2023年03月03日

資産形成、やってはいけないこと-FX取引、暗号資産、NFTに手を出してはいけない

金融研究部 研究員 熊 紫云

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3暗号資産(仮想通貨)
最近話題となっているビットコイン、イーサリアムなど暗号資産(仮想通貨)の取引についても少し考えてみよう。

ブロックチェーンという技術によって記録・管理されている4暗号資産は、銀行等の第三者を介することなく、インターネット上でやりとりできる財産的価値である5。将来的に暗号資産の信用力が高まって、幅広く使われるようになれば長期的に価値が上がる可能性もあるかもしれないが、現時点においては情報開示が不十分で、信用力も低く、経済的価値の算出が困難で、本質的な価値がわからないため、将来の価値がどうなるかも良く分からない。

暗号資産の取引はインカムも価値増加の仕組みもなく、基本的に長期でも短期でも需給関係だけで価格が決まるゼロサムゲームである。さらに、暗号資産の取引実行等をサポート(マイニング等)する作業者に報酬が支払われる仕組みがある。このような価値の流出や税金等を考えると、マイナスサムゲームであるとも言える。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は初心者でも大丈夫とインターネット上で幅広く宣伝されているが、筆者は普通の人が手を出してはいけないリスクが大きい投機商品であると考えている。
 
4 一般社団法人全国銀行協会HP(https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-g/9799/)を参考した。
5 日本銀行HP(https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/money/c27.htm)を参考した。
4美術品
美術品を所有することによってインカムは発生しないが、鑑賞する価値や所有する喜びがある。こうした魅力に加えて、美術品は将来的に値上がりするかもしれないが、株式投資と違って、将来の価値上昇を合理的に期待できるわけではない。美術専門家や専門業者であれば美術品に関する十分な情報や価値を見極める専門知識もあるだろうが、普通の一般人にとっては、本質的な価値を見極めることは難しいし、将来の価値上昇を合理的に予測することは更に難しい。また、株式など証券商品に比べて換金性もかなり劣る。

歴史的に知名度や人気が高いルノワールやゴッホ、ピカソなどのアーティストによる美術品であれば、既に安定的な経済的価値を持ち、信頼性のある実物資産と言えるかもしれないが、このような美術品は購入価格が極めて高く、一般の人はなかなか手を出せるものではない。また、美術商等の美術品専門業者でないと偽物を購入するリスクもあり、盗難、火災等による消失リスクもある。
 
目利きでない一般の人にとって、美術品とか、それと似たような宝飾品、腕時計等といった個別性の強い芸術系やコレクション系の資産の取引は、インカムがなく、将来に向かって価値が上昇するかどうかもわからないため、基本的に購入者と売却者の需給関係だけで価格が決まるゼロサムゲームであり、資産形成に向いていないと言える。
5NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)
暗号資産と同じくブロックチェーンによって記録・管理されているNFTは、画像、音声、映像などデジタルデータに紐づけられ、「唯一無二の資産」として取引されている。特に注目を集めているNFTデジタルアートは個別性が強く、物理空間における美術品等と同じ特性を持つと考えられる。NFTは、インカムがなく、普通の一般人にとって本質的な価値を見極めることが難しく、将来の価値がどうなるかわからない投機商品であり、資産形成に向いていない。
 
以上、説明してきたよう、ゼロサムゲームである投機取引をすると、参加者全員の持ち分合計が一定であるため、ある参加者の利益が、必ずその他の参加者の損になる。よほど自信がない限り勝ち続けることは難しく、長期的な資産の増加は期待できない。多くの参加者にとっては運しだいという側面が強く、長期的な資産形成としてはリスクが高すぎる。

尚、株式等の証券と異なって、暗号資産、美術品、NFTといった本質的な価値が良く分からず、将来の価値がどうなるか不明である投機商品を購入すると、大きな利益を獲得できるかもしれないが、良く分からないまま過大なリスクを背負ってしまう危険もある。インカムを定期的に受け取ることがなく、将来の価値が良く分からない、このような投機商品に資金を投入するのはどう見てもリスクが高すぎる。普通の人にとっての資産形成の手段としては、けっしてお勧めできない。

3――投資のプロやベテランでない限り、個別銘柄投資は資産形成に向いていない

3――投資のプロやベテランでない限り、個別銘柄投資は資産形成に向いていない

これまで、資産形成に向いていない投機に該当する取引や商品の具体例について見てきた。本章では、資産形成をする際に、プロでない限り、個別銘柄投資は資産形成に向いていないことを紹介したい。
 
例えば、株式の場合、個別株1銘柄に集中投資したら、会社業績が好調であれば大きな利益を得ることもできるが、会社業績が不調とかで倒産とかすると、株式価値がゼロになり、投資金額すべてを失うことになりかねない。よほどの株式投資のプロやベテランでない限り、個別銘柄投資のリスクは高く、資産形成に向いていない。

