分野の6割近くは労働市場の影響を受けやすく経済のたるみに敏感と考えられている。失業率の見通しは次回3月会合で見直す予定だ。
    • (12月会合以降の経済指標を踏まえて、12月会合時の政策金利見通しが依然として今後の最良の道標となっているか)3月に政策金利見通しを改定する。どの水準になるかは今後入手するデータ次第である。データによっては12月時点から高くなることもあるし、低くなることもある。ただし、政策金利の引上げが足りず、6ヵ月か12ヵ月後にインフレが戻ってきて期待インフレが不安定になってしまうことを非常に心配している。
    • (景気後退の可能性について)ほとんどの予測や自身の評価ではプラス成長は続くが、昨年と同様に控えめなペースになると考えている。世界情勢が少し良くなってきており、労働市場は依然として非常に好調だ。インフレが低下すればセンチメントも改善するだろう。また、州政府や地方自治体の財政に余裕があるため、減税を検討したり、小切手を送っているところも多いようだ。消費も旺盛だ。こうした要因が今年のプラス成長を後押しする可能性は十分にあるだろう。
    • (FRBの2回の追加利上げ見通しに対して、金融市場は1回の追加利上げの後、利下げを予想しており、乖離がある。これについてどう思うか)乖離については心配していない。乖離の要因は、市場はインフレが我々の予想より早く低下すると予想していることが大きい。インフレが我々の予想通りとなれば、年内に利下げをすることはないだろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年02月02日「経済・金融フラッシュ」)

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