2023年03月09日

米国経済の見通し-足元で景気は12月予測時点から上振れ。金融引締めは長期化へ

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)10‐12月期の成長率は2期連続のプラス、在庫投資と外需が成長率を大幅に押上げ
米国の22年10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+2.7%(前期:+3.2%)となり、2期連続のプラス成長となった(図表1、図表6)。

需要項目別では、在庫の成長率寄与度が+1.5%ポイント(前期:▲1.2%ポイント)、外需が+0.5%ポイント(前期:+2.9%ポイント)となって成長率を大幅に押し上げた。

もっとも、住宅投資が前期比年率▲25.9%(前期:▲27.1%)と前期に続いて大幅なマイナス成長となったほか、設備投資が+3.3%(前期:+6.2%)、個人消費が+1.4%(前期:+2.3%)と前期から伸びが鈍化した。この結果、民間需要を示す民間国内最終需要が+0.1%(前期:+1.1%)に留まり、FRBによる大幅な金融引締めに伴う民間需要の低下が示された。このため、表面的な成長率が示すほど、実体経済は堅調でないことを示唆している。

一方、23年に入って雇用や個人消費など景気モメンタムの強さを示す指標が増えている。実際に、1月の雇用統計は非農業部門雇用者数が前月比+51.7万人(前月:+26.0万人)となり、前月から大幅に伸びが加速したほか、鈍化を見込んだ市場予想の+18.8万人のおよそ3倍の増加幅となった(図表2)。さらに、失業率も3.4%(前月:3.5%)と前月から▲0.1%ポイント低下し、69年5月以来の水準となるなど、労働需給が非常に逼迫していることを示した。このように、1月は労働市場の回復が加速する結果となった。

また、実質個人消費(前月比)も22年11月と12月にそれぞれ▲0.3%と2ヵ月連続で減少し、年末にかけて減速したが、1月が+1.1%と22年4月以来の大幅な増加となり、23年入り後の大幅な回復を示した(図表3)。

雇用、個人消費ともに娯楽サービスなどが好調であったことから、好調の要因として1月が暖冬となった影響が指摘されている。もっとも、後述するように消費者センチメントや企業景況感なども1月の回復を示しているため、季節要因だけでは説明し難く、23年入り後に実際に景気モメンタムが強まった可能性が高い。
(図表2)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表3)実質個人消費(前月比)
一方、景気モメンタムが強まる中、インフレは高止まりの兆候を示している。消費者物価指数(CPI)は、23年1月の総合指数が前年同月比+6.4%となり、22年6月の+9.1%から7カ月連続で低下した(図表4)。もっとも、1月は前年同月比の前月からの低下幅が僅か▲0.1%ポイントに留まったほか、前月比や3ヵ月前比はそれぞれ年率+6.4%(前月:+1.6%)、+3.5%(前月:+3.3%)と前月から伸びが加速しており、足元でインフレは高止まりしている。

また、株式、信用スプレッド、為替、金利などの金融市場の動向を示す金融環境指数は、昨秋から年末にかけてはCPIの低下に伴い、一時期23年後半の利下げなど、金融緩和政策への早期転換を織り込んで緩和の動きがみられた(図表5)。しかしながら、23入り後に多くの経済指標が上振れしたほか、足元でインフレが高止まっていることから、23年後半の利下げ観測が修正され、金融引締めが長期化するとの見方が強まっており、23年2月以降は金融環境の引締まりの動きがみられる。
(図表4)CPI伸び率(期間別)/(図表5)米国金融環境指数
(経済見通し)成長率は23年が前年比+0.7%、24年が+1.1%を予想
昨年12月の予測時点と同様、今後のインフレや金融政策の動向が見通し難い中で、米国経済見通しは引き続き非常に不透明である。当研究所は足元の米国経済は堅調を維持しており、景気後退に陥る兆候はみられていないものの、23年6月にかけて金融引締めの継続を見込んでおり、これまでの累積的な金融引締めの影響から民間需要が低下し、実質GDP成長率(前期比年率)は、23年4-6月期から7-9月期にかけて2期連続でマイナスとなるなど、米国経済は4-6月期にマイルドな景気後退に陥ると予想する(図表6)。通年では23年の成長率(前年比)が+0.7%と22年の+2.1%から大幅に低下しよう。22年12月予測時点では23年初からの景気後退を予想していたが、足元の経済状況が上振れしていることを踏まえて、景気後退時期を1四半期後ズレさせた。また、前述のように足元で景気後退の兆候は未だみられておらず、FRBの積極的な金融引締めによっても米国経済は予想外に堅調を維持しているため、景気後退時期がさらに後ズレすることや景気後退リスクが低下している可能性は否定できない。