より効率的に資産形成をするために、複数の銘柄、投資先の国や地域を分散する方法である資産分散がとても大切である。一般の個人投資家であれば、プロにお金の運用を託して株式などに少額から手軽に分散投資できる投資信託という手段を活用すべきであろう。現行つみたてNISA、新NISA(つみたて投資枠)、確定拠出年金制度(企業型DC及び個人型のiDeCo)等の税制優遇諸制度に採用されているような投資信託であれば銘柄分散は十分できているので、こういう集中投資リスクは基本的にない。

不動産の場合においても分散投資は重要である。もし、ワンルームマンション1戸のみに投資すると、投資したマンションで入居者がいなくなり、家賃をもらえなくなり、管理費等のコストだけが発生する可能性がある。また、ワンルームマンション等の現物不動産は換金性も低いので、急ぎで多額の現金が必要な時に困るし、急いで売るために値段が下がったり、市況が悪い場合は売れなかったりする。さらに、不動産に関する金融知識や一定以上の大きな投資資金が求められるため、一般の個人投資家にはハードルが高く、効率的でない。やはり、不動産のプロでない一般投資家にとって少数のワンルームマンション投資はリスクが高すぎて資産形成には向いていない。

一般の個人投資家には、複数の物件に効率良く分散投資をする方法として、REIT(Real Estate Investment Trust不動産投資信託、以下、リート)投資がある。

図表4は日本におけるJリート投資を簡単に図示したものである。投資法人は優良な複数の不動産物件(オフィスビル、賃貸住宅、商業施設、物流施設、ホテル等)を証券化したものをJリートとして発行する。投資家は株式に相当するリートに投資することで、実質的に数多くの物件の入居者から費用等を引いた利益の大半を分配金として定期的に受け取ることができる。また、Jリートは投資法人が不動産の管理・運用を不動産のプロに委託している。物件の入れ替えを適宜に行ったり、管理の効率化を図ったりするなど、物件全体の価値が増加していく仕組みがある。
 
銘柄選択と分散投資に気を付けながら、投資商品を長期的に持ち続ければ、投資からのインカムや価値上昇で、将来の参加者全員の利益合計がプラスと十分期待できる。資産分散の他に、分散投資には時間分散があるが、このレポートでは詳述しないので、以下のレポートを参照してほしい。
 
2022年7月19日「老後のための資産形成-確定拠出年金等で老後のために何に投資したら良いの か?-外国株式型、国内株式型、バランス型、外国債券型と国内債券型でのパフォーマンス比較」  https://www.nli-reseArch.co.jp/report/detAil/id=71804?site=nli
【図表4】Jリ―ト

4――まとめ

4――まとめ

本レポートで、ギャンブル(賭け事)と投機は資産形成に向いていないこととその理由を説明してみた。

ギャンブルや宝くじは、参加者全員の持ち分合計が減っていき、利益合計が確実にマイナスなので、資産形成には全く向いていない。ギャンブル等はやはり娯楽として楽しむものなのだと思う。

株式のデイトレード、FX取引の短期売買等短期取引は参加者全員の持ち分合計が一定で、利益合計がゼロというゼロサムゲームで投機取引であり、資産形成には向いていない。

暗号資産(仮想通貨)、美術品、NFTなどはインカムを受け取ることもなく、一般人には本質的な価値が良く分からず、将来的な価値上昇を合理的に期待できる仕組みもなく、需給関係だけで価格が決まる投機商品に該当し、これも資産形成には向いていない。
 
投資は参加者全員の持ち分合計が増えていき、将来の利益合計がプラスになると合理的に期待できるものなので、長期の資産形成に向いている。債券、株式、不動産など投資商品にはインカムもしくは将来的な価値の増加を期待できる仕組みがある。

但し、投資のプロでない限り、個別銘柄投資は資産形成に向いていない。投資商品であっても、銘柄選択や分散投資に気を付けながら長期保有することがとても大切である。
 
以上をまとめてみると、資産形成に向いているのは、債券、株式、リート等の投資であり、分散投資や換金性を考えると投資信託を利用した証券投資が良いと思われる。株式のデイトレードやFX取引の短期売買、個別性が強い美術品や新しく市場に出てきた暗号資産(仮想通貨)、NFTなどは、資産形成に向いていない。普通の一般人は、こうした投機には手を出すべきではないと考える。
 
長期的な資産形成のためには、安心して投資できる商品が数多くある、現行つみたてNISA、新NISA(つみたて投資枠)、確定拠出年金制度(企業型DC及び個人型のiDeCo)等の税制優遇諸制度を積極的に活用すべきであろう。資産形成に向けて、少額でも良いので積立投資を始めるなど、なるべく早く準備を始めることが何より重要であると考えている。まずは実際に投資を始めてみてはどうだろうか。
【附表】まとめ
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2023年03月03日「基礎研レポート」)

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