しかしながら、FRBはインフレ抑制のためには労働需給を緩和させて、賃金上昇率を低下させることを目指しており、FRBの金融引締め姿勢からは今後の米国経済の景気減速は不可避と考えられる。金融市場の一部には堅調な経済状況を維持したまま、インフレ率が低下する「ノーランディングシナリオ」を織り込む動きがみられているが、景気減速を伴わずにインフレ率が低下する可能性は低い。このため、堅調な経済状況が想定以上に長期化する場合にはFRBによる金融引締めが長期化し、その後の景気後退がより深刻化しよう。

一方、政策金利の引上げが停止される23年7月以降は金融環境が緩和することが見込まれ、23年10-12月期以降は成長率がプラスに転じるほか、FRBが利下げを開始することもあって、24年は景気回復に転じると予想する。もっとも、24年の成長率(前年比)+1.1%と潜在成長率(1%台後半)を下回る水準に留まろう。

物価は、足元の堅調な経済状況を反映して当面はインフレの高止まりが見込まれるものの、その後は前年同月比でみたエネルギーや食料品価格の伸び鈍化や供給制約の解消、住居費や賃金上昇率の低下から、24年末にかけてインフレ率の緩やかな低下を予想する。当研究所はCPIの総合指数が22年の+8.1%から23年が+4.2%、24年が+2.5%へ低下すると予想する。もっとも、ウクライナ侵攻に伴うエネルギー、食料品価格の動向が不透明なほか、労働需給の逼迫に伴い賃金上昇率が高止まりする可能性があるため、インフレ見通しには上振れリスクがある。

金融政策は、FRBが23年3月に0.5%引上げた後、6月までの2会合でそれぞれ0.25%の利上げを実施し、政策金利を5.75%まで引上げると予想する。その後、23年内は政策金利を据え置こう。

FRBが利下げに転じる時期は、24年3月を予想する。バランスシート政策は米国債とMBS債の合計で毎月950億ドルの減少ペースを23年内は維持しよう。

長期金利は利上げ継続を受けて、23年4-6月期平均で4.1%と足元(4%近辺)と同水準で推移することが見込まれるものの、その後はインフレ率の低下に加え、政策金利の据え置きもあって23年10-12月には同3.8%まで低下しよう。24年もインフレ率の低下が続くほか、金融緩和に転じることから24年10-12月に同3.2%までの低下を予想する。
(図表6)米国経済の見通し
上記見通しに対するリスクは、インフレ高進による政策金利の上振れと米国内政治が挙げられる。

ウクライナ侵攻の長期化により、エネルギー、食料品価格などが再び急騰することや、労働需給の逼迫が長期化し賃金が高止まりすることなどによってインフレ高進が長期化し、政策金利の引上げ幅拡大や金融引締め期間が長期化する場合には、これまでの累積的な金融引締めの影響もあって、需要が大幅に抑制されることで将来の深刻な景気後退リスクが高まろう。

一方、米国政治では23年初からの新議会では上院では与党民主党が過半数、下院では野党共和党が過半数となり、上下院で多数政党の異なるねじれ議会となっている。米国では法案を成立させるために上下両院で可決する必要あるため、野党の反対からバイデン政権が実現を目指す政策の実現は困難となった。また、深刻な景気後退に陥る場合にも与野党の対立に伴う政治機能不全から迅速な経済対策が策定される可能性も低いだろう。
(図表7)連邦法定債務上限および債務残高 さらに、23年前半の重要な政治課題として米国の法定債務上限引上げ問題が注目される。米国では連邦債務残高の上限が法律で定められており、現在は31.4兆ドルとなっている(図表7)。これに対して、債務上限の対象となる連邦債務残高は23年1月19日に債務上限に到達したため、財務省は議会が債務上限の引上げや債務上限不適用期限の延長で合意するまでの時間稼ぎとして、緊急避難的にデフォルトを回避する特別措置を発動した。同措置は早ければ7月にも期限切れとなることが見込まれており、連邦議会には期限までの対応が求められる。下院共和党は債務上限引上げの条件として歳出削減を要求しているのに対して、バイデン大統領は条件付きの債務上限引上げに対して拒否権を行使する姿勢を明確にしており、債務上限引上げの目途は立っていない。与野党ともにデフォルトを望んでおらず、最終的にはデフォルトが回避されるとみられるものの、与野党の対立先鋭化に伴い、デフォルトリスクが懸念される場合には金融市場が不安定化し、景気後退が見込まれる米国経済に対してさらなる追い打ちとなろう。

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(労働市場、個人消費)足元でモメンタムは強いものの、金融引締めに伴い減速へ
労働市場は、前述のように非農業部門雇用者数や失業率で23年1月に回復が加速した。また、23年1月の求人数は1,082万人(前月:1,123万人)と前月から低下したものの、新型コロナ流行前の700万人を大幅に上回っている(図表8)。また、求人数と失業数の比較では失業者1人に対して求人が1.9件(前月:2.0件)とこちらも前月から低下したものの、新型コロナ流行前の1.2件を大幅に上回っており、23年入り後も労働需要が非常に堅調であることを示した。

堅調な労働需要に対して、労働供給を示す労働参加率は23年1月が62.4%と、新型コロナ流行前(63.4%)を1%ポイント下回っており、労働供給の回復は遅れている(図表9)。

この結果、労働需給の逼迫を反映して、時間当たり賃金(前年同月比)は23年1月が+4.4%と22年3月の+5.9%をピークに低下基調が持続しているものの、依然として新型コロナ感染拡大前の3%近辺を大幅に上回っている。賃金・給与に加え、給付金も反映した雇用コスト指数も22年10-12月期が前年同期比+5.1%と新型コロナ流行前の2%台後半を大幅に上回っており、賃金の高止まりを示した。

FRBによる金融引締めの累積的な影響により、今後は労働需給の緩和が見込まれる。しかしながら、大幅な金融引締めにもかかわらず、労働需給の逼迫が長期化する場合には賃金やインフレが高止まりし、金融引締めが長期化する可能性がある。
(図表8)求人数および求人数/失業者数/(図表9)賃金上昇率および労働参加率
一方、個人消費に関連して消費者センチメントは、コンファレンスボードとミシガン大学の調査で、23年に入って前者が2ヵ月連続低下した一方、後者が3ヵ月連続改善するなどマチマチの動きとなっており、異なるサインを出している(図表10)。もっとも、両者ともに22年夏場につけた低水準から持ち直しているが、新型コロナ流行前を大幅に下回っているため、最悪期は脱したものの堅調な個人消費が持続するほど消費者センチメントは堅調とは言えない。

次に、高頻度データのクレジット・デビットカード支払い額は23年2月以降も概ね堅調を維持しており、個人消費が減速した兆候はみられない(図表11)。

足元で個人消費は堅調となっているものの、当研究所は金融環境の引締まりに加え、今後の労働市場の減速を受けて実質GDPにおける個人消費(前年比)は22年の+2.8%から23年は+1.1%、24年は+0.8%への減速を予想する。
(図表10)消費者センチメント/(図表11)クレジット・デビットカード支払い額(個人消費支出)
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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